ハイブリッド戦争
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ハイブリッド戦争(ハイブリッドせんそう、英語: hybrid warfare)とは、軍事戦略の一つ。正規戦、非正規戦サイバー戦情報戦心理戦などを組み合わせていることが特徴である。ハイブリッド戦略とも呼ばれる。
概要
概念の登場「覇権主義」、「間接侵略」、「シャープパワー」、「諜報活動」、「心理戦」、および「サイバー戦争」も参照

ハイブリッド戦争の概念が登場したのは、1999年に中国の軍人の喬良と王湘穂が発表した「超限戦」である。ここでは政治、経済、宗教、心理、文化、思想など社会を構成する全ての要素を兵器化するという考えが示されていた[1]

2008年の米陸軍野外教範3-0C.1では「ハイブリッド脅威」という概念が初めて盛り込まれた[2]。またロシアが公然・非公然に介入した、1988?94年のナゴルノ・カラバフ戦争や1992年の沿ドニエストル紛争は常に現地の武装勢力や民兵、犯罪集団を巻き込んでおり、ハイブリッド戦争の要件を満たしている[3]
ゲラシモフ・ドクトリンとクリミア危機

2013年にはロシアの参謀総長ゲラシモフが、「予測における科学の価値」という論文を発表した。21世紀には近代的な戦争のモデルが通用しなくなり、戦争は平時とも有事ともつかない状態で進む。戦争の手段としては、軍事的手段だけでなく非軍事的手段の役割が増加しており、政治・経済・情報・人道上の措置によって敵国住民の「抗議ポテンシャル」を活性化することが行われる、とゲラシモフは論文の中で述べている[4]。この論文は「ゲラシモフ・ドクトリン」と呼ばれており、翌年発表されたロシアの新しい軍事ドクトリンはこれを踏まえて改定された[1](なお、この改定は以前のものが出されてから5年と経たずに行われており、7?10年単位で改定するのが普通のロシアでは異例のことである[4])。新ドクトリンには「非核抑止力システム」の概念が盛り込まれた。これの定義は「対外政策、軍事的手段、軍事技術的手段の総体であって、非核手段によってロシアに対する侵略を防止することを目的としたもの」である。小泉悠によれば、ロシアはクリミア危機において、この「非核抑止力システム」を自らが転用したものだという[5]

ハイブリッド戦争が特に注目され始めたのは、2014年クリミア危機からである。この紛争において、ロシアがほぼ無血でクリミアを占領・併合したことから、ロシアは何か新しい軍事力行使の形態を生み出したのではないかとの注目が集まった[2]国際戦略研究所 (IISS) は2015年5月19日、「アームド・コンフリクト・サーベイ2015 (Armed Conflict Survey)」において、ロシアがクリミアを併合した手法を「ハイブリッド戦争」と規定した[6]
評価

上述したロシアの手法を、クリミア危機後に現れた新しい戦略として捉えることに疑念を抱く専門家もいる。例えば、ピーター・マンスールはハイブリッド戦争に目新しいものはないとの評価を下している[7]

小泉悠は、ロシアの「ハイブリッド戦略」を冷戦期の第三世界で見られた核抑止と非正規戦の組み合わせを欧州に適応したものだと指摘する[8]。また、元ウクライナ安全保障会議書記のホルブーリンによれば、ロシアの「ハイブリッド戦略」の本質は、ロシアが自身の勢力圏への軍事介入を可能とする方法として編み出したものだという。ソ連時代に比べて国力・軍事力共に低下したロシアは、NATOとの直接対決が不可能であることから、自国に可能なローコスト・ローテクな方法でNATOに対抗できるようにしたのがこの「ハイブリッド戦略」であるとしている[9]
歴史
2006年のレバノン侵攻

2006年レバノン侵攻は、ハイブリッド戦争の代表例の一つである。この戦争では、レバノンで伸長していたシーア派軍事組織ヒズボラによるイスラエル国境の攻撃を受け、イスラエル軍がレバノン領内までヒズボラを追跡・侵攻した。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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