ピー信仰
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家の精霊に祈りを捧げる仏僧

ピー信仰(ピーしんこう)とは、主にタイ族が信仰するアニミズム(精霊信仰)のことである。バラモン教仏教などの外来宗教の伝来以前からタイ族全般に存在したとされる信仰の形態であり、現在でも外来宗教の影響を受けながらも、タイ族の基層の信仰として根強く残っている。なお、ピー信仰は東南アジア北部や中国雲南省などに分布しているが、ここでは主にタイ人によるピー信仰を扱う。目次

1 概要

2 分類

3 現象の説明としてのピー

4 憑依儀礼

5 憑きものと憑きもの落とし

6 使役されるピー

7 祭祀者

8 仏教・バラモン教との習合

9 ピー信仰と死霊

9.1 ピーと死霊

9.2 ウィンヤーン(??????)

9.3 クワン(????)


10 祭礼

11 脚注

12 関連項目

概要

ピー(??)とは、タイ語において「精霊妖怪お化け」の類を説明するために用いられる言葉である。ピーが一般的にどのようなものを指すかというのは人によって考えに相違があり、一定のイメージは存在しないであろうといわれている。しかし、大まかに分けて解説をすると、バンコクなど都市部では、ピーについて話すと映画などで現れる死霊がイメージされる場合が多い。なお、英語のghostや日本の霊、お化け、妖怪の類はタイ語ではこの語を用いて表現される。

他方、農村部でのピー信仰になると、日本で言う、、妖怪、小さき神々の総体として存在し、民間信仰の神々としてのイメージが現れてくる。荒神的性格があり、人々の生活を守護すると同時に、不敬な行いに対しては祟ることがある。一方で自然霊悪霊浮遊霊のようなイメージもあり、日本の妖怪のような性格を持つ。実体のないものとして存在される場合もあるが、プラカノーンのメー・ナークなどのように実体を伴っている場合もある。

また、ピーの会話の中での用法には、「死体」「死者」を意味する言葉として用いることがある。火葬はパオ・ピーなどと表現される。また、「ピーのように不可思議なもの・人」を表現するためにもこの語を用いる。例えば、ピー・プン・タイは流星を表す。
分類 タイ北部ウッタラディット県トーンセーンカン郡タムボン・ナームピーのナームピー鉄鉱山にある精霊祠

ピーの種類は人間へ善行を成すか、悪行を成すかによって大きく、悪霊と善霊に分かれる。これらすべてのピーを総称してピーサーンテーワダー(??????????) と称される[1]。なお、善行をなすピーはテーワダー(?????、諸神)と同一視される場合があり[2]、一方で、祭祀されない霊が悪霊に変ずるとの見方もある。

ピーの自然霊、出自、守護範囲によっても分類ができる。

自然霊…山の神(チャオカオ:????????)、樹霊、水神(ピーナーム:?????)、穀物神(プラメー・ポーソップ:?????????? あるいは、クワンカーウ(稲魂):????????)、水源霊(ピートンナーム:????????)、浮遊霊(ピーパー:?????)など。

これらは一般に守護の神(テーパーラック:?????????)とされている[1]。樹霊として有名なものに、プラメー・サイガーム(????????????)、ナーン・タキアン(??????????)などがいる。


出自…祖先霊(ピーバンパブルット:??????????? あるいは ピープヤーターヤーイ:?????????????)、英雄霊(ピーウィーラブルット:???????????あるいは、ピーチャオナーイ:?????????)など。

先祖霊は生前の功績により霊となって生前のゆかりの地を守るものであると考えられている[1]。 一方、英雄霊とは三国志の関羽霊(???????)などの様に文字通り英雄の霊と考えられる。北タイではカムデーン王などの英雄の神格化も見られる。


守護範囲…家霊(ピールアン:???????) 、村霊(チャオティーバーン:???????????)、守護霊、国守護霊など。

それぞれのピーの間には階層があり、階層間移動も行われる。たとえば浮遊霊は、霊威を見せることで祠に祭祀されることがある。一方、国守護霊(ピームアン:???????)であっても、時とともに名を忘れ去られ、祭祀されなくなってしまうこともある。

英雄霊・守護霊(ピーチャオナーイ:?????????)の中には、霊威によって階層があり、高位の霊は阿羅漢となるのを待っているとされる。下位の霊は憑依を行い、善行をなし階層をあがっていく[3]

