パーキンソン病
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パーキンソン病

パーキンソン病の患者(1892年)
概要
診療科神経学
分類および外部参照情報
ICD-10G20, F02.3
ICD-9-CM332
DiseasesDB9651
MedlinePlus000755
eMedicineneuro/304 neuro/635 若年性
pmr/99
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パーキンソン病(パーキンソンびょう、: Parkinson's disease)は、手の震え、動作や歩行の困難など運動障害を示す、進行性の神経変性疾患である。進行すると自力歩行も困難となり、車椅子寝たきりになる場合がある。40歳以上の中高年の発症が多く、特に65歳以上の割合が高い。人間の硬直や動きの鈍化を引き起こす可能性もある[1]。深刻な認識障害と微弱な言語障害も発生するが、慢性的で進行的で、遅い動作、停止時の震え、筋肉硬直、引きずりながら歩くことや曲がった姿勢のような姿勢不安定症状を特徴とする進行型神経退行性疾患である[2]

錐体外路症状を呈し、アルツハイマー病と並んで頻度の高い神経変性疾患と考えられている[3]日本では黒質のドパミン神経細胞の障害によって発症する神経変性疾患として難病(特定疾患)に指定されている[4]。本症以外の変性疾患などによりパーキンソン様症状が見られるものをパーキンソン症候群と呼称する。
歴史

1817年にイングランドジェームズ・パーキンソンにより初めて報告された。ジェームズは、現代でいうパーキンソン病の症状を呈した6症例を、振戦麻痺(shaking palsy)という名で紹介した。記載した症状は、寡動、安静時振戦、姿勢保持障害、前傾姿勢、小字症などで、筋強剛については触れていない。

ジェームズの報告は長い間評価されなかったが、1888年になってフランスジャン=マルタン・シャルコーによって再評価された。シャルコーは筋強剛についても記載し、彼の提唱により本疾患はパーキンソン病と呼ばれるようになった[5]。シャルコーが改名を提唱した理由は、本当の意味での「麻痺」は見られないためと、全ての患者に必ずしも振戦が見られるわけではないためであった[6]。もう一つの主要症候である無動・動作緩慢については、サミュエル・アレクサンダー・キニア・ウィルソンがその教科書の中で提唱している[6]

パーキンソン病の病理に関しては、1913年にフレデリック・レビーが神経細胞内の封入体 (レビー小体) を初めて記載、またロシア神経病理学コンスタンティン・トレティアコフは1919年、パーキンソン病の責任病変が中脳黒質にあると発表した[7]

パーキンソン病の治療は19世紀末までにベラドンナアルカロイドが効果のあることがわかり、20世紀に入ってスコポラミンによる治療が、1949年にはトリヘキシフェニジルの治療報告が行われている。L-ドパ(レボドパ)は1913年には既に精製単離されていたが、1950年代後半から脳内、特に線条体でのドーパミンの存在と、その低下がパーキンソン病で見られることが報告されると、1960年代にレボドパを使った実験・試験が始まり、その効果が明らかとなった[7]

1987年、スウェーデンにあるルンド大学のオーレ・リンドヴァールたちが、中絶胎児からとった中脳の一部の細胞を、パーキンソン病患者の線条体へ移植する臨床研究を行った。彼らは細胞移植によりパーキンソン病の脳機能の回復が起こったと報告している。数体の中絶された胎児から細胞を採取する必要があるため、その倫理的な問題性と中絶された胎児を数体同時に入手するのが困難なため治療法としては確立していない。しかし、近年進められているiPS細胞の開発が細胞の確保を可能にしつつある[8]。詳細は「#細胞移植治療」を参照
病理

肉眼的には中脳黒質青斑核の色素脱失がみられ、組織学的には、黒質や青斑、迷走神経背側核、視床下部交感神経節などの神経細胞脱落が生じていて、典型的には残存神経細胞やその突起の一部にレビー小体(Lewy body)という特徴的な封入体が認められる。パーキンソン病の病理診断基準では中脳黒質の緻密部の中等度以上の神経細胞の消失とレビー小体病理が必要である[9]

近年ではレビー小体は自律神経節など末梢レベルでも蓄積していることが明らかになってきた。レビー小体には、リン酸化α-シヌクレインの異常な蓄積が認められる。このα-シヌクレインに対して、EBウイルスの潜伏感染V型遺伝子抗原のLMP1が交叉反応性を持つことが報告されている[10]

病理学的な検討ではレビー小体病全体のレビー小体は脳幹辺縁系、末梢から始まる3パターンが知られているが[11][12]、パーキンソン病の多くは脳幹のレビー小体から始まると考えられている。
病態正常(左図)およびパーキンソン病(右図)でのドーパミン作動性経路の流れ。青の矢印は標的への刺激、赤の矢印は標的への抑制を示す。

中脳黒質のドーパミン神経細胞減少により、これが投射する線条体被殻尾状核)においてドーパミン不足と相対的なアセチルコリンの増加がおこり、機能がアンバランスとなることが原因と考えられている。しかしその原因は解明には至っていない。このため、パーキンソン病は本態性パーキンソニズムとして、症状の原因が明らかでないパーキンソニズムに分類される。また腸管におけるアウエルバッハ神経叢(Auerbach plexas)の変性も病初期から認められており、この病気は全身性疾患であると再認識され始めている。
病因

病理および病態で詳述するように、中脳黒質緻密質のドーパミン分泌細胞の変性が主な原因である。ほとんどの症例(90-95%)が孤発性であり、神経変性の原因は不明(特発性)である。メンデル遺伝による家族性発症もあり、2012年時点いくつかの病因遺伝子が同定されている。その他毒素、頭部外傷、低酸素脳症、薬剤誘発性パーキンソン病もわずかながら存在する。MPTPを用いてパーキンソン病のモデル動物を作成する。
疫学2004年の100,000人あたりのパーキンソン病の障害調整生命年(DALY)[13] .mw-parser-output .legend{page-break-inside:avoid;break-inside:avoid-column}.mw-parser-output .legend-color{display:inline-block;min-width:1.5em;height:1.5em;margin:1px 0;text-align:center;border:1px solid black;background-color:transparent;color:black}.mw-parser-output .legend-text{}  no data   < 5   5?12.5   12.5?20   20?27.5   27.5?35   35?42.5   42.5?50   50?57.5   57.5?65   65?72.5   72.5?80   > 80

10歳代?80歳代まで幅広く発症するが、中年以降の発症が多く、高齢になるほど発症率および有病率は増加する[14]。20歳代の発症はまれである。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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