ブタ
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コンゴ民主共和国の町については「ブタ (コンゴ民主共和国)」をご覧ください。

野ブタ」はこの項目へ転送されています。小説テレビドラマ化されたメディアミックス作品については「野ブタ。をプロデュース」をご覧ください。

ブタ
ブタ
分類

ドメイン:真核生物 Eukaryota
:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:脊椎動物亜門 Vertebrata
:哺乳綱 Mammalia
:鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
亜目:イノシシ亜目 Suina
:イノシシ科 Suidae
:イノシシ属 Sus
:イノシシ S. scrofa
亜種:ブタ S. scrofa domesticus

学名
Sus scrofa domesticus
和名
ブタ
英名
Pig
仔豚に母乳を与える豚豚小屋で飼育されている放牧豚

ブタ(豚、学名: Sus scrofa domesticus、英語: pig)は、哺乳綱鯨偶蹄目イノシシ科動物で、イノシシ(猪、Sus scrofa)を家畜化したものである。主に食用(豚肉)とされる。

イノシシには広範囲の食性、多産、学習能力がとても高く凶暴さがない、人馴れしやすいといった家畜化に適した性質があり、これらの特性は豚にも色濃く残っている[1]
生物学的特徴

味覚と嗅覚は高度に発達しており、ブタの味蕾は人間の約3 - 4倍である。また、嗅覚を感知するための非常に洗練されたシステムを持ち、人間を含む他の種よりも多様な匂いを区別できる。ブタは機能的な嗅覚受容体遺伝子の数が犬よりも多い[2]。1987年旧西ドイツでは麻薬捜査豚が活躍したこともある[3]

聴覚は人と比べてそん色なく、高周波域においては人より優れる[3]。豚の視力は0.017-0.07とかなり低いが、小さな違いを識別するのではなく視野を広く持って周りを警戒することに重点を置いていると考えられる。豚が飼育者を識別したり子豚が母豚の乳頭の場所を探したりすることにも視力を活用する[3]。睡眠時間は約8時間と人と近い[4]

豚は雑食であり、入手可能なものに合わせて食餌を調整する。他の家畜と違って硬い鼻先と強大な背筋を備えており、野生のイノシシと同様、土中のや植物の球根を掘り返して食べる。200日齢(体重100kg)の豚のルーティング(鼻で地面を掘る)は73.3kgを持ち上げられるほどもある[5]。嗅覚が鋭敏なだけでなく鼻には触毛が生えており、触覚的にも鋭敏である。ルーティングはやみくもに掘っているのではなく、ここぞというところを掘る[3]。ルーティングだけでなく、地面の上や低木の植物を探索することもある。ブタにとって採餌のための探索は、本能的に強く動機づけられており、放牧環境下では一日に6-7時間ルーティングを行う[6]。市販の飼料を満腹に与えたとしても家畜豚は囲いの中で6 - 8時間かけて餌を探すことが指摘されている[7]

オスは強い背筋を生かせるよう上向きに生えており、人間のような丈の高い動物を敵と認識すると、突進して鼻先を股ぐらに突っ込み、頭部を持ち上げながら強くひねる。野生時代の名残ともいえるこの行動を「しゃくり」といい、まともにしゃくり上げられると大人でも数メートル飛ばされたり、で深く傷つけられたりする。太ももの内側を走る大腿動脈が傷つけられると、失血死するほどの大量出血を招くこともあり、日本で小規模養豚が多かった時代には、年に数人は、しゃくり上げによる死者が出ていた。

ヘビ毒の影響を受けないようニコチン性アセチルコリン受容体を突然変異させた知られうる4種の哺乳類の内の一つ[8]

ガツガツと食事を取る人物を指して「ブタのように食べる」と形容することがあるが、野生ブタの体脂肪率は13%(パーセント)ほど食用豚でも14 - 18%[9]にすぎない。また、清潔を好む生物であり、自然下では排泄をする場所と餌場や寝床は必ず分ける。一般に散らかっていて汚い部屋を「豚小屋」と呼んだり不潔な動物の代表のように誤解されているのは、養豚場の管理の不適切さによるものである[10][11]

