フロントサスペンション_(オートバイ)
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フロントサスペンションは、オートバイの車体を構成する要素の一つで、車軸を支持しながら路面の凹凸を吸収して振動を抑制しタイヤの接地を適切に保つための構造をもっている。典型的なオートバイはフロントサスペンションにテレスコピックフォークを持つ[1]
概要

初期のオートバイは自転車にエンジンを付けただけの形態で、前後輪ともにサスペンションを持たない車体構造であった。やがてエンジン性能の向上に伴い、安全でより速く走行するために、はじめは前輪にサスペンションが組み込まれ、やや遅れて後輪にも組み込まれて現在に至っている[2]

古くから前輪は自転車と同様にフォークで支持され、これにサスペンション機構を組み込んだ形で改良が進められてきた。現在は性能とコストのバランスから、サスペンションに比較的高い性能を求められる車種にはテレスコピック式フロントフォークが採用され、スクーターやビジネスバイクのように低いコストを求められる車種にはボトムリンク式フロントフォークが採用される場合が多い[2]
形式分類
テレスコピックフォークテレスコピックフォークを採用する1969年式BMW

主要な構造はアウターチューブに、これより一回り径の小さいインナーチューブを挿入するように組み合わせたもので、望遠鏡のように伸縮する。内部にはフォークオイルが封入されていて、伸縮の際にオイルが通過することで減衰力を生む機構が組み込まれている。車重を支えるスプリングはセリアーニ式のようにインナーチューブの内側に組み込まれる場合と、外側をコイルが囲むように組み付けられる場合がある。望遠鏡のような伸縮構造であることから、英語で望遠鏡を意味する"telescope"に由来してテレスコピックフォークと呼ばれる。テレスコピックフォークは2本1組で、上部は三つ叉(トリプルツリー)クランプと呼ばれる部品を介してステアリングステムに固定され、下端に前輪の車軸が固定される。インナーチューブやロッドの表面はアウターフォークのオイルシールと摺動しながら表面に微量のオイルを保持する必要があるため、細かいホーニングをもつクロームメッキを施されている。また近年では摺動をより小さくするためにダイヤモンドライクカーボンなどのコーティングが施される場合がある。

テレスコピックサスペンションは他の方式にくらべ、機構の単純さ、量産性、重量、耐久性、信頼性、デザイン性など、多くの利点を持つため、今日ではほとんどのオートバイのフロントサスペンションに採用されている。一方、制動時などでフォークを曲げる方向に荷重がかかるとテレスコピック構造の摺動性が悪化して、スムーズな作動が妨げられる場合がある。また、制動時に車体にピッチングモーメントが働くと、フォークが大きく縮んでキャスター角の変化が大きくなり、旋回時の操縦性に悪影響を与える弱点を持つ[2]

主要部品の構造は大きく分けてピストンメタル式とチェリアーニ式に分類できる。ピストンメタル式はインナーチューブがスライドメタルを介してアウターチューブに支持されていて、このうちインナーチューブ先端のスライドメタルがダンパーのピストンを兼ねた構造になっていることからこのように呼ばれている。摺動抵抗が比較的大きいが、構造が簡単でコストが低いため小型車や廉価モデルに使われる。チェリアーニ式はスライドメタルを使わず、インナーチューブの内部にシリンダコンプリート(ダンパーロッド)を置き、アウターチューブとインナーチューブが直接摺動する構造となっており、メタルが無い分インナーチューブを太くできるため、曲げに対する剛性を高くできる。また、ピストンメタル式がインナーチューブの外側にコイルスプリングを配置するのに対し、チュリアーニ式は内部に配置するためスプリングのセット長をより長く取れ、その分サスペンションストロークを大きくできる[3]。なお、チュリアーニ式でもスプリングを外部に設置したものもある。

減衰力を生む構造として、フォークオイルが制御バルブの小さな流路を通過する際に発生する流体抵抗を利用した機構が用いられており、フリーバルブ式やカートリッジ式、分離加圧式といった方式が実用化されている。フリーバルブ式はダンパーロッド式やピストンロッド式、オリフィス式などとも呼ばれ、伸張も圧縮も一つのバルブ(ポートと円盤状バネ)で制御され、流路面積はフォークオイルの圧力にかかわらず一定である。これに対し、カートリッジ式は伸張と圧縮とで作用する制御バルブを独立させて、それぞれに合わせた減衰力特性を持たせている。また、カートリッジ式の制御バルブの流路面積はリーフスプリングによって制御されていてフォークオイルの圧力が高くなるほど、すなわち伸縮速度が速くなるほど流路が大きく開いて減衰力を低く、しなやかに路面の凹凸を吸収する特性を示す。逆にピッチングなどで伸縮する場合は伸縮速度が遅いため高い減衰力を発生して車体挙動を安定に保つ。分離加圧式はカートリッジ式に加え、ガス圧やばねで支えられたピストンを設けて、フォークオイルの圧力が微細に変化した場合に圧力を吸収する。これにより、フォークの伸縮動作の初期では減衰力が発生せず、細かい路面の凹凸をよりしなやかに吸収できる。またダンパーロッドを中空とし、内部にオリフィス面積を変化させるロッドを置き、これを回転することで減衰力を変化させるものもある。
セミエア式

80年代に商品性を上げるためフォークのトップキャップに加圧する目的でエアバルブを設けたものが「セミエア式」と称して広まっていたが、油圧ダンパーを持つテレスコピックフォークはそもそもダンパー内の空気室が圧縮時にエアスプリングとなる構造であり、言わば全てセミエア式である。そのエアバルブも空気室容積と空気圧の小ささ(0.5kgfなど)から調整が難しく、ほとんど利用されずに廃れていった。(本来、エアスプリング機能の調整はフォークオイル油面高さの調整による空気室の体積変化によって行う)
アンチノーズダイブ機構アンチノーズダイブを採用した初期の例、1983年式スズキ・RG250Γ


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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