プロレスにおけるヒール(Heel)は、プロレス興行のギミック上、悪役を務めて、観客や視聴者を怒らせる立場のプロレスラーのこと[1][2][3]。悪役、悪玉、悪党派などとも呼ばれる。昨今ではヒールかベビーフェイスかの区別がつき辛い者も存在する[4]。ヒールの対義語としては、善玉、正統派を意味するベビーフェイス(Babyface)が存在する[5][4]。擬似的なモノだが、現実と区別がつかない人によって、ヒール役がリング外で犯罪被害や嫌がらせ、誹謗中傷、死傷の目にあうことがある[2][6][7]。メキシコにおけるルチャリブレではヒールのことを「ルード」、ベビーフェイスを「リンピオ」あるいは「テクニコ」と呼ぶ(いずれも男性形。女性ではルードはルーダと呼ばれる)。
通常、ヒールは反則を多用したラフファイトを展開する。金的への攻撃、凶器の使用といった反則はもちろん、レフェリーへの暴行、挑発行為、観客席での場外乱闘、果ては他者の試合への乱入なども行う(ただし、何を行うかは選手毎に様々である。ヒールは、元々はアメリカのプロレス業界で用いられていたスラングである。日本では元々「悪玉」「善玉」という日本語の表現が用いられていたが、現在では日本のプロレス業界でも一般的な単語になっており、プロレス以外のスポーツや一般社会や創作物の中でも、敵役的なイメージの人物をヒールと呼ぶことがある。
歴史外国人ヒールの一例。マイクアピールを行うイラン出身のアイアン・シーク。反逆者ヒールの一例。ストーン・コールド・スティーブ・オースチン。
1920年代、アメリカの都市部で隆盛したレスリング・ショーにおいて「正義」対「悪」という、勧善懲悪的アングルが興行を盛り上げる上で必要と考えられたため、「ベビーフェイス」と同時に「ヒール」が発祥した。
基本的にはどの国でも自国レスラーがベビーフェイス、外国人レスラーがヒールというのが通例であった。アメリカでは人種に基づく差別や偏見が根強く存在し、多くの場合第二次世界大戦で敵国人だった日本系(グレート東郷、ハロルド坂田、ミスター・モトなど)やドイツ系(ギミックではあるがハンス・シュミット、フリッツ・フォン・エリック、ワルドー・フォン・エリックなど)、あるいは旧共産圏のスラブ系(イワン・コロフ、クリス・マルコフ、ニコライ・ボルコフなど)や異文化・異教徒を象徴するアラブ系(ザ・シーク、スカンドル・アクバ、ジェネラル・アドナンなど)、正体不明の覆面レスラー(ザ・デストロイヤー、ジ・アサシンズ、ザ・スポイラーなど)といった、わかりやすいヒールが主流であった。ジャイアント馬場もアメリカ修行時代にはヒールとして活動している。
日本でも力道山時代には、外国人=ヒールという図式のもと、アメリカ人の悪役を日本人である力道山[8]が倒すのが定番の流れだった。第二次世界大戦の戦勝国であるアメリカの大柄なレスラーを、敗戦(日本の降伏)で意気消沈した日本の小柄な力道山が倒すという展開に当時の日本のファンは熱狂した。
しかし1970年代に入ると、日本のプロレス界ではアメリカ人のドリー・ファンク・ジュニアとテリー・ファンクの兄弟がベビーフェイスとして人気を得た[9]。スタン・ハンセンやブルーザー・ブロディなどは本来はヒール的な役回りでありながら、その強さで日本人ベビーフェイス以上の人気を得た。逆に上田馬之助や極悪同盟は日本人でありながら日本国内でもヒールであった。