フェニックス_(探査機)
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フェニックス
Phoenix
フェニックス
所属アメリカ航空宇宙局 (NASA) アリゾナ大学
主製造業者ロッキード・マーティン
公式ページ ⇒NASA-Phoenix
国際標識番号2007-034A
カタログ番号32003
状態運用終了
目的火星探査
観測対象火星
計画の期間3か月
設計寿命5か月
打上げ場所ケープカナベラル空軍基地
打上げ機デルタ II
打上げ日時2007年8月4日
5時26分34秒 (EDT)
軟着陸日2008年5月25日
通信途絶日2008年11月2日
運用終了日2008年11月10日
物理的特長
質量350 kg
主な推進器4.4 N ヒドラジン1液スラスタ
22N ヒドラジン1液スラスタ
302N ヒドラジン1液スラスタ
観測機器
RAロボット・アーム
RACロボット・アーム・カメラ
MECA顕微鏡・電気化学・伝導度解析装置
TEGA熱・発生気体分析装置
SSI地表ステレオ撮像装置
MET気象観測ステーション
MARDI降下カメラ
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火星に着陸したフェニックスの予想イメージ。フェニックスはマーズ・スカウト・プログラムに基づきアリゾナ大学が提案した。灰から蘇る「不死鳥」の名のように機体は2000年に中止された探査計画のものを用い、また1999年に一度失敗した極地への着陸を果たした。

フェニックス (Phoenix) は、アメリカ航空宇宙局(NASA)管理下で、アリゾナ大学月惑星研究所(Lunar and Planetary Laboratory, LPL)を中心にカナダ宇宙庁と航空宇宙業界も加わって共同開発された火星探査機である。

2007年8月4日に打上げられ、2008年5月25日に火星の北極の、氷が豊富な地域へ着陸。着陸後はロボット・アームで北極域の地表を掘り上げて過去の水に関する情報を探し、火星が微生物にとって適切な環境であるかどうかを調べた。
歴史

2003年8月、アメリカ航空宇宙局は、アリゾナ大学により提案されたフェニックス計画を、2007年にマーズ・スカウト・プログラムで最初に打上げられる探査機として選出した。この決定が下されるまでには、他研究機関との間で非常に激しい競争があった。この計画のために、NASAからアリゾナ大学へ3億2500万米ドルの資金が提供される。これは、それまでアリゾナ大学により獲得された研究費の中では最大の規模で、それまでの最高額より6倍にも上る。

アリゾナ大学のピーター・スミスが、この計画の主任研究員(Principal Investigator, PI)として選出された。フェニックスという名前は、何度も灰の中から蘇る神話上の鳥、フェニックス(不死鳥)に因んで命名された。この名前に相応しく、フェニックスにはこれまでの探査計画で開発された機器が再利用されている。フェニックスに使用される着陸船は2000年に計画が中止されたマーズ・サーベイヤー2001の着陸船を改良したものである。この着陸船は、ロッキード・マーティン社がほぼ完成状態にあった着陸機を、2001年より大切に保存していたものである。また、マーズ・ポーラー・ランダーに搭載されていたものと同じ科学機器がフェニックスにも搭載されている。

2005年6月2日、NASAはフェニックス・プロジェクトの計画と初期設計が順調に進んでいくことを精査した後、予定どおりにプロジェクトを進行させることを承認した。
ミッションの目的

火星の失われた水を追うということがNASAの長期火星探査計画マーズ・エクスプロレーション・プログラムの重要な柱の1つである。2001マーズ・オデッセイなどによる軌道上からの調査によって火星の北極地域の地面の直ぐ下には凍った氷の層が拡がっていると考えられており、この地域の調査は以前からの重要な目標であった。フェニックスはこの土壌と氷の境界地域に着陸し、それまで周回機でのみ存在が確認されて来た「火星の地下の氷」を直接探査することによって、2つの目標、即ちこの地域が、果たして生命に適した土壌をもっているのかということについて、そして極地地質が辿った歴史、特に過去10万年間に液体の水が存在したのかということについて探求する。

