ヒトマイクロバイオーム
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ヒトの皮膚微生物叢。その解剖学的部位によって、微生物叢を構成する細菌種の組成は異なる[1]

ヒトマイクロバイオーム(英:human microbiome)は、ヒトの体内や体表で生息する微生物とその遺伝情報の総称である。腸内細菌叢には、ヒトの細胞数に近い約40兆個の細菌が存在し、皮膚(英語版)、口腔鼻腔などにも微生物が存在している[2]

2010年に欧州の研究者によって、ヒトの消化器に1000種以上、330万個の微生物の遺伝子の数があることが判明し、これはヒトゲノムの遺伝子2万5千の約150倍として注目を受けた[3]。人類のDNAは99.9%が同じだが、ヒトマイクロバイオームでは構成が同じ人はいない[3]

2007年に開始されたアメリカ国立衛生研究所 (NIH) が開始したのは ヒトマイクロバイオーム計画(英語版)である[3]。翌年には国際コンソーシアム(米国、欧州、日本、中国からなる[4])が発足し、またMetaHITという、13の欧州の産学機関が参加するプロジェクトが開始された[3]

腸内をはじめヒトの体には微生物が定着している。大腸には特に多数の細菌が生息しており、重量は体重70kgの成人男性で0.2kgに過ぎないが、細胞数では約40兆に及ぶと推定されている。この数は個人の全細胞の数を超える[5]。マイクロバイオーム研究の中でもヒトマイクロバイオームは疾病等との関連性から重点的に研究が進められてきた。その中でも腸内細菌叢に関する研究が特に焦点を当てられてきており、腸管に沿って腸内細菌叢の構造が変化することや、様々な疾病との関連が明らかにされている。同様に、口腔、皮膚、膣などの微生物叢も疾患との関連などから研究されてきた[6]。また、ヒトの微生物叢の大規模な調査として、アメリカのHuman Microbiome ProjectやヨーロッパのMetaHITなどの国家規模のプロジェクトが実施されている[7][8]

ヒトの微生物叢は腸管、口腔、皮膚、膣といった部位ごとに、構成する細菌種が異なり、例えば他者間のヒト腸管の微生物叢を比べた場合と、同一個人で腸管と口腔の微生物叢を比較した場合、前者の方が互いに類似性が高い[9][10]
マイクロバイオームの定義と研究手法詳細は「微生物叢」を参照

ある環境中に生息する微生物の集合全体を微生物叢 (Microbiota) と呼ぶ。微生物叢を構成する微生物には真正細菌古細菌真菌ウイルスなどが含まれる。一方、マイクロバイオーム (Microbiome) は、微生物叢を構成する微生物の集合に加え、その遺伝情報や、生息する外部環境全体を意味する用語である[11]。ただし、ほとんどのヒト微生物叢を対象とした研究は、微生物叢の細胞成分の主要成分である細菌の多様性について記述するものである[12]

マイクロバイオームを理解するために、古典的には培養に依存した手法が用いられた。しかしながら、マイクロバイオームを構成する微生物には培養できないものも多く、培養に依存した手法は群集構造の多様性を過小評価する恐れがある。これを解決するために出現した手法がDNAシーケンス技術に基づく16S rRNAシーケンシング法やメタゲノム解析法である[7]。2018年現在、これらの手法にメタトランスクリプトーム解析法を加えた3つの手法がマイクロバイオーム研究において使用されている[13]
ヒトマイクロバイオームを構成する微生物

ヒトの体にはヒトの体細胞と同じくらいかそれよりも多い微生物が生息しており、その遺伝情報はヒトゲノムの情報量を遥かに凌駕するとされている。また、これをヒトマイクロバイオームを構成する細菌の種は500-1000種程度と推定されている[14]。ヒトの体に生息する微生物は細菌に限定されず、真菌[15]やウイルス[16]も生息している。

地球上には約70門の細菌種があるが、ヒト常在菌の大部分は以下4門に集中している[4]

フィルミクテス門 - 腸内、膣、皮膚、口腔に多い[4]

バクテロイデス門

アクチノバクテリア門 - 口腔や皮膚、鼻腔で占有率が高い[4]

プロテオバクテリア門 - 口腔や皮膚、鼻腔で占有率が高い[4]

TM7門は口腔にのみ存在する[4]
各部位におけるマイクロバイオーム
腸管「腸内細菌」も参照

腸管はヒトの体の他の部位と比べても多様性に富んだ微生物が生息する部位である[17]。もっとも、レベルでは一部の分類が優占し、ほとんどの細菌がバクテロイデス門フィルミクテス門に属する。また、他にもメタン生成菌酵母に代表される真核生物、主にファージによって構成されるウイルスも生息する[18]。腸内マイクロバイオームの主要な構成がヒトの間で共有されているにも拘らず、構成生物の組成はヒトの間でも大きく異なる[17][18]。腸管の微生物叢については特に3つのエンテロタイプと呼ばれる微生物叢のグループが提唱されている。3つのエンテロタイプはそれぞれに特有な細菌の系統によって特徴付けることができ、これらの特徴的なグループは地域に依存せずに存在する[19][20]

年齢は腸内の微生物叢に変化を与える要因の一つである。特に生後3年までの間は腸内の微生物叢の構造が変動しやすい。その間に腸内微生物叢は多様性と安定性を徐々に大きくしてゆく[18]。他にも宿主であるヒトの遺伝情報や食文化、外部環境など様々な要素がヒトの腸内微生物叢と関連している[21]。また、近年の研究成果から疾患と細菌叢の関係が明らかにされてきた。例えば肥満とそれに伴う2型糖尿病のような生活習慣病は、ヒトの遺伝情報だけではなく、腸内細菌叢を構成する細菌種の割合とも関係していることが、疫学調査や動物実験から明らかにされた[22][23][24]。環境が清潔だとアレルギー性疾患に罹患しやすいとする衛生仮説も微生物叢との関連から説明され得る[6]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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