パブリック・ドメイン
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パブリックドメイン(public domain)とは、著作物発明などの知的創作物について、知的財産権が発生していない状態または消滅した状態のことをいう。日本語訳として公有という語が使われることがある[1][2]

パブリックドメインに帰した知的創作物については、その知的財産権を行使しうる者が存在しないことになるため、知的財産権の侵害を根拠として利用の差止めや損害賠償請求などを求められることはないことになる。その結果、知的創作物を誰でも自由に利用できると説かれることが多い。しかし、知的財産権を侵害しなくても、利用が所有権人格権などの侵害を伴う場合は、その限りにおいて自由に利用できるわけではない。また、ある種の知的財産権が消滅したとしても、別の知的財産権が消滅しているとは限らない場合もある(著作物商標として利用している者がいる場合、量産可能な美術工芸品のように著作権と意匠権によって重畳的に保護される場合など)。また、各法域によりの内容が異なるため、一つの法域で権利が消滅しても、別の法域で権利が消滅しているとは限らない。したがって、特定の知的創作物がパブリックドメインであると言われる場合は、どの法域でどのような権利が不発生あるいは消滅したのかを、具体的に検討する必要がある。目次

1 知的財産権の不発生または消滅の原因

1.1 権利が発生しない場合

1.1.1 権利取得に必要な手続・方式の不履行

1.1.2 その他、法が権利付与を否定する場合


1.2 権利の消滅

1.2.1 保護期間の満了

1.2.2 承継人の不存在

1.2.3 権利放棄



2 著作権法に特有の問題

2.1 著作者人格権との関係

2.2 パブリックドメインと区別されるべきもの

2.3 標示


3 問題

4 活用事例

4.1 著作物

4.2 意匠

4.3 技術


5 脚注

5.1 出典


6 関連項目

知的財産権の不発生または消滅の原因

そもそも創作性を欠くなどの理由により保護すべき知的創作物にならない場合(例えば、著作権の場合は思想または感情の創作的表現でなければ著作物にならないので、単なるアイデアにとどまる場合や、境界線や海岸線などの記載しかない地図のように想定される表現が限られるようなものは、そもそも創作性を欠くので知的財産権が発生するか否かという問題自体が生じないし、ライセンス付与も本来ありえない)もあるが、著作物や発明の要件を満たしていながら、知的財産権が発生しない場合、または発生した権利が消滅する場合としては、以下のようなものがある。
権利が発生しない場合
権利取得に必要な手続・方式の不履行 映画『ローマの休日』は著作権表示を欠いていたため、アメリカにおいてパブリックドメインとなった。

例えば、特許権の取得において審査主義を採用している国においては、発明を完成させたとしても、その発明の産業上利用可能性新規性進歩性といった特許要件について公的機関(特許庁)による審査を経なければ、特許権を取得できない。

また、著作権の取得について方式主義を採用している国(ベルヌ条約加盟前のアメリカ合衆国など)においては、著作物を創作したとしても、必要な方式(著作権の表示、登録など)を履行しなければ、著作権は発生しない。なお、日本の著作権法は無方式主義を採用しているので、何らの方式をも採らず著作権を取得できる。
その他、法が権利付与を否定する場合 人間以外は著作権を有しないと判断され、サルの自撮りはパブリックドメインにあるとされている。

「著作物」、「発明」など、知的財産権の客体としての要件は満たすが、主に政策的な理由によって、法が権利の付与を否定している場合がある。

例えば、国や地方公共団体が創作した著作物を、著作権の対象としない法制が多数みられる。例えば日本では、憲法その他の法令地方公共団体が発する通達裁判所判決などは、著作権著作者人格権の対象にならない(日本国著作権法13条)。また、イタリアでは、イタリア及び外国または官公庁の公文書には著作権法の規定を適用しない旨の規定がある。その他、アメリカ合衆国の著作権法では、連邦政府の職員が職務上作成した著作物は、著作権の対象とならない(17 U.S.C. §105)。もっとも、連邦政府の職員ではない者の著作権を連邦政府が譲り受けた場合は連邦政府による著作権の保有を否定されないし(17 U.S.C. §105)、州政府の職員が職務上作成した著作物に対しては、法は著作権の付与を否定していない。

また、外国人による権利の享有を認めない法制が存在する場合、当該外国人による創作物は(当該法域内では)、知的財産権による保護を受けないと言える。例えば、日本では外国人の権利の享有を原則として認めているが、特別法によってそれを制限することも容認している(民法3条2項)。実際に、特許法などの知的財産権法は、外国人による権利の享有を制限している(著作権法6条、特許法25条など)。もっとも、パリ条約などにおいて、内国民待遇の原則が採られているため、これらの条約の加盟国間においては、外国人であるというだけの理由により知的財産権の享有が否定されることはない。つまり、これらの条約に加盟していない国との関係で問題になるに過ぎない。
権利の消滅
保護期間の満了 1902年の映画『月世界旅行』は、既に著作権の保護期間が終了している。

知的創作物を対象とする独占排他権は、法定の存続期間満了により消滅する。例えば、特許権は特許出願の日から20年をもって消滅し、著作権は著作者の死後50年または70年をもって消滅するものと規定する国が多い(著作権の保護期間)。創作活動は先人の成果の上に成り立っていることは否定できないため、創作後一定の期間が経過した場合は恩恵を受けた社会の発展のために公有の状態に置くべきとの価値判断によるものである。
承継人の不存在

相続人なく知的財産権の権利者が死亡した場合において、相続財産の清算のために相続財産管理人によって著作権が譲渡されなかった場合、あるいは権利者である法人が解散した場合において、その著作権を帰属させるべき者が存在しない場合(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律239条3項に該当する場合など)や清算法人の財産の清算のために清算人によって著作権の譲渡がされなかった場合は、知的財産権は法定の保護期間満了を待つことなく消滅する(著作権法62条1項、2項、特許法76条、実用新案法と意匠法では特許法を準用)。

民法などの原則をそのまま適用すれば、知的財産権はいずれの場合も国庫に帰属するはずである(民法959条、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律239条3項)。しかし、著作権法など知的財産に関する法律では、知的所産であり広く国民一般に利用させるのが適切として、特別規定を置き権利を消滅させることとしている。

相続人不存在の場合、特許権などは、相続人の捜索の公告の期間内に権利主張をする者が表れなかった場合に権利が消滅するのに対し(特許法76条)、著作権は、それに加えて特別縁故者に対する相続財産の分与もされなかった場合(民法959条に該当する場合)に初めて権利が消滅する(著作権法62条)という差異がある。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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