フェニックスが送ってきた着陸地点からの写真。 永久凍土地帯にみられるアイス・ウェッジ・ポリゴンとよく似た多角形のパターンを示している。

カナダ、北極諸島デヴォン島にみられるポリゴン構造。夏期に割れ目に染み込んだ水が凍結し氷の楔を作り出すことによって生ずると考えられている。

経過

2007年8月4日(アメリカ東部時間 5:26、日本時間18:26)
ケープカナベラル空軍基地よりデルタIIで打ち上げ。
マーズ・リコネッサンス・オービターの高解像度カメラが撮影したパラシュートで降下中のフェニックス。探査機は背後のクレーター(直径 10 km)の西 20 km に着地した。

2008年

5月25日(日本時間 26日) 火星着陸。

フェニックス着陸地域 グリーンバレー(非公式)は火星の北極地域の平原で、この期間は火星の北極地域に十分な太陽光が到達し、着陸機を太陽電池で動作させるのに十分である時期として選ばれた。着陸後フェニックスは十分な太陽光の得られる90ソル(sol, 火星の太陽日)の間だけ活動を行う予定となっていた。1ソルは地球の1日より約40分長い。機器展開やチェックが終わった後、9ソル目までは火星大気などの測定を行い、10ソル目よりロボット・アームを用いた土壌調査が始まる[1]



6月1日(米東部時間) 氷らしきものを発見したと発表。逆噴射で表土が吹き飛ばされ、露出したものと推定されている[2]

フェニックスが撮影した掘削跡の「氷」(上の枠内は影の部分の拡大図)。



6月15日(米東部時間) ロボット・アームで地表を掘った跡を撮影した写真に白い塊が発見される。この塊は18日に撮影した写真では消えており、ほぼ確実に水の氷であると見られる[3]

11月10日(日本時間 11日) 日照不足による太陽電池の電力低下のため活動停止したと発表される[4]。最期の通信は11月2日。活動期間は当初想定された3ヶ月を超え5ヶ月以上に及んだ。


フェニックスは火星の冬を乗り越えられるように設計されていなかったが、日照の回復により活動を再開出来る可能性が僅かに存在したため、2010年1月より火星周回機マーズ・オデッセイを使用して断続的に交信が試みられていた[5]。しかし、数十回に及ぶ機会の間にフェニックスの信号は受信されず、またマーズ・リコネッサンス・オービターが撮影した画像からフェニックスが塵に埋もれ破損したことも示唆されていた。これらの状況を踏まえ、2010年5月24日、フェニックスとの交信再開の試みを終了することが公式に発表された[6]

搭載された科学機器

極地土壌分析がフェニックスの最重要任務となる。フェニックスの科学観測装置には[7][8]マーズ・サーベイヤー2001ランダーからそのまま引き継いだ掘削ロボット・アーム (RA) や、土壌を水に溶かして種々の実験を行う化学的実験装置や顕微鏡のセット (MECA) が装備されており、これらは土壌を熱することで発生する気体を調べる装置 (TEGA) とともに土壌分析の主役となる。これ以外にも周囲の状況を撮影するステレオ・カメラ (SSI) やライダーを備えた気象観測装置 (MET) などが装備されている。
ロボット・アーム(RA)

先端にスコップが付いた RA(Robotic Arm)[9]、即ち「ロボット・アーム」はフェニックスの科学機器の中で鍵を握る装置だといえる。4自由度を持つ腕を伸ばすと先端は着陸船より2.35 mとなる。さらにスコップは数時間掛けて地面の下50 cmまで掘削できる。スコップが極地の地下のこの深さには拡がっていると想定されている氷層に達したならば、先端にある鋭い爪とヤスリで砕きサンプルを手に入れる。こうして回収された土壌あるいは氷のサンプルは後述の装置 TEGA や MECA による解析にかけられる。

このロボット・アームはマーズ・サーベイヤー2001計画において JPL のチームが設計・製作したものである。
ロボット・アーム・カメラ (RAC)ロボット・アームに取り付けられた RAC。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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