ビタミンA
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ビタミンA

IUPAC命名法による物質名
IUPAC名

(2E,4E,6E,8E)-3,7-Dimethyl-9-(2,6,6-trimethyl-1-cyclohexen-1-yl)-2,4,6,8-nonatetraen-1-ol (Retinol)

臨床データ
販売名一般用医薬品検索
Drugs.commonograph
胎児危険度分類

US: A




法的規制

US: OTC

識別
CAS番号
68-26-8 
ATCコードV04CB01 (WHO)
PubChemCID: 445354
DrugBankDB00162 
ChemSpider393012 
KEGGD06543  
ChEBICHEBI:17336 
ChEMBLCHEMBL986 
NIAID ChemDB008876
化学的データ
化学式C20H30O
分子量286.4516 g/mol
SMILES

C\C(=C/CO)\C=C\C=C(/C)\C=C\C1=C(C)CCCC1(C)C

InChI

InChI=1S/C20H30O/c1-16(8-6-9-17(2)13-15-21)11-12-19-18(3)10-7-14-20(19,4)5/h6,8-9,11-13,21H,7,10,14-15H2,1-5H3/b9-6+,12-11+,16-8+,17-13+ 

Key:FPIPGXGPPPQFEQ-OVSJKPMPSA-N 

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ビタミンA (Vitamin A) とは、物質としては一般にレチノール(英語版)(Retinol、アルコール体)を指し[1][2]、ビタミンA1としても知られる。広義にはレチナール(Retinal、アルデヒド体)、レチノイン酸(Retinoic Acid、ビタミンA酸とも)およびこれらの3-デヒドロ体(ビタミンA2と呼ぶ)や関連物質を含め[3]誘導体を含めてレチノイドと総称される[3]。レチノールは必須栄養素で皮膚細胞の分化を促進する[4]。ビタミンAやβ-カロテンは栄養素のひとつで、脂溶性ビタミンに分類される。ビタミンAは動物の体内に存在し、β-カロテンなど動物の体内でビタミンAに変換されるものは総称してプロビタミンAと呼ぶ。ビタミンAの過剰症と欠乏症があり、妊婦では必要摂取量が増加する。日本で医薬部外品として化粧品に配合されたレチノールのシワ改善作用の効能表示が承認されているが[5]皮膚刺激性と物質としての不安定な性質は問題視されている[6][7]
ビタミンAとは

国際的にはビタミンAは生理作用を表す際に用い、栄養学的にビタミンAと呼ばれている物質としてはレチノール (Retinol) と呼ぶ[1]。一般に、レチノールがビタミンAと呼ばれ末端の官能基はアルコール体である[2]

体内で、視覚に関与する末端がアルデヒド体のレチナール、遺伝子発現の調整に関わる末端がカルボン酸のレチノイン酸へと順に酸化され、活性作用の本体となる[2]。ここまでが広義にビタミンAと呼ばれる[3]。その類縁物質を含めてレチノイドと呼ばれる[8]

ほかに摂取されて体内でビタミンAの生理作用を起こす物質には、レチニルエステルや、プロビタミンAに分類されるカロテノイドがあり、β-カロテンなどおよそ50種類がある[3]。動物性食品からは、レチニル脂肪酸エステルとして、主に植物性食品からはプロビタミンAのカロテノイドとして摂取され、カロテノイドでは摂取による過剰症が起こらない点で異なる[3]
構造体内で代謝されると、上から、レチノールエステル、レチノール、レチナール、レチノイン酸へと1ステップごとに変換される。

レチノール(変換図2番目)、右端の-CH2OH(アルコール)の部分が、-CHO ならばレチナール(アルデヒド)、-COOH ならばレチノイン酸カルボン酸)である。左側にある環構造の左下の結合が二重結合になったものが3-デヒドロレチノールである。

酢酸レチノール

パルミチン酸レチノールは、皮膚に蓄えられる形態。

物性(レチノール)

