ピノ・ノワール
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この項目では、葡萄の品種の1つについて説明しています。その他の例については「ピノ」をご覧ください。

ピノ・ノワール
ブドウ (Vitis)
ピノ・ノワールの果房
色黒
別名ブラウブルグンダー、シュペートブルグンダー、ルランドスケー・モドレー、ピノ・ネロなど (別名節を参照)
主な産地ブルゴーニュシャンパーニュ、カリフォルニア州ロシアン・リヴァー・ヴァレー、オレゴン州ウィラメットバレー、ロンバルディア州、マーティンボロ、セントラル・オタゴ、ヴァレー州、アール、バーデン、ビクトリア州モーニングトン半島、ヤラ・ヴァレー
主なワインジュヴレ=シャンベルタンニュイ=サン=ジョルジュヴォーヌ=ロマネ
土壌石灰・粘土質
VIVC番号9279
ワインの特徴
特徴弱めのタンニン
低温気候キャベツ、濡れ落ち葉の香り
中温気候イチゴ、ラズベリー、チェリー、キノコ、肉のような香り
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ピノ・ノワール (Pinot noir) (フランス語: [pino nwa?]) は、おもに赤ワイン用に栽培されるヨーロッパブドウ (ヴィニフェラ種) の一品種である。この名称はピノ・ノワールのブドウから作られたワインに対しても用いられる。名称の由来はフランス語マツ (pin) と黒 (noir) であるとされ、名称に「マツ」が含まれるのは、このブドウの果房が密着粒で松かさのような形状をしていることを示す[1]

ピノ・ノワールは世界各地で栽培されているが、ほとんどは冷涼な気候の地域であり、フランスブルゴーニュ地方と結びつけて語られることがもっぱらである。現在世界各地のピノ・ノワールは赤ワインに用いられているほか、シャンパーニュやイタリアのフランチャコルタ、イングランドなどの白のスパークリングワインにも使用されている。ブルゴーニュ以外にピノ・ノワールの赤ワインで高い評価を受けている地域には、アメリカ合衆国のオレゴン州およびカリフォルニア州、オーストラリアのビクトリア州、 ニュージーランドのマーティンボロやセントラル・オタゴ、ドイツのアールやバーデンなどがある。 ピノ・ノワールは、シャンパーニュなどのワイン生産地域において、スパークリングワイン用の品種のなかでも栽培面積が最大 (38%) である[2]

ピノ・ノワールは、栽培するにもワインにするにも困難な品種である[3]。 果房が高密度な密着粒となる傾向があるため、かび病などの病害や天候被害を受けやすく、小まめな樹冠管理を必要とする。果皮が薄くフェノール化合物の含有量が少ないことから、ピノ・ノワールは大概の場合色味が淡くタンニンの強くないミディアムボディのワインになり、熟成の段階が一様でなかったり予測が困難であったりすることも多い。ピノ・ノワールから作られたワインは、年月が浅いうちはチェリーやラズベリー、イチゴといった赤い果実のアロマを帯びる傾向にある。だが年月を経るにつれ、ワインに複雑さを与える要因となる、野菜的なアロマや「農家の庭」のようなアロマを生み出す力をもつ[2]
特徴ブルゴーニュのサントネで栽培されているピノ・ノワールのブドウ

ピノ・ノワール栽培の本場はフランスのブルゴーニュ地方、とくにコート=ドール県である。また、ピノ・ノワールはアルゼンチンオーストラリアオーストリアブルガリア、カナダ、チリ、クロアチア北部、チェコ共和国、ジョージア共和国、ドイツギリシャ、イスラエル、イタリアハンガリー、コソボ、北マケドニア共和国、モルドバ、ニュージーランド、ルーマニア、セルビア、スロバキア、スロベニア、南アフリカ共和国、スイス、ウクライナ、アメリカ合衆国、ウルグアイでも栽培されている。アメリカ合衆国はピノ・ノワールの主要な生産国になりつつあり、最も評価の高いワインには、オレゴン州のウィラメット・ヴァレー AVA、カリフォルニア州ソノマ郡のロシアン・リヴァー・ヴァレー AVAやソノマ・コースト AVAなどのものがある。知名度は劣るが、メンドシーノ郡のアンダーソン・ヴァレー AVA セントラル・コーストのサンタルシア・ハイランズ AVA、サンタバーバラ郡のサンタ・マリア・ヴァレー AVAやサンタ・リタ・ヒルズ AVAなどもある。ニュージーランドでは、おもにマーティンボロ、マールボロ、ワイパラ、セントラル・オタゴで栽培されている。
ブドウ栄養の欠乏症状を示すピノ・ノワールの葉。縁がワインレッド色に変色している。

