フェルミ準位
[Wikipedia|▼Menu]

量子力学物性物理学においてフェルミエネルギー (Fermi energy)あるいはフェルミ準位(Fermi level)とは、相互作用のないフェルミ粒子系(理想フェルミ気体)の絶対零度 T = 0 {\displaystyle T=0} での化学ポテンシャル(または電気化学ポテンシャル)μのことであり、通常 E F {\displaystyle E_{\mathrm {F} }} と表される[1]。 E F ≡ μ ( T = 0 ) {\displaystyle E_{\mathrm {F} }\equiv \mu (T=0)}

フェルミエネルギーは量子統計力学、物性物理学、半導体物理学[2] などの分野で用いられる。

フェルミエネルギーとフェルミ準位は通常区別される.
呼び方について

半導体工学などでは、有限温度の理想フェルミ気体の化学ポテンシャルについても「フェルミエネルギー(またはフェルミ準位)」と呼ぶこともある。

また「フェルミエネルギー」と「フェルミ準位」は同義語として扱うことが多いが、理想フェルミ気体の化学ポテンシャルを、絶対零度では「フェルミエネルギー」、有限温度では「フェルミ準位」と区別して呼ぶこともある。このように定義した場合、絶対零度でフェルミ準位とフェルミエネルギーは等しくなる。
フェルミエネルギーでの占有数50 K ? T ? 375 Kでの様々な温度におけるμ = 0.55 eVでのフェルミ分布 f ( E ) {\displaystyle f(E)} vs. エネルギー E {\displaystyle E}

熱力学的平衡にある理想フェルミ気体において、エネルギーが E である準位を占有するフェルミ粒子の個数の統計的期待値は、次のフェルミ分布で表される[3]。 f ( E ) = 1 e ( E − μ ) / k T + 1 {\displaystyle f(E)={\frac {1}{\mathrm {e} ^{(E-\mu )/kT}+1}}}

ここで T は温度、k はボルツマン定数、 μ は化学ポテンシャルである。分布のプロットを右図に示す。f が 1 に近づくほど、この状態が占有される確率は高くなる。f が 0 に近づくほど、この状態が空になる確率は高くなる。

絶対零度(基底状態)では、フェルミ分布は階段関数になり、その不連続点がフェルミエネルギーである。 lim T →   0 f ( E ) = { 0 ( E > μ ) 1 / 2 ( E = μ ) 1 ( E < μ ) {\displaystyle \lim _{T\to \ 0}f(E)={\begin{cases}0&(E>\mu )\\1/2&(E=\mu )\\1&(E<\mu )\\\end{cases}}}

フェルミエネルギー EF にエネルギー準位が存在する場合、 EF は絶対零度での占有数の統計的期待値が1/2になるエネルギー準位に等しく、「絶対零度での電子の占有確率が1/2になるエネルギー」とも言われる[4]。フェルミ準位に状態があれば (ε = μ)、その状態は50%の占有される確率を持つ。

またフェルミエネルギー EF にエネルギー準位が存在しない場合、フェルミエネルギーより高いエネルギー準位の絶対零度での占有数が0であることがわかる。よってフェルミエネルギーは「絶対零度におけるフェルミ粒子によって占められた準位のうちで最高の準位のエネルギー」とも言える[5]。ただしフェルミエネルギーに準位が存在しない場合、最も高いエネルギーを持つ粒子のエネルギーとフェルミエネルギーは一致しなくなる。半導体や絶縁体の場合がこれに相当する。
井戸型ポテンシャル中の自由電子
1次元の場合

一辺がLである箱の中にN個のフェルミ粒子(スピン1/2)があるときを考える。この場合を表すモデルは、1次元の無限に深い長さLの井戸型ポテンシャルである。この井戸型ポテンシャル中のフェルミ粒子のエネルギー準位は量子数nでラベル付けされる。 E n = E 0 + ℏ 2 π 2 2 m L 2 n 2 {\displaystyle E_{n}=E_{0}+{\frac {\hbar ^{2}\pi ^{2}}{2mL^{2}}}n^{2}}

ここで E 0 {\displaystyle E_{0}} はフェルミ粒子が箱から受けるポテンシャルエネルギーである。

それぞれのエネルギー準位 E n {\displaystyle E_{n}} でスピン1/2(上向きスピン)と?1/2(下向きスピン)という異なる2つの状態が可能であるため、2つの粒子が同じエネルギー E n {\displaystyle E_{n}} を占有することができる。しかしパウリの排他原理により、3つ以上の粒子は同じエネルギー E n {\displaystyle E_{n}} を占有できない。絶対零度(基底状態)では全エネルギーが最低である電子配置をとり、n = N/2までの全てのエネルギーは占有され、n = N/2よりエネルギーが高い準位は全て空である。

フェルミエネルギーの基準を E 0 {\displaystyle E_{0}} となるように定義すると、奇数個の電子(N ? 1)または偶数個の電子(N)のフェルミエネルギーは次のように与えられる。 E F = E N / 2 − E 0 = ℏ 2 π 2 2 m L 2 ( N / 2 ) 2 {\displaystyle E_{\mathrm {F} }=E_{N/2}-E_{0}={\frac {\hbar ^{2}\pi ^{2}}{2mL^{2}}}(N/2)^{2}}
3次元の場合

ここで一辺が長さLである3次元立方体の箱を考える(無限に深い井戸型ポテンシャルを参照)。これは金属中の電子を記述するのに良いモデルとなる。

ここで状態は3つの量子数 nx, ny,nzでラベル付けされている。1粒子エネルギーは、 E n x , n y , n z = E 0 + ℏ 2 π 2 2 m L 2 ( n x 2 + n y 2 + n z 2 ) {\displaystyle E_{n_{x},n_{y},n_{z}}=E_{0}+{\frac {\hbar ^{2}\pi ^{2}}{2mL^{2}}}\left(n_{x}^{2}+n_{y}^{2}+n_{z}^{2}\right)\,}

nx, ny, nzは正の整数、mはフェルミ粒子(この場合は電子)の質量である。同じエネルギーをもつ複数の状態がある(たとえば E 211 = E 121 = E 112 {\displaystyle E_{211}=E_{121}=E_{112}} )。N個の相互作用のないスピン1/2のフェルミ粒子をこの箱に入れる。このフェルミエネルギーを計算するために、Nが大きい場合を見てみる。

ベクトル n → = { n x , n y , n z } {\displaystyle {\vec {n}}=\{n_{x},n_{y},n_{z}\}} を導入すると、それぞれの量子状態はエネルギー E n → = E 0 + ℏ 2 π 2 2 m L 2 。 n → 。 2 {\displaystyle E_{\vec {n}}=E_{0}+{\frac {\hbar ^{2}\pi ^{2}}{2mL^{2}}}|{\vec {n}}|^{2}\,}

をもつn空間の点に対応する。 。 n → 。 2 {\displaystyle |{\vec {n}}|^{2}} は通常のユークリッド長さの二乗 ( n x 2 + n y 2 + n z 2 ) 2 {\displaystyle ({\sqrt {n_{x}^{2}+n_{y}^{2}+n_{z}^{2}}})^{2}} を表す。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:61 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef