フィルム・コミッション
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フィルム・コミッション(Film Commission、略称:FC)とは、地域活性化を目的として、映像作品のロケーション撮影が円滑に行われるための支援を行う公的団体である[1]。具体的にはロケ撮影に際して、映像制作者と地域社会(自治体、施設所有者など)との間にフィルム・コミッションが入り、各種連絡・交渉などの調整係の役割を果たす[2]。映像作品は撮影時や上映による経済効果が大きいため、フィルム・コミッションが映像作品の誘致活動などを積極的に行うこともある。
概要

フィルム・コミッションの主な業務は、ロケーションガイド(ロケーション・ハンティングの協力)、優遇措置の案内(自治体による優遇措置やキャンペーンの紹介)、許可の取得(施設使用許可等)、映像制作関連のリソース(撮影スタジオや録音スタジオの紹介、食事や資材の手配、宿泊場所や使用する自動車等に関する手配)などである[2]。このほかエキストラの募集、パンフレットの製作や配布、エキストラ用の食事の手配なども行う。

フィルム・コミッションは世界各国に存在しており、市町村レベルの小さな組織から、国レベルの大きな組織まで様々な形態が存在する[2]

イギリスでは「スクリーン・エージェンシー」(Screen Agency)と呼ばれ[3]、UKフィルム・カウンシル(英語版Wikipediaへのリンク)の傘下団体として、イギリス全土に9つの組織が存在する(en:Regional_screen_agencies)。

世界のフィルム・コミッションの業界団体として、1975年に設立された国際フィルム・コミッション協会(略称:AFCI、事務局:アメリカ・モンタナ州ヘレナ)が存在する[2]。2006年の国際フィルム・コミッション協会の加盟メンバーは40か国299団体であり、アメリカ(167)、カナダ(29)の順に多く、ヨーロッパから58、アジアから17のメンバーが参加している[2]

アジア地域のフィルム・コミッションを統括する組織として、2004年10月に設立されたアジアン・フィルム・コミッションズ・ネットワーク(略称:AFCNet、本部:韓国プサン)が存在する[4]

フィルム・コミッションは、1940年代後半のアメリカにおいて、映画会社がロケ撮影を円滑に実施する目的で、地方政府の交渉窓口として作られた組織がその源流である。この組織は、警察、高速道路のパトロール隊、道路管理局、消防署、公園警備官などとロケに関する調整を行った[2]。アメリカにおいて初めて「フィルム・コミッション」という形で設立された組織は、1969年にコロラド州が立ち上げた「コロラド・フィルムコミッション」である[1][5]

日本では2000年以降、全国各地でフィルム・コミッションが整備されるようになった。(経緯については後述)

アメリカのフィルム・コミッションでは「映画の内容に関しては一切物申さず、脚本に書かれていることは全て実現する」という点が協力の大前提となっている[6]。しかし、日本は施設の撮影利用にあたり、世界的に見ても厳格で煩雑な公的規制が多数存在しており、申請先も外部から分かりづらいという課題を抱えている。そのため、フィルム・コミッションだけでは解決困難な問題が多い。

2017年以降、日本政府の知的財産戦略本部内に日本におけるロケ撮影環境の改善を目的とした「ロケ撮影の環境改善に関する官民連絡会議」が設置され、年1回程度のペースで意見交換が行われている。
アメリカのフィルム・コミッション

アメリカでは古くから映画が「産業」として認知されており、映画制作に対して官民共同の取り組みが行われている。そのため、日本のように「文化振興」を目的とした映画に対する公的支援ではなく、映画の撮影による雇用確保と市の収入増加を目的とする明確な産業支援政策の一環として、各州政府や自治体の一部門によってフィルム・コミッションが設置されている[2][7]

2006年現在、50州及びワシントンD.C.プエルトリコの計52地域のうち、40以上の地域に160を超えるフィルム・コミッションが設立されている[2]。フィルム・コミッションの数が最多なのはカリフォルニア州で、約60団体が州内に存在する[2]

アメリカのフィルム・コミッションのメンバーは数名規模のものが多く、1名のみの組織もある。また、有力なフィルム・コミッションでは、映像制作経験者が参加している組織も存在する[2]

アメリカの州によっては、映像制作産業に対してロケ実施時に下記の税制上の優遇措置が導入されている場合がある[2]

売上税・使用税の免除

所得税等の税額控除

宿泊税の免除

与信制度

支援措置の中心となるのは売上税・使用税の免除と所得税等の税額控除である。さらに、作品によってロケーション地が変わることから、所得控除そのものが州をまたいで取引対象とされている[2]。ただし、アメリカ最大の映画産業が存在するカリフォルニア州ではこのような優遇措置を導入していないため、優遇措置を導入している他の州や、同様の優遇措置を設けているカナダメキシコなどにロケ地の「流出」が発生している[2]
日本のフィルム・コミッション

2000年以降、全国各地でフィルム・コミッションの整備が進められた結果、2021年現在の日本国内のフィルム・コミッションは約350団体であり、国内のフィルム・コミッションの数としては世界最多となっている[1][8]

その結果、日本国内でロケ撮影を実施する作品数が大幅に増加しており、2000年には282本だったものが、2008年には418本[1]、2015年には2000年のほぼ2倍に当たる581本[9]、2018年には613本[1]となった。

邦画に限ると、2015年の国内興行収入上位32作品(うち実写22作品)のうち、フィルム・コミッションの支援を受けない実写作品はわずか1作品のみであった[注釈 1]。2016年の邦画上位37作品では実写32作品中31作品、アニメーションは11作品中1作品がフィルム・コミッションの支援を受けている[1]。2017年の邦画上位38作品のうち、実写28作品は全てフィルム・コミッションの支援を受けている[1]

日本の民間企業では「ロケーションサービス」という名称で、フィルム・コミッションとほぼ同様のサービスを行う部署を設置するケースがある(JR西日本本州四国連絡高速道路など)。

また、日本のフィルム・コミッションは観光振興政策の延長線的位置づけとして、各都道府県庁、市役所、町村役場の観光課もしくは観光振興を目的とする外郭団体によって運営されている場合が多く、警察にも影響力を及ぼすことが可能なアメリカのフィルム・コミッションほど強力な権限を有していない[6][7]。そのため、例えばアメリカのように道路を封鎖してカーアクションを撮影することは未だに困難な状況である[10]

現在、日本のフィルム・コミッションの連絡機関として2009年に設立された「特定非営利活動法人ジャパン・フィルムコミッション」(略称:JFC)が存在する。

ただし、JFCは民間団体であり、日本のフィルム・コミッションを全て統括するものではない。予算の関係などで、JFCに未加盟の小規模な市町村レベルのフィルム・コミッションが国内に多数存在する点にも留意が必要である[3]

近年、日本国内でフィルム・コミッションが整備された結果、全国の都道府県ほぼ全てに窓口が整備されており、都道府県レベルの窓口がJFC未加盟の団体も含めた市町村レベルのフィルム・コミッションを紹介するという流れができつつある。
フィルム・コミッションの3要件


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