社交性があり、広大な土地で群飼される放牧豚は、祖母・母・子などの母系集団で20-30ヘクタールもの範囲で行動し[12]、雄豚は生後1年ほどで群れから離れ小さな雄グループを作って行動したり単独行動したりする。本来なわばりを主張して他個体を外へ追い払うような動物ではないが、高密度で飼育される場合は、無駄な争いを避けるために闘争を起こし優劣関係を決定する。豚房が狭く逃げ場がない場合大きなストレスとなるが、個別飼育にすることも社会性のある豚にストレスとなる[13]
認知能力

知能が高く、IQ テストで犬やチンパンジーを上回るとされる[14]類人猿イルカゾウカササギヨウムに加えてブタも鏡の存在を認知できる「鏡映認知」が確認された数少ない動物である[15]。「お手」も「お座り」も簡単に覚え、テレビゲームもする。落ちている他の豚のトランスポンダーをくわえて給餌機に持っていき他の豚用の濃厚飼料を食べたりもする[12]

非常に個性豊かで、認知や情動、行動が非常に複雑。遊び好きな動物であり、追いかけっこのような社交遊びから、ボール運びなどの物遊びまで複雑な遊びに従事することが示されている。これらの遊びは子豚の時だけでなく成熟してから目新しいものを鼻で押して跳ね上げたりくわえたりの探査的な行動がみられる[16]。また、初歩的なビデオゲームをプレイすることもできる[17]。仲間への共感し、囚われたブタがいると解放するためにドアを開ける。囚われた仲間が悲鳴を上げた場合、解放する確率は高くなる[18]

友好的で社交的であると同時に繊細な生き物でもあり[19]、養豚業において体重を計る作業時には、ストレスで豚の体重が1キログラムも減ってしまうことがある[20]。記憶力もよいことから粗暴な扱いを受けることで学習し、人に対して恐怖心を抱くようになる。放牧養豚では自由に行動できることで心理状態がポジティブになり、人と接触機会がなかったとしても人に対して友好になり良好な関係を築く[21]国内で舎飼いされている豚

嗅覚と聴覚を使って、同種を識別し、自分の子と他の子を区別する。他のブタの感情に敏感に反応し、共感することも分かっている[19]。また、人間の笑顔と中立的な表情の違いを見分けることができ、なじみのある人間となじみのない人間を区別することができる[22]

ヒトと多くの認知能力を共有し[14]、同じように様々な感情を経験し、ポジティブな状況とネガティブな状況によって発声に明らかな違いを示す。ブタには音楽の好みがあり[23]、2022年に発表された研究によると、ブタが複数の種類の音楽に対して異なる方法で反応し、さまざまな感情に精通する[24][25]。ペットとして飼われていたブタが、心臓発作を起こした飼い主のために、道路に出て横たわり助けを求めた事例がある[26]
ヒトとの近似性

ブタは類人猿以上に体重皮膚の状態、内臓の大きさなどが人間に近い動物である。そのため現在では異種間移植の臓器提供用動物として研究が行われている[27][28]。大学の医療系学部・学科では解剖学の実習において生体解剖に利用されている。また、豚はこれまでの新型インフルエンザパンデミック(ヒト間感染症の世界的流行)の中間宿主とも考えられており、豚はヒトのパンデミックの5分の1に関与している[29]
体温調整

汗線が極めて少なく、暑さに弱いため、飼育の際には水をかけたり[30]、泥浴び(英語版)が行われる[31]
鳴き声

ブタの鳴き声は、日本語では「ブー」「ブヒッ」などと表現されるが、英語では「oink(オインク)」と表記され、中国語での漢字では「嗷(アオ ao)」などが使われる。
人間による利用豚の食用部位。1.豚の頭(ドイツ語版)、2.豚ほほ肉(ドイツ語版)、2?3.豚首肉(トントロ、ピートロ)、3.ラード(豚脂、Fatback)、4.豚肩ロース(英語版)、7.豚ロース肉、8.豚ヒレ肉(英語版)、9.豚バラ肉、12.豚もも肉、13.豚すね肉、14.豚足、15.豚テール

豚肉や脂肪を食用とする他、皮革などを利用するために多くの国で飼育されている。

ブタを数える際の単位(数量詞)は、頭または匹と、かなりあいまいである。同じ新聞で、ブタに関することで発行された記事においても、頭と表現した例と、匹と表現した例がある。
食材
Category:豚肉料理」および「豚肉」も参照豚肉は食材として広く食べられている。血液も沖縄のチーイリチー、欧州のブラッドソーセージなど多くの料理に使用される。その他、骨や骨髄がスープの材料にされる。沖縄県では「鳴き声以外は全部食べる」と言われる[32][注 1]など、豚の利用箇所は多い。豚乳が利用されることは少なく、商業生産はほとんどない。搾乳時期の雌豚は人が近くにいると怒り、搾乳自体も嫌がり、取れても少量であるためである。一方で、ユダヤ教イスラム教圏においては豚肉食は禁忌とされ、豚由来成分を含むものも忌避される[33]

