Pyruvate kinase
ピルビン酸キナーゼの立体構造 (PDB: 1PKN
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ピルビン酸キナーゼ(ピルビンさんキナーゼ、英: pyruvate kinase)は、解糖系の最終段階に関与する酵素である。ピルビン酸キナーゼは、ホスホエノールピルビン酸(PEP)からアデノシン二リン酸(ADP)へのリン酸基の転移を触媒し、1分子のピルビン酸と1分子のATPを生成する[1]。「ピルビン酸キナーゼ」という名称は、この酵素がピルビン酸のリン酸化を直接触媒しないことが認識される以前に(一般的なキナーゼとは異なる)不適切な命名がなされたものであり、この反応は生理的条件下では起こらない[2]。ピルビン酸キナーゼは動物では4種類の組織特異的アイソザイムが存在し、そのそれぞれが多様な組織での代謝要求変動への適応に必要な速度論的特性を持つ。 脊椎動物では、ピルビン酸キナーゼはL(肝臓)、R(赤血球)、M1(筋肉と脳)、M2(初期胎児組織と大部分の成体組織)の4種類のアイソザイムが発現している。L型とR型のアイソザイムはPKLR
脊椎動物のアイソザイム
PKM遺伝子は12個のエクソンと11個のイントロンから構成される。PKM1とPKM2は選択的スプライシングによる産物であり(PKM1がエクソン9を含むのに対し、PKM2はエクソン10を含む)、C末端の56アミノ酸(378?434番)のうちの23アミノ酸だけが異なる[5][6]。PKM遺伝子はhnRNPA1やhnRNPA2(英語版)といったhnRNPによって調節されている[7]。ヒトのPKM2単量体は531アミノ酸からなり、A、B、Cのドメインに分けられる。PKM1とPKM2のアミノ酸配列の差異のため、PKM2はFBPによる調節や二量体・四量体形成による調節が行われるのに対し、PKM1は四量体のみを形成する[8]。 大腸菌Escherichia coliなど多くの腸内細菌科の生物にはPykA、PykFの2種類のアイソザイムが存在し、大腸菌では両者の同一性は37%である(Uniprot: PykA 解糖系では、ピルビン酸キナーゼは2段階の反応を触媒する。まず、PEPはADPへリン酸基を転移し、ATPとピルビン酸のエノラートが形成される。続いて、ピルビン酸のエノラートにプロトンが付加され、細胞が必要とする機能的なピルビン酸が形成される[13]。ピルビン酸キナーゼの基質は単純な糖リン酸、そして反応産物はATPであるため、ピルビン酸キナーゼは解糖サイクルの進化の基礎となった酵素である可能性があり、地球上の全ての生命でみられる最も古い酵素の1つである可能性がある。ホスホエノールピルビン酸は非生物的過程によって存在していた可能性があり、また原始的なトリオース解糖系経路において高収率で産生されることが示されている[14]。解糖系の最終段階を示した模式図。ピルビン酸キナーゼによってホスホエノールピルビン酸(PEP)からアデノシン二リン酸(ADP)へリン酸基が転移され、1分子のピルビン酸と1分子のATPが生成される 酵母細胞では、酵母ピルビン酸キナーゼ(YPK)とPEPやアロステリックエフェクターであるFBPとの相互作用は、Mg2+の存在下で強化されることが示されている。そのため、Mg2+はピルビン酸キナーゼによるPEPからピルビン酸への触媒の重要な補因子であると結論付けられる。さらに、Mn2+はYPKに対して同様かつより強い効果を持つことが示されている。ピルビン酸キナーゼの金属結合部位への金属イオンの結合は、この反応を加速させる[15]。 ピルビン酸キナーゼによって触媒される反応は、解糖系の最終段階である。この反応はこの経路の3つの律速段階のうちの1つである。律速段階はある経路の中でより遅く、そして調節を受ける段階であり、そのためこの段階によってその経路全体の速度が決定される。解糖系の律速段階はATPの加水分解またはADPのリン酸化のいずれかと共役しており、そのためこの経路はエネルギー的に有利かつ細胞内で本質的に不可逆なものとなっている。ピルビン酸は他の代謝経路の重要な中間体となるビルディングブロックでもあるため、この最終段階は高度な調節を受け、かつ不可逆なものとなっている[16]。産生されたピルビン酸は、好気条件下でさらなるATP産生のためにTCA回路に入るか、または嫌気条件下で乳酸またはエタノールへ変換される。 ピルビン酸キナーゼは糖新生の調節酵素としても機能する。糖新生は、肝臓などでピルビン酸やその他の基質からグルコースを生成する生化学経路である。糖新生は、グルコースの直接的な貯蔵が尽きた際に、非炭水化物を利用してグルコースを脳や赤血球へ供給する[16]。絶食時にはピルビン酸キナーゼは阻害され、ホスホエノールピルビン酸からピルビン酸への変換が防がれる[16]。そしてその代わりに、ホスホエノールピルビン酸は糖新生反応カスケードによってグルコースへと変換される。糖新生は解糖系と類似した酵素が利用されるものの、解糖系の逆反応であるわけではなく、解糖系の不可逆段階を回避する経路である。さらに、細胞内で糖新生と解糖系は細胞シグナル伝達によって相反する調節を受けるため、いかなる時にも両者が同時に行われることはない[16]。糖新生経路が完了すると、産生されたグルコースは肝臓から排出され、重要な組織にエネルギーを供給する。 解糖系は、ヘキソキナーゼによるグルコースのリン酸化、ホスホフルクトキナーゼによるフルクトース-6-リン酸のリン酸化、ピルビン酸キナーゼによるPEPからADPへのリン酸基の転移の3つの触媒段階で高度な調節を受ける。通常の条件下では、これら3つの反応は全て大きな負の自由エネルギーを有する不可逆的反応であり、この経路の調節を担う[16]。
細菌のアイソザイム
反応
解糖系
糖新生
調節
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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