ビタミンK
識別情報
CAS登録番号12001-79-5
ビタミンK (Vitamin K) は、脂溶性ビタミンの一種である。ビタミンK依存性タンパク質の活性化に必須であり、動物体内で血液の凝固や組織の石灰化に関わっている。したがって欠乏すると出血傾向となり、また骨粗鬆症や動脈硬化に関連していると考えられている。化学構造上は2-メチル-1,4-ナフトキノンの3位誘導体で、天然にはK1とK2の2種類があり、このうちK2にはイソプレノイド側鎖の長さや修飾が異なる多数の化合物が含まれる。
種類代表的なビタミンKの構造式。MK-4とMK-7はともにビタミンK2の一種。
ビタミンKにはK1からK5の5種類が知られている。天然のビタミンKは2-メチル-1,4-ナフトキノンを基本骨格とし、3位に結合した側鎖の構造に違いがある。
本項では主に動物体内におけるビタミンとしての解説を扱うので、化合物としての性質や動物以外の生物における機能については各項目を参照のこと。
ビタミンK1
「フィロキノン」も参照フィロキノン、ファイトメナジオンなどとも呼ばれ、植物が光合成に使うために合成している。摂取源としては葉菜類、植物油、豆類、海藻類、魚介類などが挙げられる。
ビタミンK2
「メナキノン」も参照メナキノンとも呼ばれ、その側鎖の長さによってメナキノン-4、メナキノン-7の様に区別されている。この数字は側鎖を構成するイソプレン単位の数を表しており、それぞれMK-4、MK-7のように略記する。MK-4は動物体内に多く存在するもので、食餌から得たビタミンK1を動脈壁や膵臓、精巣などで変換している[3][4]。原核生物はMK-6からMK-14という側鎖の長いメナキノンを合成し呼吸に利用している。摂取源としては食肉、鶏卵、乳製品などが挙げられるが、納豆には非常に多く含まれている。
ビタミンK3
「メナジオン」も参照メナジオンとも呼ばれ、動物体内で代謝されてビタミンK2となる。代表的な合成ビタミンKであるが、動物体内にも反応中間体としてわずかに存在する[5]。大量摂取により毒性を示すためサプリメントとしては使用されないが[6]、安価なビタミンK源として動物用飼料に添加されている[7]。
ビタミンK4
「メナジオール」も参照メナジオールとも呼ばれ、ビタミンK3の還元型である。
ビタミンK5
4-アミノ-2-メチル-1-ナフトール[8]。ビタミンK4の4位の水酸基をアミノ基に置換したもの。
これら一群の化合物は動物体内でビタミンKとして作用するが、全く等価という訳ではない。 ビタミンK1のフィロキノンは、いくつかの組織(精巣、膵臓、血管壁)においてビタミンK2のMK-4に変換される[9][10]。いくつかの医薬品がこの変換過程に関わる一部の酵素を阻害することが判明しつつある。 ビタミンKは以下の3つの状態がある。 名称略称構造説明 ビタミンKはガンマグルタミルカルボキシラーゼ(別名ビタミンK依存的カルボキシラーゼ)の補因子である。この酵素はGlaタンパク質と総称される一連のビタミンK依存性タンパク質の翻訳後修飾(カルボキシル化)に関わっており、その働きでGlaタンパク質の特定の位置にγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基が生じ機能性が獲得される。Glaはグルタミン酸の4位の炭素がカルボキシル化され、1つの炭素原子に2つのカルボキシル基が結合した構造をしている。これによりカルシウムイオンをキレートすることができ、実際Glaタンパク質はカルシウムイオンの結合により活性化するものが多い[11]。 ビタミンKがGlaタンパク質の成熟に関わるメカニズムは以下の通りである。 これをビタミンKサイクルと呼び[18]、このサイクルが常にビタミンKを再生するのでビタミンKは欠乏しにくい。 Glaタンパク質はヒトの場合16個見付かっており、機能別に挙げると次の通りである。
変換
K1 → K2 変換
状態
ビタミンKKキノン骨格。
ビタミンKヒドロキノンKH2還元型のビタミンK。
ビタミンKエポキシドKOエポキシ化されたビタミンK。
機能γ-カルボキシグルタミン酸
Glaタンパク質
ビタミンKは、ビタミンKエポキシド還元酵素(VKOR)により還元されビタミンKヒドロキノンになる[15]。
ガンマグルタミルカルボキシラーゼがビタミンKヒドロキノンをビタミンKエポキシドに酸化して、同時にタンパク質中の特定のグルタミン酸残基をカルボキシグルタミン酸に修飾する。[16][17]
生じたビタミンKエポキシドはVKORによってビタミンKに戻される。
血液凝固
凝固因子のプロトロンビン(prothrombin, factor II)、第VII因子(factor VII)、第IX因子(factor IX)、第X因子(factor X)、および凝固抑制因子のprotein C、protein S、protein Z。これらは肝臓で合成される[19]。
組織の石灰化
骨芽細胞が作るオステオカルシン(osteocalcin, bone Gla protein)とマトリックスGlaタンパク質
細胞増殖因子
Growth arrest-specific protein 6 (Gas6)[24]
機能不明
