ファゴット
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ファゴット
各言語での名称

bassoon
Fagott
basson
fagotto
低音管、巴松管、大管(大陸)


ヤマハYFG-812 IIファゴット
分類

木管楽器 - ダブルリード属
音域
実音記譜ファゴットの音域
演奏者

クラシック音楽#ファゴット奏者

ファゴットは、ダブルリード(複簧)族の木管楽器の1つである[1][2]。バスーンとも呼ばれる。ヘ音記号音域とテナー記号音域、時にはト音記号音域で演奏する。ファゴットは19世紀に現代的な形で登場し、オーケストラコンサートバンド室内楽作品で重要な位置を占める。ファゴットは、その独特の音色、幅広い音域、多彩な個性、俊敏さで知られている。現代ファゴットには、ビュッフェ式(フランス式)とヘッケル式(ドイツ式)の2種類が存在する。
概要

低音から中音部を担当し、低音域でも立ち上がりが速く、歯切れのよい持続音を出すことができる。楽譜は実音で記譜される。

16世紀中頃には使われていたといわれ、当初は2キーだったが、18世紀には3から4キーとなった。外観が似ているカータル(ドゥルシアンとも)という楽器が直接の祖先とする説が有力である[3]

多少鼻の詰まったような「ポー」という音が特徴であり、長い音程間での跳躍する動きや、おどけたような表現を得意としている。また、ダブルリード楽器の一般的特徴に漏れず、高音域になるにつれて音が小さくなり、低音域では大きくなる傾向を持つ。

演奏時にはストラップを用い、楽器を斜めに構えて吹く。ストラップは肩から掛けるもの、首から掛けるもの、襷状のもの、尻で敷いて楽器の底部に引っ掛けるもの(シートストラップ)などがある。

現在多く用いられているのはドイツ式の楽器であるが、フランス式の楽器もあり、日本ではバソンまたはバッソンと呼ぶことが多い。機構が単純であるため、音程が取りにくい、音量がドイツ式よりも小さいなどの難点もあるが、音色がホルンに近く表現がより豊かであるとされる。バソンは音量があまり大きくないことから、ベルリオーズのように1パートに2本重ねて4管として使われることが多い。

ファゴットよりさらに1オクターヴ低い音を出すコントラファゴット(ダブルバスーン)も、大規模な管弦楽編成や吹奏楽編成において使用されることがある。

ファゴットの演奏には大きな手とある程度の身長が必要なので、小さな子供が練習出来ることを主な目的として、ファゴットの完全4度、5度、1オクターヴ上の音を出すファゴッティーノ(別名クイントファゴットまたはテナルーン)も作られている。
語源

ファゴットは、ドイツ語名称 Fagott、イタリア語名称 fagotto に由来する。スペイン語とルーマニア語でも fagot である[4]。fagot は「の束」を意味する古フランス語である[5]ドゥルシアンはイタリアで fagotto と呼ばれるようになった。

バスーンは英語の bassoon 由来であり、さらにフランス語の basson とイタリア語の bassone(basso に指大接尾辞 -one が付いたもの)に由来する[6]
特徴

ファゴットの音色は低音域では朗々とした音色、テナー音域では「歌うよう」と形容されることが多い。ベートーヴェンの『交響曲第4番』(スタッカート・パッセージ)やリムスキー=コルサコフの『シェヘラザード』(叙情的なパッセージ)が有名である。
音域ファゴットの音域
(A1) B♭1?E5 (A5)
( listen[ヘルプ/ファイル])(A1) B♭1?C5 (D5?G5)

ファゴットの音域はB♭1(中央ハの2オクターヴ下ののすぐ下の変ロ、ヘ音記号で書かれた五線のすぐ下の音)から3オクターヴ強から4オクターヴ弱、おおよそト音記号で書かれた五線の上のG(G5)にまで及ぶ[7]

ほとんどのオーケストラやコンサートバンドのパートではC5またはD5より高い音が要求されることはめったにない。難しいことで有名なストラヴィンスキーの『春の祭典』のオープニングソロでさえもD5までしか上がらない。これよりも高音を出すことは可能であるが、書かれることはまずない。それは、こういった高音を出すのはリードの構造や振る舞いに依存して大抵は非常に骨が折れて難しいのに、いずれにせよコーラングレの同じ音高と音色は完全に同質であり、コーラングレの方が比較的容易にこの音域を出すことができるためである。最高音域はリードの奥の方を噛むなどのやや特殊な奏法が要求される。

