フィコビリソーム(英語:phycobilisome)は、藍藻・紅藻・灰色藻における光化学系IIの集光性アンテナ色素タンパク質複合体。細胞内の、もしくは葉緑体のチラコイド膜に結合したタンパク質の超複合体である[1]。構成要素であるポリペプチドの数は 600 に達し、直径は 40nm 前後、全体の分子量は 1MDa を超える。光エネルギーの捕集や光適応など、光合成に関わる様々な機能を持つ[2]。 フィコビリソームは中心のコアと周辺部のロッドより成る。コアを構成するフィコビリタンパク質はアロフィコシアニン
構造と呼ばれる色素タンパク質と、これを連結するリンカータンパク質である[3][4]。フィコビリタンパク質は水溶性であるがゆえ、疎水性のクロロフィルやカロテノイドとは異なり脂質膜に組み込むことができない。そのために膜上にフィコビリソームとして複合体を形成し、配置されていると考えられている[5]。
フィコビリタンパク質
フィコビリンフィコシアノビリンの構造フィコエリスロビリンの構造詳細は「フィコビリン」を参照
各フィコビリタンパク質のスペクトル特性は、補因子として結合しているフィコビリンによっておおよそ決まる。フィコビリンは開環テトラピロール構造のビリン(右図)であり、フィコシアノビリン(phycocyanobilin:フィコシアニンおよびアロフィコシアニンの補因子)、フィコエリスロビリン(phycoerythrobilin:フィコエリスリンの補因子)、フィコウロビリン(phycourobilin:フィコエリスリンの補因子)、フィコビオロビリン(phycoviolobilin)の4種類が知られている。 フィコビリソームを構成するリンカータンパク質は数種類あり、フィコビリタンパク質のオリゴマーを相互に、もしくはチラコイド膜と結び付けている。 フィコビリソームの主要な役目は、光エネルギーを吸収して光合成の反応中心へ渡すことである。それぞれのフィコビリタンパク質は、可視光領域に特有の吸収スペクトルと蛍光特性を持つ。様々なフィコビリタンパク質を持つことにより、細胞はクロロフィルのみでは吸収し得ない波長域 (500-650nm) の光を光合成に利用することができる。このことは特に、長波長域が減衰しやすくクロロフィルが有効に機能しない深層の水中環境で有利に働く。光条件によってフィコビリソームを変化させる藍藻もある(後述)。 フィコビリタンパク質の光化学的性質の違いにより、フィコビリソームでは反応中心へ向けて不可逆の光エネルギー伝達が実現されている。つまりエネルギー準位の低いアロフィコシアニンをコアとして、周囲へ向けてフィコシアニン、フィコエリスリンが配置されており、周囲からコアへ、最終的には光化学系IIのクロロフィルaへとエネルギーが伝達され、電子伝達系の動力源となる[7][8]。フィコビリソームにおけるこれらのタンパク質の配置はエネルギー伝達に適しており、伝達効率は90%に達する[8]。 一部の藍藻は、光環境の変化に応じてフィコビリソームの構成を変化させる[9]。例えば緑色光の環境下では、ロッドの末端を赤色のフィコエリスリンで構成し、より効率的に(赤の補色である)緑色の光を吸収できるようになる。逆に赤色光環境下ではロッドが青色のフィコシアニンで構築され、赤色光の吸収効率が上がる。このような変化は "complementary chromatic adaptation"(「光適応」「補色順化」「補色適応」「相補的色素適応」など)と呼ばれる。また藍藻を窒素欠乏条件下で培養すると、フィコビリンが窒素の供給源となるべく分解されて減少するため、クロロフィルの緑色が勝るようになる[10]。
リンカータンパク質
ロッドコアリンカー:フィコビリタンパク質の3量体もしくは6量体ドーナツの中心を貫いて結合し、ロッドの軸となるリンカー。
エンドキャッピングリンカー:ロッドの末端に位置するリンカー。
コアメンブレンリンカー:アロフィコシアニンのコアとチラコイド膜とを結合しているリンカー。
機能通常光で培養された藍藻 Synechococcus PC 7002