この項目では、北欧神話に登場する怪物について説明しています。その他の項目については「フェンリル (曖昧さ回避)」をご覧ください。
テュールの腕を喰いちぎるフェンリル。スウェーデンの画家ヨン・バウエルによる。(1911年)18世紀のアイスランドの写本『NKS 1867 4to』に描かれた、テュールの腕を喰いちぎるフェンリル。
フェンリル[1](Fenrir、「フェンに棲む者」の意[2])は、北欧神話に登場する狼の姿をした巨大な怪物。ロキが女巨人アングルボザとの間にもうけた、またはその心臓を食べて産んだ[3]三兄妹の長子。彼の次にヨルムンガンドが、三人目にヘルが生まれた[4]。
神々に災いをもたらすと予言され、ラグナロクでは最高神オーディンと対峙して彼を飲み込む。
語尾に『狼』をつけてフェンリス狼(Fenrisulfr)、フェンリスヴォルフまたはフェンリスウールヴ[1](フェンリル狼[5])とも呼ばれる。
別名にフローズヴィトニル(Hrodvitnir、悪評高き狼の意[6])やヴァナルガンド(Vanargand、ヴァン川のガンド[7])などがある。
土星の第41衛星フェンリルの由来である。 初めは普通の狼とほとんど違いがなかったため、アース神族の監視下に置かれることとなったが、彼に餌を与える勇気があったのはテュールだけだった。しかし、日に日に大きくなり力を増してきたのと、予言はいずれも彼が神々に災いをもたらすと告げたため、拘束することを決めた[注釈 1]。 神々はフェンリルを拘束するために、レージング(Ladingr、革のいましめ[8])と呼ばれる鉄鎖を用意したが、フェンリルはそれを容易に引きちぎった。続いて、神々はレージングの2倍の強さを持つ鉄鎖、ドローミ(Dromi、筋のいましめ[9])を用いたがこれもフェンリルは難なく引きちぎった。そのため、スキールニルを使いに出してドヴェルグ(ドワーフ)に作らせたグレイプニール[注釈 2]という魔法の紐を用いることにした。 グレイプニルは、猫の足音、女の顎髭、山の根元、熊の神経[注釈 3]、魚の吐息、鳥の唾液という六つの材料から出来ていた[注釈 4]。アースの神々はアームスヴァルトニル(Amsvartnir)湖にあるリングヴィ(Lyngvi)という島で、紐が見かけよりも強いことをフェンリルに示し、試しに縛られるように彼に勧めた。フェンリルはこの紐も切れないようなら神々の脅威たり得ないから解放すると言われたが、一度縛られたら助けを得ることは難しいと考え、約束が間違いなく行われるという保証として誰かの右腕を自分の口に入れることを要求した。神々の中からテュールが進み出て彼の右腕をフェンリルの口の中に差し入れた。 縛られグレイプニルから抜け出せないことに気付いたフェンリルはテュールの右腕を手首の関節のところで食いちぎったが[注釈 5]、神々は素早くゲルギャ(Gelgja、拘束[10])と呼ばれる足枷から綱を伸ばしギョッル(Gjoll、叫び[11])と言う平らな石にフェンリルを縛り付け、石を地中深くに落とし、スヴィティ(Tviti、打ちつけるもの[12])と言う巨大な石を打ち込んで綱をかける杭にした。フェンリルは暴れてこれを噛もうとしたので、神々は下顎に柄が上顎に剣先がくるように剣を押し込んでつっかえ棒にした。開きっぱなしになったフェンリルの口から大量の涎が流れ落ちて川となった、これはヴァン(Van、希望[13])川と呼ばれる。
概要