豚テール(ポークテール、豚尻尾)

豚の耳(英語版)

豚の皮 - ポーク・スクラッチング、テジコプテギ

豚の頭(ドイツ語版)‐ フロマージュ・ド・テート、Sabodet(フランス語版)

チラガー(ドイツ語版)(沖縄で食用とされる豚の頭の皮、ドイツなどでも食用となる。)


皮革
豚革はピッグスキンとして衣類や靴に利用されている[34]。ブタの皮革の特徴は体毛が3本ずつまとまって真皮にまで貫通している構造となっていることで、通気性に優れ、表面に独特の凹凸がみられる[34]。薄くて耐久性があるが部位による組織密度の差が大きい(背部は特に高密度といわれている)[34]
肥料
豚の排泄物を豚糞(豚ぷん)と呼び、豚ぷん堆肥に使用される。日本においては、仏教の影響で肉食禁止であったことから江戸時代ごろまで畜産の歴史はなかったが、江戸時代の医者橘南谿の残した紀行文『東西遊記』のなかで薩摩藩(鹿児島県)で肥料のために飼育していることが書かれている。
嗅覚の利用
高級食材で知られるトリュフを掘り起こすのに、かつてはメスブタが使われていた。トリュフにはオスブタの持つフェロモンと同じ成分が含まれており、トリュフの匂いを嗅ぎつけ興奮したメスブタが掘り返すのである。訓練いらずで使役できる利点があるが、雑食性のブタはトリュフを食べてしまうことも多いため、食べないイヌを訓練して用いるようになってきた。アメリカなどで犬より長い20年を生き、犬より飼うのに費用がかからず優れた嗅覚と知能をもつことから警察犬麻薬探知犬の代わりに使われることがある[35]
実験動物
人間と生物学的、生理学的、解剖学的に類似している部分が多く、重要なモデル生物として、1960年代以降動物実験利用が目立っている[36][37]臓器移植は同種以上に難しい異種移植拒絶反応があるが[38]、遺伝子操作により拒絶反応を押さえたブタが開発されている[28]
軍事利用(英語版)
古代ヨーロッパで動物兵器として使用されていた。
その他の利用


アメリカの砂漠地帯では除けのためにブタを飼っている家もある。

オセアニアではブタの牙を切らずに飼っている例が多い。牙が伸び、湾曲して円形になったものは、アクセサリーや貨幣として用いられることもある。

ブタが動物の排泄物を食べることから、人間用トイレの下にブタを飼う豚便所も使用された。また、生ごみなどを食べるため、中世フランスでは町中に放ってゴミ掃除をさせた。

豚の毛は、ブラシなどに使用される。

根を掘り返して食べ、採食、踏み倒しにて除草になるとともに耕す効果を期待する例がある[39][40]

養豚

家畜としてブタを飼育することを養豚といい、仕事としての養豚を養豚業、また養豚業に従事する人々のことを養豚業者という。ウシウマヒツジヤギといった家畜は原種が絶滅、またはかなり減少してしまっているが、ブタは原種であるイノシシが絶滅せず生息数も多いまま現存しているという点が特徴的である。免疫力が強く、抵抗性だけでなく環境への適応性にも富んでいるため飼育は容易である[注 2]
抗生物質

抗生物質は、ストレスによる呼吸器系、腸系、生殖器系の病気の予防・治療のために飼料添加や注射などで投与される。また人工授精用精液の細菌増力防止としても使用される[41]。去勢や断尾、強制離乳など、豚の幼少期にはストレスの高い管理が行われることが多く、子豚が最も抗生物質が使用される年齢層となっている[42]

養鶏と比べ、養豚は抗生物質の使用量が高い[43][44]。イギリスの調査は、同国内スーパーマーケットの豚肉の10%が薬剤耐性菌に感染していると報告する[45]。現代の集約養豚システムにおける高い飼育密度は、豚をストレスや病原体、呼吸器系疾患リスクにさらしており、その結果、2030 年までに農場での抗生物質の使用は 11.5% 増加すると推定されている[42]
飼育数