分子量 286.46

紫外線吸収極大 325 nm

蛍光波長 励起 325 nm 蛍光 470 nm

に不溶。

酸化を受けやすい。

乾燥、高温で壊れる。

アルカリ条件下では比較的安定。

ビタミンEなどの抗酸化剤共存下では安定度を増す。

空気、酸素、湿気、熱、光などによって容易に分解され外用薬としての有効成分として機能しなくなるため、低温、高油分の状態での保存がよく、レチノールをカプセル化するといった加工が施されることがある[4]。レチノールは化学的また光学的に不安定であり、4度の温度で紫外線下では遊離した含水レチノールは2日以内に完全に分解し、リポソーム加工を施した場合には8日後でも分解されたのは20%であった[9]

レチノールでは光に対して2時間後にほとんどすべてが分解されており、特性を改良したレチノイン酸レチニルでは24時間後に分解のピークが見られ、熱に対しては常温で4週間後にはレチノイン酸レチニルではまだ90%が分解せず保たれているが、レチノールでは70%であった[10]
生理活性

レチノールは必須栄養素で皮膚細胞の分化を促進する[4]。ヒト血液中のビタミンAはほとんどがレチノールである。血中濃度は通常0.5 μg/ml程度で、0.3 μg/mlを切るとビタミンA欠乏症状を呈する。

β-カロテンは、体内で小腸の吸収上皮細胞(あるいは肝臓、腎臓)において分解されて、ビタミンAとなる。レチノイドの名前が網膜 (retina) に由来するように、網膜細胞の保護に用いられ、欠乏すると夜盲症などの症状を生じる。また、DNAの遺伝子情報の制御にも用いられる。

人体においては、眼球の網膜上にある視細胞のうち、薄明視に重要な桿状体細胞において、桿体オプシン(蛋白質)とリシン残基を介して結合し、ロドプシンとなる。ビタミンAはロドプシンの発色団となる。ロドプシンは視色素と呼ばれる一群の物質の一つで、視細胞における、光による興奮(視興奮)の引き金機構として重要な物質である。

ロドプシンが視神経に信号を伝えるのは、次の網膜でのメカニズムによる。βカロテンが鎖の真ん中で切断されると、二つのトランス型のレチノールというアルコール型のビタミンAが生成する。レチノールは酸化されてレチナールというアルデヒドになる。このトランス型のレチナールを、シス型のレチナールに変化させ、タンパク質であるオプシンに収納される。この状態が、ロドプシンである。このロドプシンへが当たるとシス型のレチナールが安定なトランス型に戻り、トランス型レチナール分子は、オプシンに収まらず、はずれてしまう。この変化が細胞の中に伝えられ、化学的に増幅されて、光が当たった、という信号となって視神経に伝えられる。トランス型レチナールは、再びイソメラーゼの働きでシス型に折り曲げられてオプシンに収納される。やがてレチナールは消耗するので、不足した分は、レチノールから酸化して補われる。このため、網膜にはレチノールをレチナールに酸化するためのアルコール脱水素酵素が豊富に存在する[11]。ビタミンAであるレチノールが不足すると上記のような役割を担うロドプシンが機能しなくなり、夜盲症が発症する。

レチノイン酸は、ムコ多糖の生合成を促進して、細胞膜の抵抗性を増強するといわれている。

ビタミンAは、線維芽細胞増殖因子-18 (FGF18(英語版)) を上昇させ、肺のエラスチンの発現を増やす[12][13]ため、先天性横隔膜ヘルニア (CDH)の治療に使えるのではないかとして研究されている[13]
一日の所要量

単位としては、国際単位 (IU) をかつて用いていた。β-カロテンの場合、生体内におけるレチノールへの変換の際の収率、消化吸収率がレチノールと異なるため、β-カロテン 12 μgがレチノール1 μgに相当する。なお、少し前までビタミンAはビタミンA効力(単位はIU;アイユー)で表されていたが、ビタミンA作用をする量であるレチノール当量 (μg) で表されるようになった。なお、レチノール当量 (RE) 表記では、1 IU = 0.33 μgREとなる[14][15]

