バーレーンの真珠採取業
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真珠採取業が全盛期を迎えていた頃の首長イーサ・ビン・アリ・アール・ハリーファ(英語版)(1869年 - 1932年)の館

バーレーンの真珠採取業(バーレーンのしんじゅさいしゅぎょう)は、一説には紀元前2000年頃にまで遡るとも言われるバーレーン古来の基幹的地場産業であった。石油発見以前のペルシア湾一帯は天然真珠の一大産地となっており、わけてもバーレーン近海の真珠は高品質と評価されていた。しかし、日本の真珠養殖業の発展や世界恐慌の影響によって壊滅的な打撃を受け、1930年代以降、急速に衰退していった。

バーレーンのムハッラク島には往時を偲ばせる建造物群が並ぶ「バーレーン真珠採取の道」(Bahrain pearling trail) が残されており、それらの建造物の一部と関連する漁場などが、「バーレーン要塞 - ディルムンの古代の港と首都」に続く同国2件目の世界遺産として、2012年6月30日UNESCOの世界遺産リストに登録された[1][2][3]
概要

石油発見以前のペルシア湾岸では数千年にわたって天然真珠の採取が行われてきたが、その中でもバーレーン近海には好漁場が多く、質の高いことでも古来知られていた。その真珠採取の方法は少なくとも1000年以上の間、ほとんど変化をしなかった伝統的なものであり、多くの潜水夫たちが過酷な採取業に従事していた。バーレーンは周辺諸地域の真珠をボンベイに出荷する際の集積地の役割も果たしており、真珠商人たちも多く集まった。

その全盛期は19世紀後半から20世紀初頭のことだったが、1930年代以降、養殖真珠の台頭や世界恐慌の影響などでペルシア湾での天然真珠の採取業は急速に衰退し、バーレーンも大きな打撃を受けた。それと入れ替わるように、バーレーンでは1932年にペルシア湾岸のアラビア半島側で初めて油田が発見されたため、バーレーンは真珠の国から石油の国へと変貌し、真珠採取業に従事する者はほとんどいなくなった。

かつての繁栄を偲ばせるムハッラク島の建造物群や周辺の漁場は、2012年に「真珠採り、島の経済を物語るもの」の名前で世界遺産リストに加えられた。
歴史
古代ディルムンの首都とされるバーレーン要塞の遺跡

バーレーンにおける真珠採取の歴史は、かつてバーレーン一帯に栄えたディルムンに遡る。ディルムンはメソポタミアとメルーハ(モヘンジョ・ダロ周辺)を結び付けていた中継貿易地であった[4]。一説にはギルガメシュ叙事詩で英雄ギルガメシュが海底に潜って「不老不死の花」を手に入れる話が、ディルムンの真珠採取をモデルにしているという説もあるものの[5]、より直接的にディルムンと真珠の関連性を窺わせる最古の言及は、紀元前2000年頃のアッシリア語碑文である。その碑文は、ディルムンの貿易品目として「魚の目」について触れている[6]。この「魚の目」は珊瑚ラピスラズリなどの宝飾品類とともに言及されており、真珠のことでないかと考えられている[7]。ディルムン文明の発見者であるジェフリー・ビビー(英語版)は、その数量の記録が他の多くの貿易品と異なり、容積や重量でまとめるのではなく、1個、2個という単位で記録されていることからも、それが高価な品目であったと推測していた[8]。ディルムン文明のものと考えられる墳墓の中には、副葬品として真珠が見つかる例もある[9]

ビビーはまた、バーレーン島の南西部で発見された貝塚を、真珠採取に関わる遺跡と見なしていた[7]。バーレーンの貝塚を構成する貝殻はほとんどが真珠貝(後述)で、漁獲した貝を野ざらしにして死なせた上で、真珠を採取した跡ではないかと考えられている[10][11]。この様なやり方は世界的には広く見られる反面、のちの伝統的なペルシア湾岸の採取法(後述する船上での採取)とは異なっており、より古い方法だったと見なされている[10]。船上での採取は貝殻を海に投棄してしまい、痕跡が残らないので、ディルムンの時代に陸上と並行して船上でも採取されていたかどうかは分からないが、可能性は指摘されている[12]

文献上、真珠と明示された記録が登場するのは、大プリニウス以降のことである。彼は『博物誌』の中で、バーレーンの古代ギリシア名ティロスについて、膨大な真珠が採取されることによって知られる地として言及していた[6][13][14]
中世・近世イブン・バットゥータ

10世紀以降は多くの旅行家や地理学者がバーレーンの真珠採取業に言及しており、真珠採取の方法などについての記録が見られるのもこの頃からである[14]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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