パワースペクトル密度
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スペクトル密度(スペクトルみつど、: Spectral density)は、定常過程に関する周波数値の正実数の関数または時間に関する決定的な関数である。パワースペクトル密度(電力スペクトル密度、: Power spectral density)、エネルギースペクトル密度(: Energy spectral density、ESD)とも。単に信号のスペクトルと言ったとき、スペクトル密度を指すこともある。直観的には、スペクトル密度は確率過程の周波数要素を捉えるもので、周期性を識別するのを助ける。
概要

信号のエネルギーは振幅の二乗和でしばしば定義される。信号を定常波の和すなわちスペクトルとして見たとき(フーリエ変換)、信号全体のエネルギーは部分定常波エネルギーの総和になると考えられる。より正確には、連続値である各周波数にエネルギー密度が定義出来てその積分値が信号全体のエネルギーになると考えられる(パーセバルの定理)。各周波数におけるエネルギー密度をエネルギースペクトル密度という。

また、信号の仕事率(パワー)は時間当たりのエネルギーでしばしば定義される。全く同じ議論がパワーに関してもでき、各周波数におけるパワー密度をパワースペクトル密度という。

物理学の観点では、信号とは波動であり、代表的な波動には電磁波音波がある。信号がどのような物理的次元を伝わるのかは問題ではないが、以下の議論では時間と共に変化する信号について解説する。次元解析の観点では、パワースペクトル密度の単位はヘルツ当たりのワット (W/Hz) か、ナノメートル当たりのワット (W/nm) で表される(後者は周波数の代わりに波長を用いる)。
定義
エネルギースペクトル密度
連続信号

連続信号 f(t) のエネルギースペクトル密度は次の式で定義される。

E S D ( ω ) = 。 1 2 π ∫ − ∞ ∞ f ( t ) e − i ω t d t 。 2 = F ( ω ) F ∗ ( ω ) 2 π {\displaystyle ESD(\omega )=\left|{\frac {1}{\sqrt {2\pi }}}\int _{-\infty }^{\infty }f(t)e^{-i\omega t}\,dt\right|^{2}={\frac {F(\omega )F^{*}(\omega )}{2\pi }}}

ω は角周波数、F(ω) は f(t) の連続フーリエ変換、F*(ω) はその複素共役である。 1 / 2 π {\displaystyle 1/2\pi } という係数は絶対的なものではなく、フーリエ変換での正規化定数の定義に依存する。f(t) が有限エネルギー信号であるとき、その信号のスペクトル密度 ESD(ω) は、信号をフーリエ変換したときの大きさの2乗である。

すなわちESDは信号のエネルギーが周波数についてどのように分布するかを示す。
離散信号

離散信号 fn = f(n,dt) が無限に続くとするならエネルギースペクトル密度は次の式で定義される。

E S D ( ω ) = 。 d t 2 π ∑ n = − ∞ ∞ f n e − i ω n 。 2 = d t 2 2 π F d ( ω ) F d ∗ ( ω ) {\displaystyle ESD(\omega )=\left|{\frac {dt}{\sqrt {2\pi }}}\sum _{n=-\infty }^{\infty }f_{n}e^{-i\omega n}\right|^{2}={\frac {dt^{2}}{2\pi }}F_{d}(\omega )F_{d}^{*}(\omega )}

ここで、F(ω) は fn の離散時間フーリエ変換である。数学ではサンプリング間隔 dt を 1 として扱うことが多い。しかしながら、正確な物理単位を維持するためと、dt → 0 とした場合に連続時間の関数へ逆変換できることを保証するためには dt が必要となる。
次元解析

ここで、エネルギーは信号の2乗を積分したものであり、その信号を電圧として 1Ω の負荷に加えたときの物理エネルギーに等しい。f(t) が伝送路を通って伝播する電気信号の電位を(ボルトで)表す場合、スペクトル密度 ESD(ω) の測定単位は volt2×seconds2 として現れるが、物理学のスペクトルのエネルギー密度としてはまだ次元的に正確ではない。しかしながら、(オームで表される)伝送路の特性インピーダンス Z によって除算すると、ESD(ω) の次元は1オーム当たり volt2×seconds2 になる。これは、1 ヘルツ当たりのジュール(物理学で定義されるスペクトルのエネルギー密度の国際単位)と等価となる。
パワースペクトル密度

上述のエネルギースペクトル密度の定義は、信号のフーリエ変換が存在するパルスのような信号に最も適している。たとえば定常物理過程を示す連続信号について、パワースペクトル密度あるいは電力スペクトル密度 (PSD) を定義することは価値があり、信号や時系列のパワーが周波数についてどのように分布しているかを示す。抽象的な信号についても、信号の2乗と定義できる。このとき、信号 f(t) のある一瞬の力は次のように与えられる。 P ( t ) = f ( t ) 2 {\displaystyle P(t)=f(t)^{2}}

平均(あるいは期待値)としての P(t) は、全周波数領域にわたる電力スペクトル密度の積分である。

正規化されたフーリエ変換: F T ( ω ) = 1 T ∫ 0 T f ( t ) exp ⁡ ( − i ω t ) d t {\displaystyle {\mathcal {F}}_{T}(\omega )={\frac {1}{\sqrt {T}}}\int _{0}^{T}f(t)\exp(-i\omega t)dt}

を使用して、次のようにパワースペクトル密度を定義できる[1][2]。 P S D ( ω ) = lim T → ∞ E [ 。 F T ( ω ) 。 2 ] {\displaystyle PSD(\omega )=\lim _{T\rightarrow \infty }\mathbf {E} \left[|{\mathcal {F}}_{T}(\omega )|^{2}\right]}

確率論的な信号については、フーリエ変換の二乗値は一般的に極限に近づけないが、期待は行う。(ピリオドグラム(英語版)を参照。)

見解:取り扱う多くの信号が積分可能ではなく、その信号の 非正規化(=通常の) フーリエ変換は存在しない。何人かの著者(たとえば Risken[3])は、まだ非正規化フーリエ変換を使ってパワースペクトル密度の定義 ⟨ F ( ω ) F ∗ ( ω ′ ) ⟩ = 2 π P S D ( ω ) δ ( ω − ω ′ ) {\displaystyle \langle F(\omega )F^{\ast }(\omega ')\rangle =2\pi \,PSD(\omega )\,\delta (\omega -\omega ')}

を公式化している。ここで、δ(ω − ω') はディラックのデルタ関数である。このような公式の文献は直観を導くには有用であるが、十分な注意と共に使用されるべきである。

このような形式推論を用いると、定常ランダム過程とパワースペクトル密度 PSD(ω) およびこの信号の自己相関関数 R(τ) = <f(t) f(t + τ)> がフーリエ変換対でなければならないことに気づくだろう。このことは真実であり、ノーバート・ウィーナーおよびアレクサンドル・ヒンチンによって作り出された意味深い定理(ウィーナー・ヒンチンの定理)となる。 P S D ( f ) = ∫ − ∞ ∞ R ( τ ) e − i ω τ d τ = F ( R ( τ ) ) {\displaystyle PSD(f)=\int _{-\infty }^{\infty }\,R(\tau )\,e^{-i\omega \tau }\,d\tau ={\mathcal {F}}(R(\tau ))}


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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