バイオハザード
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日本のゲームシリーズについては「バイオハザードシリーズ」を、その他の用法については「バイオハザード (曖昧さ回避)」をご覧ください。
バイオハザードの記号。UnicodeにもU+2623に記号がある (☣)。アメリカ国立癌研究所の標準化委託を受けたダウ・ケミカル社が1966年に開発した[1]医療従事者の労災「針刺し事故」による肝炎等感染の原因となる使用済み注射針は、バイオハザードの典型

バイオハザード(: biohazard, biological hazard、生物災害、生物学的危害[2])とは、有害な生物による危険性、あるいは危険性による災害そのものをいう[3][4]。古典的には病院研究所の試料や廃棄物など、病原体を含有する危険物(病毒をうつしやすい物質[注釈 1])を指してきたが、20世紀末からは雑草害虫を強化しかねない農薬耐性遺伝子や農薬内生遺伝子を有する遺伝子組み換え作物等もこの概念に含まれてきている(遺伝子組換え生物等)[5]

肝炎ウイルス結核菌エキノコックスプリオンタンパク質といった病原体の培養物やその廃棄物、注射針等の医療廃棄物生物兵器といった、病原体等を含有する物質を総称して病毒をうつしやすい物質(: infectious substances)という。病原体とは感染症の原因物質のことであり、ウイルス細菌リケッチア寄生虫真菌プリオンタンパク質等のうち、人畜に感染性を有し、その伝播により市民の生命や健康、畜産業に影響を与えるおそれがあるものを指す[6]

病毒をうつしやすい物質は過去に幾多の事故や事件を引き起こしており、これがバイオセーフティーの呼びかけやバイオセキュリティー上の規制に繋がっている。世界保健機関(2004年)は『WHO実験室バイオセーフティ指針』を示すなどして、感染防止、漏洩防止(バイオセーフティー)を呼びかけている。輸送にあっては、国際連合が国際連合危険物輸送勧告により、感染性廃棄物を含めて第6.2類危険物「病毒をうつしやすい物質」(Infectious substances; UN2814, 2900, 3373, 3291) としてバイオセキュリティーに配慮するよう勧告している。これらを受け、日本では、特定病原体等などを含有する物質は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)・家畜伝染病予防法、感染性廃棄物は廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)等、輸送に際しては、危険物船舶運送及び貯蔵規則および航空法施行規則による規制がなされるに至っている。
歴史病院の臨床検査室における典型的なバイオハザード物質、結核菌の培養物「感染症の歴史」も参照

バイオハザードの歴史は、1876年、ロベルト・コッホ炭疽菌の純粋培養に成功したことに始まる[7][8]。これ以降、注射針(針刺し事故)やピペット(菌液を吸い上げる際の誤飲)を介してチフス菌、ブルセラ菌破傷風菌コレラ菌ジフテリア菌と、実験室感染が毎年のように相次ぐこととなる[9]

20世紀半ばに至ると、米ソ冷戦により生物兵器研究が活発化し、生物兵器研究者をバイオハザードから守るべく、軍事研究においてバイオセーフティーが発達することとなった[7]。民間においては1967年8月、西ドイツマールブルクにおいて、ウガンダのアフリカミドリザルを解剖中、マールブルグ病に感染、7名の死者が出る惨事があり、これを契機に、民間にもバイオセーフティーの必要性が認知されることとなった[10]

しかし、この後もバイオハザードによる感染事故は相次いだ。1978年、英国バーミンガム大学において、天然痘ウイルスがエアロゾルとなって空調に漏洩して棟内感染、2名の死者(感染したバーミンガム大学技術者ジャネット・パーカーと、ウイルスを漏洩させたために自殺した天然痘世界的権威ヘンリー・ベドスン)を出した[11]。そして1979年には、炭疽菌が旧ソ連スヴェルドロフスクの生物兵器研究所から市街に漏洩し、96名が感染[12]、66名が死亡するという大惨事が発生した(スヴェルドロフスク炭疽菌漏出事故)[13]米国の生物兵器「E120爆弾」

過失による事故が多発する一方、20世紀末には、故意による事件が発生し始める。日本ではオウム真理教が1990年にボツリヌス菌の大量散布を試み[14]、1993年には炭疽菌の大量散布を試みたが(亀戸異臭事件)いずれも失敗に終わった。米国では2001年、炭疽菌の入った手紙が米国の報道機関や議員宛てに送りつけられ、22名が感染、うち5名が死亡した(アメリカ炭疽菌事件)。
遺伝子組換え生物等殺虫剤内生トウモロコシ「BTコーン」

遺伝子組換え生物の危険性は、1974年、ポール・バーグによる「Berg書簡」等で指摘され、『サイエンス』誌等でその検討が呼びかけられた[15]。発がん遺伝子大腸菌に入ると危険かもしれないという指摘であった[16]。遺伝子組換えは原子力事故と同じような危険性を孕んでおり、アシロマ会議ではどのようにすれば研究を安全に行えるかが話し合われた[17]。この結果を受け、日本では『組換えDNA実験指針』が取りまとめられた。

以来、遺伝子組換え生物等のバイオハザードについてはこの組換えDNA実験指針を以て安全管理が呼びかけられていたが、2004年に遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(通称「カルタヘナ法」)が施行されてからは、罰則のついた法的な規制が敷かれている。
封じ込め封じ込めの要となる設備、安全キャビネット

前述のとおり、実験室や輸送容器等からバイオハザード物質が漏洩すると、甚大な被害に至ることがある。これを防ぐために施される拡散防止措置を封じ込めと呼ぶ。取扱い生物を列挙し、感染症法や世界保健機関等の示す指針に従って等級(リスクグループ)を割り出し、必要な管理等級(x種病原体等取扱施設、BSLx、Px等)を決定、推奨事項の履行を検討し、実験室を設計、従業員に作業・運営に関する教育を施す。実験室の設計等にあたっては、感染症法の特定病原体等取扱施設要件[18]やカルタヘナ法の規程の定める防犯(#バイオセキュリティー)にも配慮が必要である。


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