ブラウンアウト
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デビスモンサン空軍基地付近の未舗装の滑走路でブラウンアウト状態を発生させているHC-130ハーキュリーズ2013年ヨルダンの砂漠で訓練中の英国第845海軍飛行隊所属のシーキングHC.4

ブラウンアウト(: brownout、brown-out)とは、飛行中に空中に舞い上がった砂塵により生じる視程障害である[1]。ブラウンアウト状態においては、パイロットが地表面近くで航空機をコントロールする際に必要な補助目標(近傍の物体)の視認が困難になる[2]。 このことは、空間識失調状態に陥り、状況把握ができなくなって事故が発生する要因となる[3]。 パイロットたちに言わせれば、ブラウンアウト状態で着陸することは、一方の目をつぶって車を縦列駐車するようなものなのである。
概説

ブラウンアウトは、乾燥した砂漠地域において、ヘリコプターが着陸および離陸する際に事故を引き起こす要因となる。地表面近くで、ヘリコプターのローターが発生するダウンウォッシュが巻き上げた強烈な砂埃により視界が遮られることは、航空機と地上障害物との衝突や、地形の傾斜や起伏によるダイナミック・ロールオーバーを引き起こす、重大な飛行安全上のリスクである。[4] 近年の軍事作戦においては、ブラウンアウトにより多数のヘリコプターが失われており、その数は、他の全ての原因によるものの総計よりも多くなっている(2005年現在)[5]

ブラウンアウトの発生および程度に影響を及ぼす要素には、いくつかのものがある。

ローターのディスク・ローディング(回転面荷重)

ローターの配置

土質



進入速度および角度

ブラウンアウトに起因する事故を防止するための対策としては、次のようなものがある。

降着地の整備

操縦士の技量の向上

(See and Rememberとして知られる)合成ビジョンの導入[6]

シンボル表示を改善した改良型HSI(horizontal situation indicato, 水平姿勢指示器)の装備[7]

アグスタ・ウェストランドEH101が装備する「ウィングド・ローター」のような空力学的処置[8]

TSAS(Tactile Situational Awareness Systems, 触覚状況把握システム)によるパイロットへの触覚器を用いた触覚による情報提供など、センサーから得られた位置および方向データの非視覚的な伝達

錯覚カリフォルニア州エル・セントロの近郊で行われた訓練中に、発生した巨大な砂塵に覆われて見えなくなった MV-22オスプレイ

砂塵が舞い上がると、水平線が傾いているという錯覚が生じる。パイロットは、飛行計器を参照していない場合、直感的に機体を間違った水平線に合わせようとし、事故を引き起こす可能性がある。ヘリコプターのダウンウォッシュにより砂がコックピット・ウィンドの外側を回ると、パイロットが視覚誘導性自己運動感覚に陥り、実際にはホバリング停止しているにもかかわらず、ヘリコプターが旋回していると錯覚する場合もある。この場合においても、誤った操縦が行われる可能性があり、地表面近くでホバリングしている場合には、事故の発生に直結しがちである[9]。 夜間着陸においては、ブラウンアウトの雲が航空機の灯火で照らされることにより、視覚的錯覚がさらに生じやすくなる[10]

アフガニスタンでは、砂塵によるローター摩耗が非常に多く確認されている[11]
アメリカ軍の教訓

1990年から91年の湾岸戦争の間、数機の多国籍軍の航空機が、砂塵環境下での着陸中に横転より損失した。その後も、不朽の自由作戦が終了するまでの間に、アメリカ陸軍においては、カリフォルニア州のフォート・アーウィン軍用地国家訓練センターなどで、ブラウンアウト状況下での事故が40件以上発生し続けた。1991年以降、砂塵環境下における離着陸の失敗に起因して、航空機が損傷または人員が負傷した航空事故が230件以上発生している。これらの事故の大半は着陸時に発生したものであるが、離陸時にもかなりの数の事故が発生している。2001年から2007年の間の陸軍軍事作戦間に報告された損傷には、50件以上のブラウンアウトに起因するものが含まれているが、そのうち80パーセントが着陸中に発生したものであり、20%が離陸中に発生したものであった[12]

ヘリコプターのブラウンアウトは、アフガニスタンおよびイラクにおけるアメリカ軍に、毎年1億ドルのコストをもたらした。陸軍は、アフガニスタンおよびイラクにおける事故の4件中3件がブラウンアウトによるものであったと指摘している[13]。 ブラウンアウトによる事故は、地表面に近いところで、低速飛行中に発生するため、他の事故に比べると生存率が高い。しかしながら、イラクおよびアフガニスタンにおける軍用機の事故においては死亡者が発生しており、それらの事故のほとんどが避けることのできたものであった[14]

2003年のイラクの侵攻における最初の3週間で、4機のAH-64Dアパッチ・ロングボウがブラウンアウトに起因する事故により損壊または大破したが、その間に戦闘で損耗したのは1機だけであった。座席が前後に配置されたアパッチは、UH-60ブラックホークに比較して横幅が狭く、パイロットがブラウンアウトによりロールの制御ができなくなった場合に横転しやすい傾向にある。ただし、夜間においては、砂塵が月明りを遮った場合においても、アパッチは赤外線暗視システムにより比較的視界を保つことができる。これに対し、ブラックホークのNVGは可視光を増幅することしかできない。[15]

CH-47チヌークのブラウンアウトに起因する事故も比較的頻度が高かった。2007年の時点で、アフガニスタンでは9機のチヌークが行動中に損失したが、少なくともそのうちの2件はブラウンアウトに起因するものであり、その他の数件の事故もその影響を受けていた可能性がある[16]。POGO(Project on Government Oversight, 政府監視プロジェクト)によれば、アメリカ陸軍における2002年から2005年かけての41件のブラウンアウトに起因する事故のうち、12件はCH-47によるものであった。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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