バイオディーゼル
[Wikipedia|▼Menu]
バイオディーゼル古いメルセデス・ベンツのディーゼル車でバイオディーゼルに対応させた車両バイオディーゼルが通常の軽油よりも安く設定されている例

バイオディーゼルとは、生物由来油から作られるディーゼルエンジン燃料の総称で、バイオマスエネルギーの一つである。諸外国においてバイオディーゼルとして規格化がなされているのは脂肪酸メチルエステル(Fatty acid methyl ester、以下「FAME」)のみであるが、厳密に化学的な定義はない。原料となる油脂からグリセリンエステル交換により取り除き粘度を下げる等の化学処理や改質処理を施し、ディーゼルエンジンに使用できるようにしている。Bio Diesel Fuelの頭文字をとってBDFと略されることもある[1](BDFは登録商標)。
開発の歴史

ディーゼルエンジンは、元々は落花生油を燃料とし、圧縮熱で燃料に点火するエンジンとして19世紀末に発明されたものであり、バイオディーゼルを燃料として使用することを想定していた[2]。しかし落花生の生産は天候に左右され供給が不安定であったこと、当時ルーマニア油田が発見され軽油重油などの鉱物油が本格的に入手できるようになったことなどから、ディーゼルエンジンの燃料はバイオディーゼルから化石燃料へシフトしていった。

日本では、第二次世界大戦前夜にはガソリンの入手が困難となり、満州向けの戦車には大豆由来のバイオディーゼル燃料を使用することが検討されていた[3]1935年(昭和10年)、池貝鉄工所はディーゼル車の寒地試験を行う中で、大豆油を燃料にして三本木から青森間を走破することに成功した[4]

地球温暖化対策として再びバイオディーゼル燃料が注目されている。
原料

菜種油パーム油、オリーブ油ひまわり油、大豆油、コメ油、ヘンプ・オイル大麻油)などの植物油魚油豚脂牛脂などの獣脂及び廃食用油(いわゆる天ぷら油等)など、様々な油脂がバイオディーゼル燃料の原料となりうる。

欧州では菜種油、中国ではオウレンボク等、北米及び中南米では大豆油、東南アジアではアブラヤシココヤシナンヨウアブラギリから得られる油が利用されている。



特徴
化石燃料との違い

ディーゼルエンジンの燃料として通常用いられる化石燃料である軽油に比べて、化学的特徴として次のことが指摘されている[5]

ゴム樹脂を膨張・劣化させやすい。

熱の影響により酸やスラッジ(固まり)を発生させ、品質が劣化しやすい。

原料による性状の差異

原料となる油脂はそれぞれ性状が異なるため、バイオディーゼル燃料自体の性状も原料により異なったものとなる。

菜種油、ひまわり油、コメ油:酸化しやすい

パーム油、ココナッツ油、牛脂:低温で固まりやすい

魚油:低温でも固まりにくいが、熱でスラッジが発生しやすい

とりわけ廃食用油は様々な油脂が含まれうるものであることから、個々の原料の性状に大きなばらつきがある。それゆえ、廃食用油を原料とする場合は特に、小規模での製造では製品の品質が極めて不安定なものとなることから、品質を安定させるためには一定程度大規模なプラントで製造を行う必要がある。
精製状況による差異

精製方法の違いによっても、完成した製品の性状は異なりうる。例えば、精製が不十分でグリセリンが完全に除去しきれておらず、原料油脂(トリグリセリド)が残留している場合、スラッジ(固まり)が発生してピストンリングを固着させたり、フィルターの目詰まりを発生させることがある[6]。またメタノールの除去が不十分な場合、残留メタノールが金属部材の腐食の原因となる。

不飽和結合を有する有機化合物は、飽和有機化合物よりも化学的に不安定であり、酸素存在下で自動酸化を起こしやすい。酸化劣化の進んだ燃料はタンクを腐食させ、また重合物を生成しフィルタ詰まりを引き起こすことから、バイオディーゼル燃料を精製するにあたっては酸化防止剤を添加し、酸化安定性を向上させることが必要となる(なお、通常の軽油であれば酸化劣化は起こらないと考えられている)。