ブタの飼育数(百万頭)(2022年4月時点)[46]国名2020年2015年2010年2005年
中国406.5471.6467.7421.2
アメリカ合衆国77.368.964.961.0
ブラジル41.139.839.034.1
ドイツ26.127.726.526.9
 ベトナム22.027.827.427.4
スペイン32.828.425.724.9
ロシア25.219.517.213.7
メキシコ18.816.415.415.2
フランス13.713.214.314.9
カナダ14.013.212.514.8
オランダ11.512.612.311.2
 デンマーク13.412.513.213.5
フィリピン12.812.013.412.1
ポーランド11.711.615.218.1
ミャンマー19.215.19.45.7
韓国11.110.29.99.0
日本9.19.49.89.6
インド8.99.910.612.3
イタリア8.58.79.29.0
インドネシア9.17.87.56.8
世界計952.6992.1971.1904.4

家畜豚のライフサイクル

種付け用の種雄豚は生後8 - 9か月、体重130kg(キログラム)を目安に交配が可能となり、5 - 8年間繁殖に用いられる。交配は自然交配か、雄豚から採取した精液による人工授精がある。繁殖用の雌豚は生後8か月齢、体重120 - 130kgから交配が開始される。妊娠期間は114日前後で授乳は21 - 35日、年に2.3 - 2.5回の分娩が可能。問題がなければ一生の内に10回以上の分娩が可能である。肉豚(肥育豚)は出生後5 - 6か月、100 - 110kgで食用とされる[47]
種雄豚

繁殖用の種雄豚は、8年前後、種付けに用いられた後に廃用となり屠殺される[47]。雄臭が強いため、主に皮革や肥料などとして利用される。
母豚分娩ストールで飼育される母豚

繁殖候補として選ばれた子取り用雌豚(繁殖用雌豚)は管理しやすいように妊娠ストールと呼ばれる檻(ストール)の中で飼育される(日本の農場では91.6%で妊娠ストールが使われている[48])。ストールの面積は1頭当たり1平方メートル前後である[49]。妊娠ストールは国によっては使用が規制されている[50]。詳細は「妊娠ストール」および「妊娠ストール#各国における妊娠ストールの規制状況」を参照

個体識別繁殖の管理のため、母豚は耳刻や入墨、耳標が入れられる。母豚は、生後8か月で初めて交配される。豚は自然交配の方が受胎率が高いことから、人工授精率が牛に比べて低い。牛の人工授精率99%に対し、豚は40%程度である[51]。祖先種のイノシシは2年目にならないと繁殖しないが、豚は8か月齢で人工交配される[52]分娩ストールの内部 母豚は鉄柵の中に拘束され、哺乳子豚は鉄柵の隙間から母豚の乳を吸う

妊娠した母豚は、約114日の妊娠期間を経て、1回につき十数頭の子豚を産む。祖先種のイノシシはの一年間の出産数は5頭弱であるが[53]、多産母豚系統の育種により、産子数は大幅に増加しており、豚は1年2-2.5産で20-30頭を出産する[52]。この産子数の増加は、養豚業界にとって経済的なメリットがある一方、動物福祉の懸念が指摘される。すなわち一腹あたりの子豚数の増加による分娩の長期化がもたらす母豚の苦痛とストレス、死産子豚の増加、子豚の低体重と活力の低下[54]である。乳頭はイノシシで5-6対。豚は7対であり、産子数の増加に対して十分ではない[52]。子豚の低体重は世界中で一般的になりつつあり、出生時の体重が 1 kg 未満の子豚は 15% であると推定されている[55]

母豚は、妊娠期間中は妊娠ストールに、そして出産の少し前から子豚を離乳させる生後21日前後までの間は分娩ストールに収容される。

分娩ストールは、母豚の行動を制限し、妊娠ストール同様転回はできない。分娩ストールは、子豚の圧死を防ぐ目的から分娩柵が両側に取り付けられた檻のことで、子豚はこの分娩柵の間から母豚の乳を飲む。分娩ストールでは母豚と子豚がコミュニケーションを取れる機会はほとんどなく、母豚と子豚の相互作用が損なわれることで、異常行動の発生につながる[56]。自然下では分娩が近づくと、物陰など分娩するのに適切な場所を探して鼻で土を堀り、藁や草などの材料を運び込んで巣作りを行う。養豚場ではそれができず、分娩前日になると、藁などの巣作り材料がないにもかかわらず、母豚は口や鼻を使って巣作りの真似事をする[57]。これは真空行動という葛藤行動の一つであり、巣作りが母豚の内的に強く動機づけられていることを意味する[58]