ピノ・ノワールの葉は、カベルネ・ソーヴィニヨンシラーと比べ概して小さい。通常、これらの品種と比べてピノの樹体は病虫害や天候災害に弱い。果房は小さめで、松かさのような円錐に近い円筒形をしている。ブドウ栽培の歴史研究者のなかには、この形状の類似性からピノという名称が生まれたのではと考える者もいる (マツはラテン語でpinus、フランス語でpin) [4]。 畑での栽培過程においては、ピノ・ノワールは風や霜、収量制限 (質の高いワインを作るには収量を低く抑えなければならない) 、土壌のタイプや剪定の仕方に対して敏感である。発蕾時期が早いことから春の霜害を受けたり結実不良を起こしやすい。また、穏やかな気候と石灰質・粘土質の土壌を好む[5]。醸造過程においては、発酵の手法や酵母の種類に対して敏感であるほか、テロワールが強く反映されるため、地域ごとに大きく異なったワインが生まれる。ピノ・ノワールは果皮が薄いため、日光や熱で傷みやすいほか、灰色かび病やそれに類する糸状菌の病気にかかりやすい。樹体自体がうどんこ病にかかりやすく、葉巻ウイルスやファンリーフ・ウイルス(英語版)への感染が、ブドウ樹の健康状態に大きな問題を起こしている[5]。このブドウは栽培が難しいという評価は、こうした面倒さからきており、ジャンシス・ロビンソンはピノのことを「ブドウ樹のおてんば娘」[6] と呼び、アンドレ・チェリチェフ(英語版)は「神はカベルネ・ソーヴィニヨンをつくり、悪魔はピノ・ノワールをつくった」[6] と明言している。ピノ・ノワールは、苛酷な条件のブドウ畑に対し、カベルネ・ソーヴィニヨンやシラー、メルローグルナッシュのような他の国際的に有名な品種よりもはるかに許容度が低いのである。ブルゴーニュ産ピノ・ノワールのワイン
ワイン

しかしながら、ピノ・ノワールのワインは世界中で最も人気のあるワインのひとつである。『ヴァニティ・フェア』誌のジョエル・フライシュマンは、ピノ・ノワールのワインを評して「ワインのなかで最もロマンティックであり、きわめて官能的な芳香、とてもゆったりとして魅惑的なエッジ (液体の縁の部分) 、そして非常に活き活きとした力強さをもつため、あたかも恋に落ちたかのように、体を流れる血は熱くなり、魂は恥ずかしいくらいに詩的な輝きを放つ」[7]と述べている。マスター・ソムリエ (MS) のマデリーン・トリフォン(英語版)はピノのことを「グラスの中のセックス」[7]と呼んでいる。

ピノ・ノワールが生み出すアロマやブーケ、構成や印象は驚くほど幅が広く、テイスティングをする者を混乱させることも珍しくない[4]。非常に大雑把なまとめ方をすれば、ピノ・ノワールは黒・赤両方 (もしくはどちらか) のチェリーラズベリーを思わせるアロマをもち、それよりは弱いがスグリやその他多くの小さな赤・黒のベリーの果実も感じさせる、ライトボディからミディアムボディのワインになる傾向がある。年月を経るとジビエ甘草、秋の下草のようなブーケをまとうことが多い[8]。伝統的なブルゴーニュの赤ワインは、その肉料理のようなブーケや「農家の庭」のようなブーケ (後者は時としてチオールなどの還元による臭いの特徴と関係があるとされる) で有名だが、流行の変化や近代的なワイン醸造技術の発達、栽培しやすい新クローンの登場は、ボディがもっと軽く、より果実味を全面に出した清澄なタイプにとって有利に働いている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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