フリーエージェント_(プロスポーツ)
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プロスポーツにおけるフリーエージェント(Free Agent)とは、所属チームとの契約を解消し、他チームと自由に契約を結ぶことができる状態、あるいはそのスポーツ選手のことを指す。FAと略す。

広義には自由契約選手を指すが、近年は狭義として特別な自由移籍の権利を持つ選手を指す言葉として使われる。また、無制限フリーエージェント(Unrestricted Free Agents、略称UFA)と制限付きフリーエージェント(Restricted Free Agents、略称RFA)の2種類が存在し、各スポーツやリーグによってはUFAのみの場合と、両方が併存する場合がある。
概要

北米プロスポーツにおいてフリーエージェント制度が誕生した背景には、19世紀から保留制度に基づく条項 (Reserve Clause) によって選手側の自由意志による移籍が厳しく制限されていた事実がある。これは、かつてシーズン中に選手の自由意志による移籍が横行し、流出過多に伴う不均衡の発生によってファン離れが起こり、興行が成り立たなくなる状況に陥ったことを受け、オーナーたちの間で競業避止の協定が結ばれたことに由来する[1]

後に保留条項が強化され、契約期間満了後もチーム側に選手の保留権が認められるようになると、選手の引き止め目的などに伴う年俸の高騰は抑制されたが、一方で選手が移籍する手段はチームが保留権を放棄する(自由契約)、チーム間による保留権の取引(トレード)、あるいは条項の効力が及ばない他の競技団体への移籍に限られることになった。この結果、選手は「奴隷条項[1]」とも称されたこの保留条項のもと特定のチームに拘束され続け、不利な立場での契約交渉を強いられ、あるいは物のように取引される状況が長きにわたって続いたことから、選手たちは制度の撤廃や改善を訴え、幾多の司法判断や労使交渉を経て、1976年にまずMLBNBAでフリーエージェントの権利を勝ち取ることになる[2]。詳細は「カート・フラッド事件」を参照

一方、保留制度に一定の妥当性を認める意見も少なからず存在し、選手の獲得や育成に費やされた資金の回収や、新しい戦力の補充・育成などを考慮に入れて、権利獲得までの期間や移籍に伴う補償などが設定されている場合もある。
無制限フリーエージェントと制限付きフリーエージェント

制限付きフリーエージェント (RFA) とは、どのチームとも契約交渉を行うことはできるが、元所属チームが一定条件のもとで優先的に選手を引き留めできたり、チーム移籍時に元所属チームが補償としてドラフト指名権や移籍金などを得られるようなルール化がされている選手、または選手の状態を指す。

無制限フリーエージェント (UFA) とは、上記のような特別な制限も移籍時の補償もなく、どのチームとも自由に交渉し新たな契約を結ぶことができる選手、または選手の状態を指す。チームから解雇された選手、契約期間が満了した選手、ドラフトで指名されなかった選手などが該当する。

北米のメジャースポーツのうち、NFL・NBAではRFAとUFAが明確化されており、単に「フリーエージェント」と呼ぶ場合、通常はUFAを指す。

日本においては、フリーエージェント=RFA、自由契約=UFA、とほぼみなされる。
メジャーリーグベースボール

レギュラーシーズン中にMLBのアクティブ・ロースター負傷者リストなど各種出場停止リスト登録中期間も含む)に登録されていた日数(: Major League Service time , 以下MLS)が6.000(通算6年)に達した選手はFA権を取得し、以降は保留制度に縛られることが無くなる[3][4]。MLSの詳細については「ロースター (MLB)#サービスタイム」を参照

FA選手はMLB選手会から公示され、ワールドシリーズ終了翌日から5日後に全球団との契約が可能となる(それまでの5日間[5]は、前所属球団との再契約のみ可能)。

以上の規定により、チーム不動の主力となりうる若手有望選手(トッププロスペクト)について、多くの球団はシーズン開幕から一定期間が過ぎた時期にメジャーデビュー(アクティブ・ロースター入り)させている。これは、デビューを少し遅らせることで6年目終了時にMLSが6.000に到達しないよう操作し、実働7年目終了まで保留権をキープしようとする思惑がある[6][7]

また、「マイナーリーグFA」という制度もあり、40人枠に入れなかった期間が6年(1032日間)に達した選手がFA権を取得し、そのシーズン終了後に選手はFAとなる[4]。マイナーリーグFAとなった選手とメジャー契約[8]しても構わないため、マイナーリーグでの飼い殺しを防ぐ役割も果たしている。

MLBで言うフリーエージェントの意味は、日本プロ野球 (NPB) のそれとは異なる。契約期間を満了した選手、契約延長オプションやマイナー契約を自ら拒否して自由契約となった選手、球団から契約解除された選手、MLB球団が自由獲得可能なアマチュア選手、これら全てが『FA(フリーエージェント)』選手と表現される(そもそも「Free Agent」を日本語訳したものが「自由契約」である)。また、FA権取得条件を満たした選手は自動的に権利行使となることから、NPBでみられる「得たFA権を行使しない選手」は皆無である[9]ほか、一度FA権を取得した選手は以降、権利再取得の必要がない(契約終了のたびに自動的にFAとなる)。このためシーズンオフにFAとなる選手は多く、FAによる移籍はNPBと比べて盛んである。

近々にFAとなる主力選手を抱えている球団は、FA後に他球団との獲得競争にさらされ、選手の保有権を失うリスクを背負っている。その対策として、更なる即戦力補強を必要としている球団へその選手をトレードし、見返りに選手や金銭を獲得する場合がある。特にシーズン途中で事実上ポストシーズン出場争いから脱落した下位球団では、FAの近い自軍主力選手をトレード要員として利用し、どれだけ有望な若手選手を引き抜いて来られるかがGMの腕の見せ所ともいえる。
歴史

フリーエージェント制度の起こりは、メジャーリーグベースボール(MLB)においてである。1975年モントリオール・エクスポズデーブ・マクナリー投手とロサンゼルス・ドジャースアンディ・メサースミス投手が球団側から提示された契約条件に不満を持ち、契約書にサインしないまま(保留条項[1]に従い)同チームで1シーズンをプレーした後「以降、球団側に自身を拘束する権利はなく、他球団との契約交渉は自由にできる」と主張したことに始まる。1975年12月21日に第三者調停委員会による仲裁で、2人は「自由契約選手である」という裁定が下った。翌1976年2月13日にジョン・オリバー連邦地裁判事もこの裁定を支持した。経営者側が野球選手を縛ってきた制限事項が廃止されることになり、MLB機構側とMLB選手会との話し合いの結果、フリーエージェント制度が生まれた。[2]
インターナショナルFA「ドラフト会議 (MLB)」も参照

2024年現在、MLBドラフトで指名対象外となるドミニカ共和国ベネズエラメキシコ韓国台湾日本などに在住する16歳以上の海外アマチュア選手[10]は「International Amateur FA(インターナショナル・アマチュアFA)」選手として扱われる[11]。MLB各球団は、所定日までに当該選手たちをMLBスカウト局に登録したうえで、球団毎に定められた契約金総計(インターナショナル・ボーナス・プール)の範囲内で自由獲得できるルールとなっている[12]

各球団のボーナス・プール基本額は以下のとおり(2023年現在)[11][13]
当該年度のMLBドラフトで、戦力均衡ラウンドAの補完指名権を持つ球団:525万ドル


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