フランス式ファゴット(バソンまたはバッソンとも)は極めて高い音域を出すのがより簡単であるため、フランス式ファゴットのために書かれたレパートリーには非常に高い音が含まれる傾向にある。しかし、フランス式のためのレパートリーをドイツ式で吹くことは可能であるし、その逆もしかりである。

他の木管楽器と同様に最低音は固定されているが、楽器に特別な拡張を加えることでA1まで出すことができる。マーラーなどの楽曲において、最低音の半音下のこのイ音(A1)が要求される事があり、対処として1オクターヴ上のイ音を演奏する他に、延長管をベルに取り付けて音域を下に広げる事もある。また、イ音が演奏できる長いベルジョイントと交換できるものもある。近代に入り奏法や運指、リードや楽器自体の発展により演奏可能な音域が高音に広がっている。

主要な音孔の音高は他の非移調楽器の木管楽器よりも5度低い(実質的にはイングリッシュホルンの1オクターブ下)が、ファゴットは非移調楽器であり、実際に出る音程で記譜される。
音響学

ファゴットの主フォルマントは500 Hzであり、2次的フォルマントはおよそ1150、2000、および3500 Hzの領域にある。したがって、ファゴットの音色は母音の「オ」に似ている。主フォルマントより下では、音響出力スペクトルはおよそ8 db/オクターブ低下するため、基音は低音域で相応に弱い[8]

ファゴットの音響学、特にその放出特性は、詳細な科学研究の対象となってきた。音響カメラ(英語版)を使った実験では、矢状面では音の放出にほとんど違いないが、横断面では非常に不規則であることが明らかにされた。低周波数では、音は基本的に全方向に放出されるのに対して、高周波数はより指向性が強い[9][10]
音量

ファゴットはおよそ33 dBのダイナミックレンジを有する。楽器から10メートルの距離ではピアニッシモはおよそ50 db、フォルテッシモはおよそ83 dBに達する。
構成ファゴットの部位4つのオクターブにおけるファゴットのB♭のスペクトログラム分解されたファゴット

ファゴットは6つの主要な部品に分解できる(リードを含む)。上に向かって拡がっているベル(左図中の6および右下図中のa、以下同じ); ベルとブーツをつなぐバスジョイント(ロングジョイントとも,5およびb); 楽器の底部に位置し楽器を折り曲げるブーツ(バット、ダブルジョイントとも,4およびd); ブーツからボーカルまで延びるウィングジョイント(テナージョイントとも,3およびc); そしてウィングジョイントにリードに取り付けるための湾曲した金属製の管であるボーカル[クルック(曲がった部分、の意味)とも。吹き口](2およびe);そしてリード(1、e左端に取り付ける)である。

ベルジョイントの先端部は、大きく分けて「ジャーマンベル」と「フレンチベル」という2種類の形状が存在し、外見上の特徴となっている。「5ピースモデル」(別名 ジェントルマンシステム)という、コンパクトに収納できるモデルもある。組み立てたときの高さは135 cm前後であるが、長い管を二つ折りにした構造の楽器なので、管の総延長はおよそ260 cmに達する。
構造

ファゴットのボアは円錐形(オーボエサクソフォーンのボアと同様)であり、ブーツジョイントの2つの隣接したボアはU字形の金属製連結部によって楽器の底部で連結されている。ボアと音孔はどちらも精密に機械加工されており、それぞれの楽器は適切な調整のために手で仕上げされている。ファゴットの管壁はボアに沿った様々な場所でより厚くなっている。この管壁が厚くなった場所で音孔はボアの軸に対してある角度をなして(斜めに)空けられており、これによって外側の音孔間の距離が短縮されている。これによって、平均的な大人の手の指によって音孔を抑えることができるように工夫されている。現在の楽器では、伝統的な音色を失わない程度に合理的な位置に穴を開け、複雑なキー機装置によって指の届かない音孔の開閉を行っている。キー機構は楽器の全長近くにわたり、キーの数は30前後とかなり多い。ファゴットの全高は1.34メートルに及ぶが、管が二重に折り曲げられていることを考えると鳴っている全長は2.54メートルである。若いあるいは小さい奏者のために作られた短いファゴットも存在する。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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