フォード・チャレンジャーV8
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チャレンジャーV8[注釈 1](Challenger V-8[1]、チャレンジャー・ブイエイト)は、20世紀後半にフォード・モーターが北米で製造していた中型乗用車用の小型V型8気筒エンジンである。フォード、リンカーンマーキュリーに広く用いられた[注釈 2]
概要 1962年型フェアレーン (タウンセダン)

フォード・モーターが1961年11月 (1962型式年度) の発表となる第4世代フォード・フェアレーン (Ford Fairlane) の動力として、それと同時開発したV型8気筒エンジンである。元来フォードとマーキュリーの中型乗用車用であったが、元から非常に意欲的かつ先進的であり、発展性をも兼ね備えた構成であったことから、1980年代には石油危機によりダウンサイジングされたリンカーンにも採用されるなどフォード・モーターの主力エンジンとして長く重用された。新世代エンジンへの更新によって北米の製造設備が閉鎖されたのは2001年であった。[2]

第二次世界大戦後のフォード・モーター製8気筒エンジンとしては、DFVなどの特殊エンジンを除けば排気量が最も小さく[注釈 3]、原型の3.62リットル (L) から漸増するものの、原型のシリンダーブロックでは4.94 Lが実用上の限度であり、5.77 Lに増加するにあたりシリンダーデッキ[注釈 4]を嵩上げしている。米国におけるV型8気筒としては比較的小型であることから、一般的に「スモールブロック」(Small Block) に分類される。[3]

その素性の良さは競技用にも適しており、1960年代後半から1970年代にかけて北米と欧州のロードレース[注釈 5]で優秀な成績を数多く上げた。また、その知見を踏襲した純競技用エンジンの設計基礎ともなっている。[4]

製造はウィンザー・エンジン工場 (カナダ、オンタリオ州ウィンザー) で行われた。後に若干大きな排気量域を担うエンジンシリーズがクリーブランド第2エンジン工場 (オハイオ州ブルックパーク、2012年閉鎖) で始まるが、この二者はシリンダーブロックの基本寸度を共有することから同一排気量となる351型が並立したため、非公式にウィンザー (Windsor) とクリーブランド (Cleveland) それぞれの頭文字WとCを型式の末尾に付すのが通例となっている (351W、351C)。またシリーズ全体をウィンザー・エンジンとクリーブランド・エンジンで呼び分ける場合もある。[注釈 6][2]
実用化までの経緯

1950年代後半にフォード・モーターが行った市場調査および研究は、購買層が望む高性能なコンパクトカーのフォード・ファルコン (およびマーキュリー・コメット) の市場投入に結実するが、同時にスタイリッシュなミディアムカーには高い信頼性と低い燃料消費率の要求も確認された。これに応えるため次の第4世代フォード・フェアレーンと、姉妹車種の第2世代マーキュリー・ミティアには新型エンジンが必要であると結論され、基幹機である直列6気筒のマイレージメーカーシックス (Mileage Maker Six) とV型8気筒のサンダーバードV8 (Thunderbird V-8) スモールブロックを同時に更新する目的で、新型フェアレーン (およびミティア) と共に開発が始まった。これにあたりエンジンアンドファンダリー部 (Engine and Foundry Division) では設計、製作、実験を行う専任タスクフォースが組織される。[5]

総排気量と気筒配置は210から230立方インチ (3.45から3.77 L) の範囲でV型8気筒に決定された。車体設計部署からの要求で最大幅は20インチ (51センチメートル (cm)) を上限とし、全高もファルコンなどに用いれている新型直列6気筒のスリフトパワーシックス (Thrift-Power Six, 総排気量2.36 L) と同程度を目標とされ、これら寸度制限から既定排気量の範囲内で最適なシリンダー内径、ピストン行程、コネクティングロッド長、コンプレッションハイト[注釈 7]が追求された。素材は実績の高さから鋳鉄が選ばれるが、アルミニウム合金で構成するのに匹敵する軽量性を実現するため、実験には光弾性など多くの高い技術が惜しみなく投入された。実験機と試作生産機は総数500機以上製作され、延べ1万7,000時間の台上試験と25万マイル (約40万キロメートル) 以上の走行試験が米国内のあらゆる土地環境で実施された。[6]
構造および機構

ガソリン燃料とするオットーサイクル機関である。シリンダー冷却は加圧水を強制循環する水冷式を採用している。[7]

二組の直列4気筒が1本のクランクシャフトを共有し、各列がそれぞれ外方へ45度づつ傾いたV型8気筒配置である。全シリンダーはウォータージャケットとスカートと共に一体鋳造されシリンダーブロックを形成している。シリンダーヘッド、ブロックとも素材は鋳鉄であるが、各所の大型被覆部品にはアルミニウム合金も用いられている。ブロックは最新の鋳造法により非常に肉薄であるのに加え、フォード・モーターがYブロックと称してV型8気筒に10年来採用している裾が深く高剛性なディープスカート式から一転して、裾がメインジャーナル (クランクシャフトの回転中心軸) 芯の高さまでしかないハーフスカート式を採用し大幅な軽量化を達成している。これら軽量化手法は剛性との交換関係にあるが、適所適度にリブを設けたり、各部形状の工夫により十分な剛性も確保されている。ヘッドは吸気ポート排気ポートを交互に並べて熱の分散と均等化を図るとともに、排気ポートの周囲にウォータージャケットを配して排気熱が周囲へ与える影響を抑制している。[8]

燃焼室はシリンダーヘッドを窪ませたウェッジ型であり、シリンダー直径に寄せられているため、スキッシュエリア[注釈 8]はシリンダー両端に分け合うように形成されている。吸排気バルブはポペット式で、1気筒当たり吸気、排気各1本が並行配置され、全16組となるプッシュロッドシーソー式ロッカーアームを介して1本のカムシャフトが開閉制御している (OHV)。カムシャフトは直下のクランクシャフトからサイレントチェーンで駆動される。混合気の吸気装置はエンジンバレー[注釈 9]に位置し、排気系は気筒列外側となるため、ターンフロー式ではあるが出入口は対極となる。バルブはエンジンバレー側へ傾倒しているため、排気はシリンダーヘッド内を反転して外側へ誘導される。[9][10]

クランクシャフトは5組のプレーンベアリングで支持されている。メインジャーナルと接する部位の素材はバビットメタルであり、厚い油膜を維持するためキャップ側にはオイル構を設けていない。クロスプレーンクランクであり、比較的重いカウンターウェイトを備える。[11]

潤滑方式はウェットサンプであり、オイルポンプには当時としては最新のトロコイド式を採用している。ウォーターポンプは高効率の逆湾曲ベーン式で、素材はフロントカバーと共にアルミニウム合金である。[12]

共通諸元サイクルオットーサイクル
気筒配列90度V型8気筒
ボアピッチ
インチ (cm)4.38 (11.13)


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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