分娩ストールも妊娠ストール同様に動物福祉を阻害するため、スウェーデン、スイス、ノルウェーは、分娩ストールを禁止している[59]。また、オーストリアとドイツでは、分娩後 5 日間程度以降の分娩ストールを段階的に廃止する[60]。日本では禁止されておらず、分娩ストールの使用が一般的である。子豚の圧死を防ぐという目的で使用される分娩ストールであるが、研究では、適切な環境を用意すれば分娩ストールを使わなくても圧死を防ぐことが可能だとされる[61]。圧死の要因として、育種による大型化もある。母豚は大型化した自分の体をうまくコントロールできないことがあり、体を横たえる時はある程度まで体が傾くとドスンとそのまま倒れる。そのため子豚が圧死するリスクとなるとも言われる[62]

母豚での跛行率は高く、最大48%にのぼり[63]、蔓延率は8 - 16%の間とされている。15%の母豚が跛行が原因で淘汰されており[64]、アメリカでは跛行は母豚淘汰の3番目に多い理由としてランク付けされている[65]。原因としてはストールという拘束飼育による運動不足が挙げられる。しかし問題は育種と考えられている。イノシシは体重が90kgに達するのに1年以上要するが、育種の結果、豚は半年で100kgを超える。この増体を目的とした育種による骨形成不全(肢や関節の変形)が主因と考えられている[52][66]。跛行は生産性へも負の要素となる[67]。跛行の他、母豚の死の一般的な原因は、突然死、内臓脱出(子宮脱、膣脱、直腸脱)とされる[68]。内臓脱出の割合は高く、一部の農場では雌豚の死亡の25?50%を占めるとも言われる。妊娠ストール飼育は内臓脱出の要因とも言われる[69][70]

分娩後、母豚は自分の子豚を体臭などにより明確に識別して世話をする[71]。子豚への21日前後の哺乳期間を経た後、交配用の豚舎に移動させられ、次の交配が行われる。横断的な研究によると、5産次までに淘汰される母豚は50%[72]。一般的に2年間で4 - 6産し、繁殖用として役目を終えた雌豚(平均3歳)は、「飼い直し」をしても肉質の向上が見られないため、廃用となり屠殺される。その肉はソーセージなどの加工品に利用されることが多い[73]
新生子豚?肥育豚

産まれたばかりの子豚(新生子豚)は皮下脂肪が他の動物種に比べて薄く被毛も少ないので寒さに弱いため、保温が必要になる[74]。自然環境では、子豚の離乳は生後17週目ころに完了するが、現代の集約養豚では、子豚は生後21日齢ごろに人為的に母豚から離乳される[75][76][77]欧州連合(EU)のように、動物福祉への配慮から、離乳時期を28日齢以降と制限している地域もある[78]。早期離乳は子豚への大きなストレスとなり、下痢が増加する要因[79]にもなるため、離乳時期については再検討することが求められている[80]。近年、子豚の死亡率は、平均で15%から20%まで変動している[81]

離乳後、肥育豚として主に配合飼料を給餌し、豚舎内で群飼肥育される。成熟した豚は皮下脂肪が厚くなる。また豚の汗腺は未発達のため肥育豚は暑さに弱い。高温下では、摂食量を減らしたり、呼吸数を増やしたり冷たいコンクリート床に体を横たえたりして放熱量を増加させる。泥場でぬた打ちして体を冷やすという祖先種イノシシの習性を豚も持つが、飼育下では泥場がないため、糞尿を代わりにぬた打ちする[82]

豚の寿命は10年から15年ほどだが、食用豚は6 - 7か月で105 - 110kg程度に仕上げられ、屠殺される。屠殺される豚の大半に胃潰瘍が認められるが、ストレスが大きな要因となっている[83]
子豚への外科的処置

