ピュラー(古代ギリシア語:Π?ρραまたはΠ???α、Pyrrha、ピュッラー)は、ギリシア神話に登場する女性である。エピメーテウスとパンドーラーの娘で、デウカリオーンの妻である。彼女は、デウカリオーンと共に、「青銅の時代」を終焉させた大洪水を生き伸びた人間として知られる[1]。ピュラーとはギリシア語で、「赤い髪の女」の意味である。
パンドーラーの娘のピュラーの外に、アキレウスが少年時代、女装して少女たちのあいだにいた頃の偽名がピュラーである(偽名ピュラー参照)。 「青銅時代」の人間が驕慢であったため、ゼウスはこれらの人々を滅ぼすことを考え、大洪水を起こすことを決めた。ティーターンの一族でもあったプロメーテウスはこれを知り、甥のデウカリオーンに忠告を与えた。こうしてデウカリオーンは箱船を建造し、必要な物品を積み込んで、妻ピュラーと共に乗り込んだ[1]。 やがて雨が車輪のように天より地上に降り、またゼウスの依頼に応じてポセイドーンは泉を溢れさせたため、河川は氾濫し、田畑も家屋も城壁も社も何もかもが水の底に沈んだ。人も家畜も溺れ死に、あるいは餓死した。しかしデウカリオーンとピュラーの乗った箱船は水の上に浮かび、九日九夜のあいだ水の上を漂った後、ポーキス州とボイオーティア州の境界近く、パルナッソス山の二つの峰の場所で止まった。 ゼウスは天よりこの様子を眺めていたが、正しい男女一組だけが残ったことを確認した後、雨雲を払い、青空を示した[2]。他方、アポロドーロスは、二人以外にも高山に登り難を避けた者が少数いたと述べている[3]。天候が回復し、地上を覆っていた水が引いたことを知った二人は箱船より降り、ゼウスに感謝して捧げものをした。また、パルナッソスの南麓に託宣所を持っていた女神テミスにも感謝して祈った。 二人は、世界中に自分たち二人しか人間がいなくなったことを哀しみ、テミスにこの哀しみを訴えた。女神は答え、「爾らの大いなる母の骨を、歩みつつ背後に投げよ」と答えた。二人はこの託宣に驚き畏怖したが、デウカリオーンは女神が悪しきことを述べることはないはずで、「大いなる母の骨」とは「大地を造る岩」のことに違いないとピュラーに語った。こうして二人は、歩みつつ、地上に落ちていた石を拾って背後に投げて行った[4]。 デウカリオーンの投げた石からは男が生まれ、ピュラーの投げた石からは女が生まれた。こうして再び地上には、人類の族が満たされることになった[4]。 他方、アポロドーロスは、テミス女神の神託には言及せず、ゼウスが派遣したヘルメースが、望みを述べれば叶えようと言ったので、二人は人類の再生を望んだと述べている。この願いを聞いて、ゼウスは石を背後に投げることを二人に教え、こうして新しい人類の族が生まれた。この故事により、「石(laas)が転意して人々(laos)となった」のだとアポロドーロスは記している[3]。 ピュラーはデウカリオーンとのあいだに、最初にヘレーンを生んだ。次に、クラナオス王を継いでアッティカ(アテーナイ)王となったアムピクテュオーンを生んだ。第三に娘のプロートゲネイアを生んだ。ヘレーンは、ニュンペーのオルセーイス ピュラーの子孫は、アカイア人、アイオリス人、イオーニア人、ドーリス人となって、繁栄した。 ウーラノス ガイア オーケアノス テーテュース デウカリオーンの妻のピュラーとは別に、若き頃のアキレウスが、トロイア戦争に加わるのを防ぐため、母テティスの意志で、スキューロス島のリュコメーデースの王宮に預けられ、女装して少女たちのあいだに身を潜めていた時、彼はピュラーという偽名を使っていた[6]。 アキレウスはリュコメーデースの王宮で王女デーイダメイアと親しい仲となり、二人のあいだにネオプトレモスが生まれる。ネオプトレモスは、父がピュラーであったので、ピュロス(Pyrrhos)つまり「赤い頭の男」の名を持った。彼の髪が実際に赤髪であったため、または顔が紅潮することが多かったためともされるが、父がピュラーと呼ばれていたのが理由として分かりやすい[7]。 なおネオプトレモスがどのようにして生まれたかについては異伝があり、ミューシア遠征
パンドーラーの娘
大洪水
テミスの託宣石を背後に投げる
デウカリオーンとピュラー
石よりの人類の再生
二人の子孫
系図
イーアペトス クリュメネー
プロメーテウス エピメーテウス パンドーラー
デウカリオーン ピュラー
ヘレーン オルセーイス アムピクテュオーン プロートゲネイア ゼウス
ドーロス クスートス クレウーサ アイオロス エナレテー
イオーン アカイオス
エンデュミオーン
アキレウスの偽名ピュラーリュコメーデースの娘たちと