「ヒートアイランド」のその他の用法については「ヒートアイランド (曖昧さ回避)」をご覧ください。
ヒートアイランド(「熱の島」英語: urban heat island, UHI)とは、都市部の気温がその周辺の郊外部に比べて高温を示す現象。住民の健康や生活、自然環境への影響、例えば夏季は熱中症の増加や不快さの増大、冬季は感染症を媒介する生物の越冬が可能になることが挙げられ、問題視されている。
都市化が進むほど、ヒートアイランドも強まり、高温の長時間化や高温域の拡大が起こる[参 1]。ただ巨大都市に限ったものではなく、人口数千人から数万人と規模の小さな都市でも小規模ながら発生する。また、各都市の地勢や気候によっては、風下の郊外部にも高温化が波及することがある[参 2][1]。
「ヒートアイランド」という語は英語からきており、直訳すると「熱の島」であるが、これは気温分布を描いたとき、等温線が都市を中心にして閉じ、ちょうど都市部が周辺から浮いた島のように見えることに由来する[参 1]。日本語に訳す場合は都市温暖化または都市高温化とされる。東京は世界的にも速くヒートアイランドが進行している[参 3]。上のグラフは関東地方の 9月の平均気温の変動を示す。 都市は、郊外に比べて高温・乾燥で独特の風系を有する傾向にある。こうした都市特有の気候を気候学においては都市気候と呼び、これを研究する都市気候学
東京の気温は1930年頃に横浜を、その後は千葉県南部にある勝浦をも上回り、1980年代からは地球温暖化の進行による急上昇も顕著になる。また南から北へと風が流れる夏場の関東では、最大の熱排出源である東京より北方での気温上昇が大きく現れている。また、このグラフから、勝浦が最も気温の上昇が小さいことがわかる。
研究
「都市の気温が郊外に比べて上昇している」ことが初めて発見されたのは、1810年代のロンドンとされている。イギリスの科学者・気象研究者であったリューク・ハワード
(Luke Howard)は、当時産業革命により著しく発達していたロンドンの気温が、周辺地域よりも高くなってきていることを発見した。これ以降、欧米を中心に世界各地の大都市で気温上昇が観測されるようになり、やがてUrban Heat Islandと呼ばれるようになった[2][3]。日本では、初期の研究として福井・和田(1941)による東京市(当時)郊外と都心の観測報告があり、現在の練馬区にあたる郊外と都心とで5℃の気温差があったという。その後1950年代から1960年代にかけて、気温分布など都市特有の気候を研究する論文がいくつか発表されている[4][5]。ただし、ヒートアイランドという言葉が一般に知られるようになったのは、大きく報道された1970年代からである[2][3]。
ヒートアイランドは現在世界中の都市で観測されており[参 3][6]、日本でも最大規模のヒートアイランドが起こっている東京をはじめとして、その深刻化が問題となっている。特に、今後はアジアの都市での深刻化が懸念されている[4]。 ヒートアイランドの進行を示す資料の例(1) ヒートアイランドは厳密には、「都市が無かった場合に推定される気温よりも実際の気温が高い状態」である[参 1]。調べ方には、気象台やアメダスなどでの定点気象観測のデータをもとにした統計と、数値予報モデルによる推定の2通りがある[参 4]。 ふつう、都市化の前後を含めた長期のデータにより、都市部と郊外部の気温変化を比較することで、ヒートアイランドの進行状況をみる。平均気温、月平均の最高および最低気温のほか、夏日、真夏日、猛暑日、熱帯夜、冬日などの日数の変化も、間接的に気温の変化を表すデータであり有効とされている。なおヒートアイランドの評価においては、「N年前よりもX℃上昇した」のように絶対的な気温変化ではなく、「N年前との比較で地点Aよりも気温上昇がX℃大きかった」のような郊外部との比較を行うのが適切であるが、これは地球温暖化などによる広域的な気温変化の影響を取り除くためである[参 5][7]。 一方、定量的な指標ではないが、初雪、初霜、初氷、雪日数といった季節現象、桜の開花、紅葉、セミの初鳴きといった生物季節の変化もヒートアイランドの影響を知る手がかりとして用いられることがある。 定点気象観測より小さい間隔の観測として、近年広く用いられているのがリモートセンシングである。センサーを搭載した人工衛星により、都市とその周辺部の表面温度を観測するもので、低コストで効果的にデータを得ることが可能である。 ヒートアイランドの進行を示す資料の例(2) ニューヨーク、パリ、ベルリンなど世界各地の都市で世界平均気温よりも大きな割合での気温上昇、つまりヒートアイランドを示す気温上昇が観測されている。なお、ニューヨークやパリは100年あたり約2℃、ベルリンは同約2.5℃であるのに対して、東京は同約3℃であり、世界的にも速いペースで上昇している[参 3]。なお別の研究によれば、サンフランシスコ、ボルティモア、上海は10年あたり0.2?(約0.11℃)、ワシントンD.C.は同0.4?(約0.22℃)、東京は同0.6?(約0.33℃)であるが、ロサンゼルスやサンディエゴでは同0.8?(約0.44℃)と更にペースが速い[6]。 なお、平均値を示した右表とは異なる年間最大値ではあるが、北アメリカや日本の研究報告では人口数千人から数万人程度の都市・集落でも郊外との気温差は最大時で2 - 7℃ほどあるとされている[1][8]。
観測と評価
観測・評価の方法
30℃以上の推定年間延べ時間の変化[参 2]都市1980年2010年
仙台31時間90時間
東京168時間360時間
名古屋227時間434時間
実際の例
日本の主要都市と周辺都市の気温上昇
(単位℃、1931 - 2010年の値を100年あたりに換算)[参 6]
冬(2月)夏(8月)
平均最高最低平均最高最低
札幌3.51.46.11.2-0.32.8
東京4.62.56.01.70.82.5
名古屋3.72.14.62.40.93.3
大阪3.93.64.22.52.43.7
福岡4.03.05.62.41.43.8
※2.31.92.40.90.41.3
※:都市化の影響が小さい網走、寿都、根室、石巻、山形、水戸、銚子、伏木、長野、飯田、彦根、境、浜田、宮崎、多度津、名瀬、石垣島の17地点平均値