ハゲタカジャーナル(英: predatory journal)は、論文の著者から高額の論文掲載料を得ることのみを目的として発行され、査読付きであることを標榜しながら実際には適切な査読を経ていない低品質の論文を掲載するオープンアクセス形式の学術誌(ジャーナル)を指す[1][2]。ハゲタカジャーナルの出版元をハゲタカ出版社(predatory publisher)と呼ぶ[3][4][5]。ハゲタカジャーナルやハゲタカ出版社を、英語の直訳から「捕食学術誌」[6]、「捕食雑誌」[7]、「捕食出版社」[7]と称する例もある。
ハゲタカジャーナルのビジネスモデルは、オープンアクセスの中でも著者が論文掲載料を払うゴールドオープンアクセスの形式をとっており、論文掲載料を支払うと論文が電子ジャーナル上で公開される[3]。
研究者にとっては、まともな査読を通らないような論文でも掲載料を支払うだけで発表できるため、大学院の課程修了、専門医取得、昇進などの要件となり得る論文発表件数を水増しすることができるというメリットがあるのではないかと推測されている[7]。また、ハゲタカ出版社にとっては、査読・編集の手間を掛けず、投稿論文をウェブサイトで公開するだけで売り上げが得られるメリットがある。
一方、真っ当な研究者にとっては、それと知らずに悪名高いハゲタカジャーナルに論文を掲載した結果、研究者としての信用、評価を低下させてしまう危険がある[1][2]。また、研究機関や社会にとっては、研究費を論文掲載料としてハゲタカ出版社に騙し取られることになるので問題がある[1]。 まともな査読や編集を経ていないのでハゲタカジャーナルに掲載された論文の質や正当性は保証されない。それだけでなく、捏造、改竄、盗用の潜在的な温床でもある。 ニューヨーク大学・医学倫理部・部長のアーサー・キャップラン(Arthur Caplan)教授は、捏造、改竄、盗用と同じように、ハゲタカジャーナルの出版は、医療専門家に対する公衆の信頼を損ない、まともな科学を破壊し、証拠に基づく政策に対する公的支援を弱めると警告している[8]。 当初は、研究者たちは出版社に騙されて餌食になっていると推測されていた。そのため、このビジネスモデルは、出版社(publisher)による研究者の捕食(predatory)にたとえられ、predatory publishing と命名された。しかし、一部の研究者はそのような実態を承知の上でハゲタカジャーナルに投稿しているという。ニューヨーク・タイムズの2017年の記事によれば、自分の論文をハゲタカジャーナルに掲載したいと望む研究者は多数いて、出版社と研究者の関係は捕食-被食関係というよりも、「醜悪な共生関係」(ugly symbiosis)だと指摘している[9]。事実上、地位や役職を金で買っているのと同じだというのである。 ハゲタカジャーナルは急速に増加している。2010年にはハゲタカジャーナルの出版した論文は5万3000報だったが、2014年には約8000のハゲタカジャーナルから推定42万報の論文が出版された[10][11]。 出版社と論文著者の地域分布は非常に偏っている。論文著者はアジア・アフリカが4分の3を占める[10]。 2018年1月に発表された調査によれば、開発途上国の研究者は、評判の良い西洋の学術誌が彼らに対して偏見をもっているので、途上国の学術誌に発表する方が快適だと感じている。また、一般的に、開発途上国の研究者は、学術誌の評判についてあまり知らないので、ハゲタカジャーナルと知らずに投稿してしまう。研究者は適切な指針を持っておらず、より評判の良いジャーナルに投稿する知識が不足している[12]。 2008年3月、オープンアクセス学術誌に初期から貢献していたグンター・アイゼンバッハ(Gunther Eysenbach)は、過剰に魅力的な電子メールで研究者からの論文投稿を呼び込む出版社を「オープンアクセス出版の黒い羊」と呼び、注意を喚起した。特にベンタム科学出版社
批判
勢力
歴史
2008年10月、ウェルカム・トラスト主催によるロンドンでのオープンアクセスデーのセレブレーションで、「黒い羊」に対処するため、オープンアクセス学術出版社協会が設立された[14][15][16]。
しかし、2009年にも論文出版の誠実さに疑念が抱かれた[17][18]。