Proline-rich g-carboxy glutamyl proteins (PRGPs) 1 and 2, and transmembrane g-carboxy glutamyl proteins (TMGs) 3 and 4.[25]
ガンマグルタミルカルボキシラーゼによりカルボキシル化されるグルタミン酸残基は、Glaドメインと呼ばれる構造中に存在することが多い。 血液凝固に関わる多くの因子がビタミンK依存性タンパク質であり、ビタミンKは正常な血液凝固に必須である。成人では、通常の食事で血液凝固に関してビタミンK不足になることは無いが、新生児、乳児、肝疾患により、出血症が知られる。新生児用の粉ミルクには、ビタミンKを食品添加物として入れてある。また、産科では出生時、出生1週間、一か月健診などの頃合いで、ビタミンKシロップを投与する[26]。 ビタミンKのうちビタミンK2(MK-4)が骨粗鬆症の治療薬として利用されている。骨形成マーカーの1つであるオステオカルシンは、ビタミンKによって活性化され骨代謝を調節する。このオステオカルシンを十分に活性化するためには、血液凝固を維持するために必要なビタミンK量よりも多くのビタミンKを摂取しなければならない[27]。納豆を多く食べる習慣のある地方では、納豆をあまり食べない地方よりも骨折が少ないことが知られており、納豆に含まれるビタミンK2(MK-7)が骨折を予防する因子と考えられる[28]。ビタミンKのうち、MK-4やMK-7などのビタミンK2はオステオカルシンを活性化するだけでなく、骨組織に対して直接的に骨形成を促進し、骨の破壊を抑える効果がある[29]。また、ビタミンK2は、骨のコラーゲン生産を促進し、骨質を改善する点に特徴がある[30]。 研究段階ではあるが、心臓、骨、腎臓、脳、一部のがんやインスリン感受性などとの関連が研究されている[31]。 動脈にカルシウムが沈着する動脈石灰化が動脈硬化症の最も重要な症状の1つとして認識されている[32]。ビタミンK依存性タンパク質の1つであるマトリックスGlaタンパク質 ビタミンKクリームは、挫傷の治療や色素沈着の抑制に使われてきており、血管外の血液の除去を容易にする[47]。ビタミンKとレチノールが含まれるクリームによって、有意に目の周囲の腫れや変色を減らすと考えられている[48]。 「日本人の食事摂取基準 (2010年版)」[49]において、ビタミンK摂取目安量は血液凝固を指標として決められている。 目安量(AI、2010年版)[50]年齢男性女性 目安量(AI、2015年版)[51]年齢男性女性
血液凝固とビタミンK
骨代謝とビタミンK
病気との関連
動脈硬化
その他
ビタミンK2の高用量摂取は、メタボリックシンドロームの発生を減らすとの報告がある[38]。
ビタミンKはインスリン抵抗性(感受性)を改善し、2型糖尿病のリスクを低下させると示唆されている[39]。
ビタミンK1が、白内障のリスクを低減するとする報告がある[40]。
アルツハイマー病の患者では、ビタミンKの摂取量が少ないとする研究がある[41]。
歯周病病巣部では、歯肉溝滲出液中のビタミンK1濃度が低いという報告がある[42]。
ビタミンK2(MK-7)は、アディポネクチンを増やし、内臓脂肪を低減させる可能性がある[43]。
ラットでは、ビタミンK1の塗布により、傷の治りが早まるという報告がある[44]。
ラットの脳では、スフィンゴ脂質の濃度が、ビタミンK2(MK-4)の濃度に相関しているとする研究がある[45]。
ビタミンKと炎症との間に逆の相関があり、ビタミンKが多いと炎症マーカーが低くなるコホート研究がある[46]
ビタミンKクリーム
摂取
食事摂取基準
目安量
目安量(AI)は「潜在的な欠乏状態を回避できる摂取量として82 μg/日(体重72 kg)が必要であるとのアメリカの報告」に基づいて体重比で求められており、通常の食生活で充分に摂取されていれば欠乏症に陥ることはほとんどないと考えられている。
18-29歳75μg60μg
30歳以上75μg65μg
18-29歳150μg150μg
30歳以上150μg150μg
上限量(UL)
ビタミンK1(フィロキノン)とビタミンK2(メナキノン)については副作用の報告がなく耐容上限量は設定されていない。
ビタミンK3(メナジオン)は大量摂取による毒性が認められる場合があるとしている。
病気の場合
「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」[52]では、250-300μgの摂取を推奨している。
摂取源
腸内細菌の合成
ヒトなどの腸管内には腸内細菌が棲んでいるが、腸内細菌はビタミンB群や、ビタミンKの合成を行っている[53]。腸内細菌は、長鎖MK(MK-8?MK-13)を多く作る。成人では腸内細菌の作るビタミンKにより必要量をまかなえると考えられていたが、腸内細菌由来のビタミンKを遠位消化管から吸収することは難しく[54]、腸内細菌由来のビタミンKの利用だけでは十分に得ることができない[55][56]。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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