ハスター
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ハスターもしくはハストゥル、ハストゥール(Hastur)は、アンブローズ・ビアスの著作やクトゥルフ神話などに登場する「なにか」の名称。ハスターは「名状しがたいもの」とも呼ばれ、ほぼ邪神の名前として定着している。

作品によって、神、人、土地などを指す名称として用いられているのだが、これは段階的に意味が変わっているためである。もともとはアンブローズ・ビアスが創造した謎の固有名詞であった。ロバート・W・チェンバースは自作に取り込んだが、意味が変わっている。続いてハワード・フィリップス・ラヴクラフトも自作へと導入した。ハスターはラヴクラフト神話に含まれる。

今日のハスター像を確立させたのはオーガスト・ダーレスであり、名状しがたいものハスターはクトゥルフ神話の邪神として知られるようになっている。
クトゥルフ神話におけるハスター「名状しがたいものハスター」ハリ湖の生物
オーガスト・ダーレス作『破風の窓
ロバート・M・プライス黄衣の王
クトゥルフ神話TRPG『襤褸を纏いし者』(Tatterdemalion・未訳) 背後には「黄の印」が描かれている

クトゥルフ神話において、ハスターは神の名前であり、旧支配者(グレート・オールド・ワン)と呼ばれる強大な力を持った存在の一員とされる。四大霊の「風(大気)」に結び付けられる。ハスターの異名として、「名状しがたいもの(The Unspeakable One)」[1]、「名づけざられるもの(Him Who is not to be Named)」[2]、「星間宇宙の帝王」[1]、「邪悪の皇太子(Prince of Evil)」[3][4]などがある[5]

ヨグ=ソトースを父にもつ邪神たちの一体とされる。四大霊「水」の邪神クトゥルフとは半兄弟とされるが、ハスターとクトゥルフは対立しているという。[6]

ハスターはおうし座の星々と関わりがある(後述)。

クトゥルフ神話時代となってからも、ビアスやチェンバースの設定が死んでいるわけではなく、一例としてリン・カーターはビアスの設定を再利用し、ハスターをカルコサにおける羊飼いの神として言及している[7][注 1]
容姿・化身

ハスターの姿がどのようなものであるかは、詳細は不明である。目に見えない力である[5]、触手に覆われた200フィート大の直立したトカゲである[5]蝙蝠に似る[8]、ハリ湖に棲むタコに似た巨大生物と関連している[9]、などの説がある。

黄衣の王」という怪物はハスターの化身であるとも言われる[10]

ハスターは生身の人間にも取り憑く。犠牲者の体は、膨らみ魚類の鱗のようなものに覆われ、手足から骨が無くなり流動体のように変形してしまう。[2]
眷属

ハスターは「風」の神性の首領とされる。「風」の神々には、イタカおよびロイガーとツァールが属している[11]

その他に、バイアクヘーと呼ばれる有翼生物がハスターに仕えている。ハスターを讃える呪文を唱えることで、バイアクヘーを召喚することができる。

「風(大気)」が具体的に何を指すのかはよくわかっておらず、一説では星間飛行能力を指す。
設定の変遷

クトゥルフ神話へのハスターの登場は、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが1930年に執筆した『闇に囁くもの[12]が最初である。同作品にはビアスやチェンバースの作品からの名称が積極的に取り入れられている。しかし、同作品では固有名詞「ハスター」が何を指すかは明示されていなかった。

オーガスト・ダーレスが『ウィアード・テイルズ』(以下WT)1932年8月号で発表した『潜伏するもの[13]において、ハスターは初めて神として言及され、旧神に反逆してハリ湖に封印されたとの設定が追加されたが、あくまで簡単な説明にとどまった[注 2]。神話への本格的な登場は、ダーレスがWT1939年3月号で発表した『ハスターの帰還[2]においてであり、同作品においてクトゥルフとの対立が設定され、作品終盤においてはクトゥルフと直接対峙する場面まで描かれた。[注 3][6][14]

一方、同時期にWTに作品を発表していた作家ヒュー・B・ケイヴの作品でもハスターの名前が登場している。ケイヴの『暗黒魔術の島[15](1934)や『臨終の看護[3](1939)においてハスターは「邪悪の皇太子」と呼ばれており、それらの作品では悪魔の類のように見える[6]

ダーレスの連作短編『永劫の探究』(1944-1952)においては、ハスターがクトゥルフと対立しており、クトゥルフへの憎悪のために人類に手を貸すこともあるということが明確に述べられている。また、ハスターに仕えるバイアクヘーが登場したのも同シリーズである。[注 4][6]

ハスターをヨグ=ソトースシュブ=ニグラスと結びつけたのは、リン・カーターである。カーターが1976年に発表した『陳列室の恐怖』にて、ハスター/クトゥルフ/ヴルトゥームの三神がヨグ=ソトースの異母息子達であるという設定が示されている。

チェンバースの作品に登場する『黄衣の王』をハスターの化身と設定したのは、ケイオシアム社から発売されているクトゥルフ神話TRPGである[10]。同ゲームでは他にもいくつかのハスターの化身が設定されている。

ダーレス設定に限定しても、そのあまりの正体不明・名状しがたさに、ロバート・M・プライスは、風の精にして水棲生物の特徴という意味不明さと、人類を援助しすぎなことからクトゥルフのライバルよりも素直に旧神カテゴリでよかったのではないかとまで指摘している[16]

ジョン・タインズのハスター像は異なる。曰く、ハスターとは旧支配者にあらず、エントロピーの力だという。破壊の力と言い換えることができ、性質は内部から崩す自滅性である。ハスターによって全てがだめになる。ハスター現象はあくまで原理であり知性体ではないにもかかわらず、ハスターの破壊は狡猾な悪魔のようであるため、ハスターという神がいるかのように錯覚する。ハスターが思考に作用すると、起点としては脳内でわずかな分子が動いただけで、目に見える結果としては、あらゆる物事が台無しになる。加えてその狂いは、容易に他人へと感染し、正気は失われ、熱狂がうねりとなる。黄衣の王という本も、狂いを感染させるための媒介である。[17][注 5]

ハスターの名前を話すと破滅するというアイデアは、Deities & Demigods(英語版)の『The Deities and Demigods Cyclopedia』を初出とし、後にクトゥルフ神話TRPGにも導入された[5]
ハスター神話・黄衣の王・カルコサ


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