自然霊は、高位の霊は神と同一視され、タムクワン儀礼などに呼び出される。舟競争の舟のタムクワンの際には樹霊(ナーンマイ:??????)が呼び出される。一方、下位の自然霊は、多くのバリエーションを持つ。とくに祭られない下位の霊は悪霊(ピーラーイ:?????? あるいは ピーレーオ:?????)とよばれ、そのほとんどが、人間に対して害をなすものと考えられている。これら悪霊は出現の時間場所に設定のあるものがあり、日本の文化における妖怪の類に近い。餓鬼(ピーボープ:?????)は排泄物水牛や人の臓物を好み徘徊する。
現象の説明としてのピー

ピーは様々な現象を説明するために用いられる。国、村、個人の盛衰、不幸、病気、天災などはピーに関わるものとして理解される。例えば村の守護霊への供物の不足は、守護の低下をもたらし、村外の悪霊を村の中に招き入れることになる。そのために天災、不幸な事故、悪疫の流行をもたらすと考えられている。

また家においても、その不運、病気の発生などはピーに由来するものと考えられた。北タイの祖先霊は、家内での不和、不貞を罰する役割を持つ。そのため、米倉の米の腐食、家内の病気などは祖先霊の怒りとして理解される。

植物が腐ったり、人間などが病気になったりすることを「霊が入る」(ピー・カオ:??????)と表現することもあるが同類の悪霊と考えられている。特に病院にいても直らない病気はピーによるものと考えられ、憑依儀礼や薬師による治療の対象とされる。悪夢もピーの仕業と考えられている。夢魔(ピーアム:????)は、家の梁にぶら下がっており、北枕にして寝ていると胸の上に落ちてきて、呼吸を止める[4]

他にも、人の生死に関わる説明にもピーは関わっている。人は生まれるときに天上に住むメーテーン(母テーン)、ポーテーン(父テーン)と呼ばれる夫婦の霊が鋳型を使って人間の子供をかたちどり、地上に降ろしているという信仰がある。このテーンは人間の寿命の説明とも関連している。テーンに愛された幼児は天上に召し上げ、早逝する。蒙古斑のない幼児がその寵愛の徴とされる(斑はテーンを煩わせ、尻をたたかれた痕だとされる。)。また長寿を願うソン・テーンと呼ばれる儀礼があり、その際にはテーンに供物を奉げることで、寿命を伸ばすことを願うのである。

また、タイではかつて双子はタイの年功序列の社会秩序を乱す縁起の悪いものとして嫌われた。そのため双子はピー・フェートと呼ばれることがある[5]
憑依儀礼 タイ東北部ナコーンパノム県シーソンクラーム郡において憑依儀礼に入るマーキー

ピー信仰には、憑依儀礼があり、シャーマンはマーキー(ラーンソンのほうが一般的)と呼ばれる。マーキーと憑依霊との関係は主従関係。憑依霊の方が主人であり、憑依者は従者である。マーキーはその名前が意味するように憑依霊に御される「」である。

マーキーは憑依によって諸事の託宣を受けることができる。また、儀礼の中には医療儀礼も含まれる。病気の判じ(ピー原因、ピーと自然の原因、自然原因)や薬、護符などの処方を行う。その際に、病院での近代治療、医薬を同時に用いることを勧めることもある。

憑依儀礼はチェンマイ等の都市部において都市民間カルトとして復興の動きがある[6]。ピーは仏教と異なり俗世利益をもたらす性質を持っているため、マーキーの行う託宣は株価の変動、宝くじの番号を当てられるという俗信があり、相談に訪れる人が増えている。また、医療儀礼は現代医療が見放した不治の難病を治すために求められる場合がある。さらに、チェンマイ県のワットドーイカムのプーセ・ヤーセ憑依儀礼は観光客が訪れることも多くなっており、憑依儀礼においても現代社会の流れに対応しながら変化している姿が見られる。
憑きものと憑きもの落とし

悪霊の中には人に憑くものがある。北タイではピーガ(????)、東北タイではピーボープ(?????)と呼ばれる。

北タイのピーガはを媒介に悪霊が運ばれて、人に憑く。憑かれた人は正気を失い、親族を襲うとされている。ピーガが出た際には、儀礼を行い調伏する。また、ピーガは家系に憑くともいわれており(憑きもの筋)、ピーガに憑かれている家では毎年リアンピーガと呼ばれる饗応儀礼を行うことで災厄を取り除く。時に、村人が一家丸ごと村から追い出してしまうこともあったため、今もなお、ピーガは村の暗部として語られることがはばかられる[7]

東北タイのピーボップの除霊には、モータム(除霊師)による調伏儀礼が行われる。
使役されるピー


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