ディーゼル機関へ不完全な生成油が混入することにより、着火温度の差が発生すると、エンジンの不調や破損の原因になる。
コモンレール方式エンジンとの関係について

排ガス規制に対応するため近年開発が進んでいる、コモンレール方式を採用したディーゼルエンジンと、バイオディーゼル燃料との相性の問題が指摘されている。

ディーゼル自動車からの排ガス規制が厳しくなる中、コモンレールシステムにより燃料噴射圧の高圧化が必要とされているが、燃料の高圧化は同時に断熱圧縮による燃料温度の上昇にもつながる。燃料温度の上昇は酸化劣化を引き起こす大きな要因であり、BDFを使用する上ではこのような高圧、高温環境下において燃料品質の劣化が起こらないよう適切な性状を確保することが非常に重要となる[7]
使用方法

バイオディーゼル100%か、または軽油・灯油と一定割合で混合して使用する。低温では粘度が高くなり流動性が低下し、特に寒冷地や冬季にバイオディーゼル100%で使用するとワックス分が燃料経路内で固まることがある。このため、ヒートエクスチェンジャーやフュエルヒーターを使用して燃料を加温する、始動は軽油で行い、完全暖機後にバイオディーゼル燃料に切り替えて使用するなどの対策が必要となる。

後述する揮発油等の品質の確保等に関する法律においては、自動車用燃料として販売することが認められる軽油中のFAME含有量は5.0質量%以下とされている。また、経済産業省農林水産省国土交通省環境省ではBDFに関する調査等を実施しており、軽油と混合しないバイオディーゼル100%での利用については、既存の自動車で利用した際、問題が生じた、又は車両側での対策が必要になった事例が報告されている。こうした例も踏まえ、国土交通省においては、neat(混合)BDF対応車の開発を行っている[8][9][10]

また、自動車の燃料として使用する場合、自動車検査証の備考欄に廃食用油燃料併用、バイオディーゼル100%燃料併用若しくは品確法特例措置高濃度バイオディーゼル燃料併用といった内容の記入申請を行った後に使用することができる。
品質規制について
欧州での規格

欧州ではFAMEについて、欧州規格であるEN14214において、軽油に混合しない状態での性状を規定している。鉱物ディーゼル燃料(軽油)の品質規格(EN590)では、「軽油は脂肪酸メチルエステル5%までブレンドできる。しかし、バイオディーゼルの品質規格はEN14214に基づくこと。」と規定している。これらの規格は2004年から有効とされている。また、不適合燃料を取り締まる方法等については、各国にて検討することとされている。
日本での規格

日本においては、従前、バイオディーゼル燃料についての規格が存在していなかった。しかしながら、近年これを一般自動車用の燃料として使用する動きがあることから、経済産業省審議会である総合資源エネルギー調査会において、上記欧州規格を参考としつつ規格化が検討されてきた。

この審議会での検討結果を受けて、BDF混合軽油を一般のディーゼル車に用いた場合における必要な燃料性状に係る項目を規定するため、揮発油等の品質の確保等に関する法律施行規則の改正がなされた。(平成19年経済産業省令第3号。改正省令公布日:平成19年1月15日、同施行日:平成19年3月31日)[11]
規制内容

上記品質確保法においては、FAME混合軽油について満たすべき基準が設けられており、軽油販売業者はこの基準を満たさないものを自動車の燃料用として消費者に販売してはならない。(揮発油等の品質の確保等に関する法律第17条の7及び同法施行規則第22条)

軽油生産業者及び輸入業者は、自動車の燃料として販売又は消費しようとするときは、この軽油規格に適合することを確認しなければならない。(同法第17条の8)

なお、品質確保法はあくまで炭化水素油を対象とした規制であるため、炭化水素成分を含まないFAME(含酸素燃料)は同法の規制の対象とはならない。軽油と混合される前のFAMEについては、FAMEやNEATFAME混合軽油を製造するにあたっての品質の目安として、軽油と一定割合(5%)で混合することを前提とした標準化が任意規格によりなされている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:83 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef