パワードスーツ
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ロッキード・マーティン社が開発中の軍用パワードスーツ「HULC」

パワードスーツとは、人体に装着される電動アクチュエーター空圧[1]人工筋肉などの動力を用いた、外骨格型、あるいは衣服型の装置である。アシストスーツ[1]や強化外骨格などとも呼ばれる(呼称節を参照)。

一般的な建設機械物流荷役機械フォークリフト等)、農業機械は人間より作業効率が遥かに良いが、人間が乗って操作する必要があり、屋内など狭い空間には入り込めない。パワードスーツは人間が「着用」して筋力を増強する形態で、重量物の持ち運びや走る、跳ぶといった、人間としての動作を強化・拡張する目的で使われる。工場倉庫農業介護などでの作業での肉体的負担や疲労が軽減され効率があがるほか、体力が低下した高齢者らでも作業しやすく、腰痛の予防にもつながる[2][3]軍事利用もされている(後述)。
語源と起源

元々は、ロバート・A・ハインラインSF小説宇宙の戦士』(1959年)に登場する、重装甲・重武装と倍力機能を持った架空の軍用強化防護服の呼称だった。歩兵一個人に「ゴリラも容易く倒せる怪力」と「戦車並の装甲」、(戦術核兵器神経ガスを含む)「戦闘車両並の重武装」、「小型宇宙船並の環境適応力」、「戦闘ヘリ以上の機動力」(ただし、超長距離ジャンプやホバリングはできるが飛行能力はない)を持たせることを目的とした装備である。

ハインラインのスーツは着用した人間の動きをそのままフィードバックして動かせる「マスター・スレイブ方式」を採っており、これが搭乗・操縦型の人型兵器との決定的な違いとなっている。これは既に同じハインラインの小説『ウォルドゥ』(1942年)で固定式の遠隔操作型マニピュレーターの操作方式として描かれており、こちらが元祖であるといわれる。

外見は、原作本の初版表紙絵やアバロンヒル社製のボード・ウォーゲームなどでは宇宙服を拡張したような形状となっていたが、日本では、ハヤカワ文庫版のイラスト(デザイン・宮武一貴 イラスト・加藤直之)で工業機械のような要素が取り入れられた姿となり、『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツのヒントとなったことなどで知名度を高めた。

その概念が広まるにつれ、様々な作品中において派生型を生んでおり、中には音声や思考による制御を部分的に行う物もある。
呼称

日本語では、直訳で強化服、半分だけ訳して強化スーツとも呼ばれているほか、ロボットスーツと呼ばれる物も存在する。その他、強化外骨格や単純に外骨格などとも呼ばれる[4][5]

医療・介護分野や物流・荷役など重量物を扱う作業で使われているものは、パワーアシストスーツあるいはアシストスーツ[3]と呼称されることもある。また近年はマッスルスーツ(東京理科大学ベンチャー企業株式会社イノフィスの登録商標[2]やサポートジャケット(ユーピーアール株式会社の登録商標)という呼称もある。
現実世界における利用

第二次世界大戦後、原子力利用の発展に伴い、放射性物質を扱ったり原子炉内部へ立ち入ったりする時のため、「移動可能なマニピュレータ(モビル・マニピュレータ)」の開発が求められた。これは後に宇宙用・深海作業用に発展するもので、その多くは遠隔操作型であり当装置の概念とは異なるものであった。しかし、1961年に開発されたジェネラル・エレクトリック社製の「ビートル」は乗員が乗り込み操作する物で、ある程度パワードスーツ的な要素を持っていた。もっとも走行には無限軌道を用いており、また放射線を遮るための装備による重量過大で失敗に終わっている。このような分野では、日本においてテムザック製の実用型レスキューロボット「援竜」が開発されている。

ジェネラル・エレクトリック社ではその後も研究が続けられた。1968年に試作案を提示、1970年に左側のみ(重さ350kg)が製作された外骨格型マニピュレータ「ハーディマン(英語版)」はパワーアシスト機器の元祖と言えるが、油圧アクチュエータで駆動するという構想ではあったものの、当時の技術的な限界で実用には至っていない。また同社は派生した技術を利用した四脚型の「歩行トラック」も試作した。これは操縦者の手で前脚、足で後脚を制御するものであった。

現在開発されているものは必ずしも全身の関節に動力補助が行われるわけではなく、にだけ動力補助を与えて足首は生身のままというシステムも多い、これは人間の足首や股関節などの構造が複雑であり技術上の困難が伴うためである[6]

Exoskeleton Reportは、デジタル革命によって人々のコミュニケーションが大きく変わったように、パワードスーツは人々の仕事や病気や老化などについての考え方に変化をもたらすと予想している[7]
用途HAL 5

日本において21世紀において進行する少子高齢化老老介護では介護市場の労働力不足も懸念されており、ベッドの移動などで介護者を抱き上げるといった体力的負担の軽減も、大きな課題となっている。こういった問題の解決に於いて、パワーアシスト機器は非力な人間でも要介護者を抱きかかえて運べるようにする[8]ことで負担を軽減することが期待され、民生分野での開発が急速に進んでいる。

また、デルタ航空ヒュンダイ自動車のように労働者の負担を低下させる目的でパワードスーツの導入を目指す企業もある[9][10]

近年では筋電位や神経電位の測定に関する、生化学などの分野で目覚しい発展が進んで筋電義手などの実用例も登場していることから、四肢麻痺や筋力低下で歩行困難なため行動が制限される車椅子での移動を余儀なくされている者が自律歩行を行えるようになるというパワーアシスト型のロボットギプスの開発[11]・製品化[12]も進んでおり、また同時多発的な現象として米国でも製品化に向けた取り組みもなされている[13]

1996年筑波大学山海嘉之教授らによって開発されたロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)は皮膚表面の生体電位信号を読み取り動作する世界初のパワードスーツであり、その後、産学共同体企業サイバーダインが設立されている。この装置の全身型は例えば100kgのレッグプレスができる人間が装着すれば180kgを動かすことができ、数kgを持ち上げる感覚で40kgの重量物を持ち上げることができる[14]2008年10月よりHALの下半身タイプが大和ハウス工業からリース販売されている。

また2011年3月11日から続く東京電力福島第一原子力発電所事故後、「HAL」を原発作業員のために改良した新型ロボットスーツを公開している[15]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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