ファラオの葉巻
(Les Cigares du Pharaon)
発売日
1934年(モノクロ版)
1955年(カラー版)
シリーズタンタンの冒険シリーズ
出版社カステルマン
『ファラオの葉巻』(ファラオのはまき、フランス語: Les Cigares du Pharaon)は、ベルギーの漫画家エルジェによる漫画(バンド・デシネ)、タンタンの冒険シリーズの4作目である。ベルギーの保守紙『20世紀新聞(英語版)』 (Le Vingtieme Siecle)の子供向け付録誌『20世紀子ども新聞(英語版)』(Le Petit Vingtieme)にて1932年12月から1934年2月まで毎週連載されていた。当初はモノクロであったが、1955年に著者本人によってカラー化された。ベルギー人の少年記者タンタンが愛犬スノーウィと共にエジプト旅行中に国際的な麻薬密売組織の陰謀に巻き込まれ、ファラオの墳墓で見つけた葉巻の謎を追って、アラビアからインドに掛けて冒険する物語であり、一部の謎は残され、次作『青い蓮』に続く。
これまでのシリーズ作品は、新聞社の経営者ノルベール・ヴァレーズ(英語版)の指示のもとに政治的なテーマに基づいて物語が作られていた。しかし、本作よりエルジェは推理小説的要素を意図的に持ち込み、そのスリラーやミステリー要素は高く評価され、その後のシリーズの路線を決めたランドマーク的な作品とみなされている。また、キャラクター面でも、まぬけな刑事コンビ・デュポンとデュボン(英語版)や、宿敵ラスタポプロス(英語版)の初登場作品でもあり、奇抜な学者フィレモンは後のビーカー教授(英語版)につながったともされる。
本作は前作『タンタン アメリカへ』に続いて商業的な成功を収め、完結後にすぐにカステルマン(英語版)社から書籍として出版された。1955年にはリーニュクレールの技法を用いたカラー版が出版され、その際にいくつか改変が加えられている。1991年にはカナダのアニメーション製作会社のネルバナとフランスのEllipseによるテレビアニメシリーズの中で、本作が映像化されている。
日本語版は、1987年にカラー版を底本にして福音館書店より出版された(川口恵子訳)。 地中海のクルーズ船でバカンスを楽しんでいたタンタンは、映画会社社長で富豪ラスタポプロス
あらすじ
タンタンが入った木の棺は海上を密輸船で運ばれていたが、沿岸警備隊を見つけた船長のアランは棺を船外に捨てるよう部下に命じる。こうして海上で目を覚ましたタンタンは、アラビアに向かう途中の武器商人の船に偶然拾われる。この一件により、デュポンとデュボンはタンタンは武器密売にも関与していると誤解する。その後、陸路を移動するタンタンは、彼の大ファンだという族長シーク・パシャや、映画撮影を行っていたラスタポプロスと遭遇する。そして砂漠を旅して都市にたどり着くが、地元兵の連隊長はタンタンが持っていたケオセフ王のマークの入った葉巻を見てスパイだと言い、タンタンは処刑のため逮捕される。デュポンとデュボンは、自分たちが逮捕するためタンタンを脱出させるが、タンタンはさらに彼らの手からも逃げ出し、軽飛行機に乗ってアラブを脱出する。
インド上空で燃料切れにより飛行機は墜落し、タンタンはジャングルにたどり着く。そこでサイクロンと再会するが、彼は正気を失っていた。そこでタンタンは彼を連れて、近くにあったイギリス人植民地者のバンガローに泊めてもらい、スノーボール夫妻やフィニー医師と知り合う。サイクロンを診たフィニーは、彼はラジャイジャの毒によって正気を失わされたと診察する。翌日、サイクロンがファキール(英語版)(イスラムまたはヒンドゥーの禁欲的な修行僧)に命じられるままに殺そうとしてきたため、タンタンは逃げ出す。村に逃げ込んだタンタンは、犯人一味と思われるハンガリー人の詩人を尋問し、麻薬密輸の国際的シンジケートがあることを聞き出すが、ボスの名を明かす前に詩人はファキールの毒矢によって、正気を失ってしまう。やがてタンタンは一帯を統治するマハラジャ(王)である、ガイパジャマと出会う。マハラジャはタンタンを気に入ると、この国が長く麻薬密輸団と戦っていること、彼の父や兄弟も、ラジャイジャの毒によって正気を失わされたこと、そして密輸団がどのような方法で国内に麻薬を持ち込んでいるのか未だ不明であることを明かす。
深夜、マハラジャを襲うために姿を表したファキールを追跡することで、タンタンは麻薬密輸団のアジトを発見し、機転を利かせてこの場にいた覆面の幹部らを一網打尽にする。彼らはアランやアラブの連隊長、スノーボール夫妻やフィニー、マハラジャの側近など、今回の旅でタンタンが出会った人物たちであった。しかし、隙を突かれてファキールには逃げられてしまう。そこにデュポンとデュボンが到着し、カイロ警察の捜査によってここにたどり着いたこと、また既にタンタンの容疑は晴れていることを明かす。窮地に陥ったファキールはマハラジャの息子を誘拐し、それを知ったタンタンは彼を助けるためスポーツカーで追跡する。そしてタンタンは息子を助け出し、ファキールを捕まえることにも成功する。未だ正体不明のボスは、岩を落としてタンタンを殺そうとするも、崖から転落し行方不明となる。
マハラジャの宮殿に戻ったタンタンは盛大に祝われる。そしてタンタンは、マハラジャに麻薬密輸団が葉巻に偽装して麻薬を密輸していたことを報告する。 作者のエルジェ(本名:ジョルジュ・レミ)は、故郷ブリュッセルにあったローマ・カトリック系の保守紙『20世紀新聞
歴史
執筆背景
太極図とケオセフ王のマーク。
第4作目となった本作では、エルジェはミステリー小説的な内容を描きたいと考えていた。1930年代、西欧ではアガサ・クリスティーやエラリー・クイーンといった作家が活躍し、推理小説が盛んな時代であった[5]。また、1922年にハワード・カーターがツタンカーメンの墓(KV62)を発見したこと、その後の関係者の不審死が大衆紙にて「ファラオの呪い」と騒がれたことも、本作のシナリオの材料となっている[6]。本作に登場するファラオのケオセフ(Kih-Oskh)は架空のものだが、その名前は『20世紀新聞』が売られていたキオスク(kiosk)を捩ったものである[7]。