歯切り


新生子豚には8本の犬歯と切歯が生えており
[84]、母豚の乳頭の取り合いをする際に、他の子豚や母豚の乳房を傷つける可能性がある。また、母豚が乳頭を噛まれ授乳を拒否したり、急に立ち上がって子豚のけがや圧死の原因となったりする可能性もある。歯切りは、このような事故等を防止するための手段の一つと考えられている[85]。ただし、屋外放牧を行ったり、密飼いを避けるなどの、ストレスのない環境下では、歯の切断をしなくても損傷が起こらなかったり、かみつく行動が減ったりする[86]。研究では、歯切りの有無が、母豚乳房や同腹子豚への損傷や子豚の増体に影響せず、歯切りの必要性は認められないと結論付けている[87]

歯切は、子豚に、神経感染症や出血、骨折等の痛みを引き起こすことが知られる[88]。そのため、欧州連合(EU)では歯の切断を日常的に行うことを禁止しており、デンマーク、ノルウェーでは歯の切断自体を禁止している[89]

日本国内での法規制はなく[90]、日本の農家の63.6%が歯切りを実施しており、そのうち8割はほぼ根元から切断されている[91]。歯切りは通常生後7日以内に無麻酔で行われる。また、その道具として日本の農家の9割以上がニッパーを使用している[91][48]


断尾

狭いところに多頭収容したり敷料がない単調な環境が原因で尾かじりが発生する。豚にとって行動欲求が高い探査行動が発現できないことが、豚が他のブタの尾をかじるという転嫁行動を引き起こす
[92]。尾かじりは豚舎内で広がりやすく、受けた豚の増体量低下や死亡リスクとなる。[85]これを防止するために、生後7日以内に無麻酔で尾の切断が行われる。尾には血管および神経が通っており、切断による痛みが生じる。外傷性神経種が生じることもあり、これは恒常的な痛みをもたらす[93]。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}餌を得るための探査行動は動物にとって強い欲求を持つ行動の一つである。特にブタは嗅覚が優れており、強靭な鼻を利用して土を掘り起こすルーティングやものを噛むチューイングといった行動に対して強い発現欲求を持っている。その行動を制限されることでブタは強い欲求不満状態に陥る。十分に発現できない行動に対してブタは、施設をかじることや他個体の尾や耳をかじること、もしくは攻撃行動といった行動に転嫁して発現するのである。—月刊「畜産技術」2014年12月号27ページ-

日本国内での法規制はなく[90]、82.2%の農家で断尾が実施されている[48]。一方で、デンマークスウェーデンノルウェーフィンランドリトアニアでは麻酔なしでの尾の切断を禁止あるいは規制しており[94]カナダでは2016年7月1日から、年齢にかかわらず痛みを制御する鎮痛剤を用いて行われなければならないとされている[95]。フランスでは、豚の尾の切断により罰金に処せられたケースもある[96]

また、断尾をしても尾かじりは発生する。また断尾した場合、尾の代わりに耳を噛むようになることも知られている[97]。根本的な対策としては、豚が生来もっている探査行動を発現できる飼育環境の提供が必要となる。例えば、ワラを床においただけでも尾かじりによる損傷を軽減できる[98]


雄豚の去勢

去勢は食肉とされた時の雄独特の雄臭を防ぐ、密飼での闘争を減少させる、雌雄混合飼育(交尾しない)を可能にするという目的で行われる[99]

去勢は通常生後1週間以内に実施され、鋭利なカミソリでふぐり(陰嚢)を切開し睾丸を取り出し、引き抜き、切り取る、という方法で行われる[100]。処置中だけでなく処置後も痛みが継続する。去勢後は摂食や歩行などの活動量が減少する[101]。音の分析では、麻酔なしで去勢した場合、通常の悲鳴よりもはるかに強い[102]。1985年に去勢したブタと、去勢していないブタの鳴き声の比較研究が行われた。(子豚に)単に手を触れている間に起こる悲鳴の周波数は3500ヘルツだったが、最初の切開後には4500ヘルツになり、2度目の切開後には4857ヘルツに達した。音声に発生する周波数と周波数領域に渡る音声分布の変化の大部分は、去勢後により高くなった。去勢直後の子豚は動きも少なく、ふるえたり足がぐらついたり滑ったり尾を激しく動かしたり、嘔吐する豚も見られたが、初めは皆横に寝そべったりはしないで、臀部の痛みが収まり始めてから横たわる。2?3日間これらの行動の変化のいくつかが引き続き見られることにより、痛みの持続期間を指し示した。


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