年齢範囲単位
0-1歳1,000 - 1,300 IU
1-5歳1,000 - 1,500 IU
6-8歳1,200 IU
9-14歳1,500 IU
成人男子2,000 IU
成人女子1,800 IU
授乳婦3,200 IU
※ 許容上限摂取量 成人で5,000 IU

100,000 IU 以上の摂取では過剰障害を起こすことがある。

パルミチン酸レチノールとして75,000IUを摂取して安全であったという研究がある[16]

なお、ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(1995年11月23日発行)の報告では、妊娠前後でビタミンA所要量は増加せず、非妊娠時でも妊娠期でも、成人女性の所要量は1,800 IU とされる。そのため、他の栄養素と異なりビタミンAの所要量は増加しないので、妊婦では過剰摂取に特に留意が必要だ、という見解もある。

ビタミンAを簡単にとるには、ビタミンA前駆体のβ-カロテンを多く含む緑黄色野菜、例えばニンジンピーマンホウレンソウコマツナカボチャなどをとるとよい。
妊娠中のビタミンA摂取について

日本の厚生労働省では妊婦のビタミンA摂取量は、上限許容量が5000 IUとされている。ただし、ビタミンAが含まれている食品は意外と多く、総摂取量で見ると摂取過剰になると予想される。ビタミンAは1日10000 IU以上を連日摂取してしまうと奇形発生が増加すると考えられる報告がある。妊娠12週までにビタミンAを連日15000 IU以上摂取すると、水頭症口蓋裂等、胎児奇形発生の危険度がビタミンA摂取量5000 IU未満の妊婦に比して、3.5倍高くなると報告されている。一方で欠乏した場合は未分化性の胎児奇形(単眼症など)のリスクが生じる。近代以前の日本では肉食文化が乏しくビタミンA欠乏が頻繁に見られる現象であったとも考えられており[17][18]、ビタミンA過剰が過剰分化性の奇形(先述の口蓋裂等)を誘発することとは対照的な問題である。ただし、ビタミンAの過剰摂取による催奇形性の報告は、主にサプリメント由来のビタミンA(レチノイン酸)であり、動物性由来のビタミンA(レチノール)は20000 IU以上摂取しても問題がなかったと言う報告もある。

医薬品のビタミンAの場合、妊娠3か月以内、又は妊娠を希望する婦人へのビタミンA 5000 IU/日以上の投与は禁忌(処方してはいけない)とされている。

30歳から49歳の女性の1日のビタミンの目安摂取量。

ビタミンA 1800 IUもしくは540 μg(妊婦 2000 IUもしくは600 μg)

摂取上限 5000 IU(1500 μg、β-カロテンで摂取する場合、この数値は当てはまらない)

β-カロテンは体内でビタミンAに変化する前駆体のプロビタミンAである。野菜にはβカロテンの形で含まれている。

ほうれん草(ゆで)100 g中2900 IU

春菊(ゆで)100 g中2600 IU

コマツナ(ゆで)100 g中2800 IU

わかめ(乾燥)100 g中4800 IU

にんじん(水煮)100 g中4600 IU

ビタミンA(レチノール)が動物性食品に多く含まれるのに対し、β-カロテンは緑黄色野菜海草に多く含まれる色素の一種。体内に入ってビタミンAが十分ならAに変化しないため、過剰摂取の心配はない。
多く含む食品

いずれも表記は100 gあたり。

肝油: 100,000 IU

バター: 有塩バターで1,600 IU

牛乳: 120 IU

チーズ: プロセスチーズで850 IU

: 鶏卵で460 IU

強化マーガリン: ソフトタイプのJIS上級マーガリンで5,500 IU

緑黄色野菜: 例として、ほうれん草生葉で、2,100 IU

レバー: 豚レバーで39,000 IU

ウナギ: 蒲焼で4,500 IU

日本人におけるビタミンAの供給源の構成は、緑黄色野菜50%、肉類15%、魚介・乳類10%、卵類10%。
摂取時の注意

ビタミンAは高温において酸化・分解を受けやすく、また、脂に溶ける性質がある。


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