「ハイクビジョン」とは異なります。
この項目では、日本の高精細度テレビ放送(HDTV放送)について説明しています。
技術面や日本以外のHDTV放送については「高精細度テレビジョン放送」をご覧ください。
高精細度映像そのもの(いわゆる「ハイビジョン画質」)については「高精細度ビデオ」をご覧ください。
ハイビジョン(Hi-Vision)は、日本における高精細度テレビジョン放送(High Definition television / HDTV)の愛称である。電気機械器具等
を対象として、一般財団法人NHKエンジニアリングシステム[1]が商標登録している。登録番号1363407[2]他。NTSC標準テレビ放送に対し走査線が2倍以上あるため、高精細な画像である。画面の縦横比(アスペクト比)は人間の視野に合わせて標準(4:3) よりも横長(16:9)となる。
日本では2016年(平成28年)現在、2種類の放送規格がある。衛星放送(BS/110度CS)のデジタルハイビジョン(ISDB-S)と地上デジタルハイビジョン(ISDB-T)である。なおBSアナログハイビジョン(MUSE)は2007年(平成19年)9月30日に終了した。 本格的な研究は1964年東京オリンピック後にNHK放送技術研究所で始められ、1972年(昭和47年)にはITU-R(当時はCCIR)に規格提案が行われた。 1976年(昭和51年)に世界初のハイビジョン30インチモニターが完成。1980年代に入って業務用テレビカメラ、高精細ブラウン管、ビデオテープレコーダ、編集制作機器などのハイビジョン映像信号対応機器が開発され実用化の準備が整い始めた。ハイビジョンの愛称もこの頃から使用され始めている。 1982年(昭和57年)5月に、世界初のハイビジョン制作番組となる『日本の美』と『HDTVのためのいろいろなイメージ』の2番組を制作。この年の大晦日には『NHK紅白歌合戦』を初めてハイビジョン収録。この時は実験の名目で収録し、1989年の第40回からは本格的にハイビジョン収録へ移行し現在に至る。 1984年(昭和59年)には、デジタル技術を用いて帯域圧縮を行い、放送衛星のトランスポンダ1波の伝送帯域でアナログ放送を行うMUSE方式(Multiple Sub-Nyquist-Sampling Encoding system)が開発され、これを用いたBS放送が1989年(平成元年)から実験放送として開始。音楽番組等に少数ながらも機材が投入されていった。更に1991年(平成3年)からは試験放送が開始された。 また、MUSE方式を扱いハイビジョン画質に対応した家庭向けのビデオ機器(民生品)として、ハイビジョンLDが市販化された(ハイビジョンビデオカセットレコーダW-VHSはベースバンド方式のためMUSE方式ではない)。尚、実現はしなかったもののMUSEによる有料放送も計画されていた[注 1]。その後、1996年(平成8年)のアトランタオリンピック開催時期に跨り、普及が図られたが、2000年(平成12年)までに受像機累計出荷195万台に留まった[3]。 NHKは自ら開発したハイビジョン(1125/60 HDTV)とMUSEをHDTVの世界統一規格にすることを目指し、「高品位テレビ」の英訳として"High Definition Television"という言葉を使い、欧米で精力的な標準化活動を続けた。 当初NHKはハイビジョンのスクリーン・アスペクト比を5:3(1.67:1)のヨーロピアン・ビスタに近い値としていたが、規格統一の過程でアメリカン・ビスタ(1.85:1)との中間値に近い16:9(1.78:1)となった[4]。 日本で使える最大の帯域幅は、衛星放送の27MHzである。この変調方式はFM方式であることから、伝送可能なベースバンド信号帯域幅はその1/3の9MHzとなる。一方HDTVのベースバンド映像信号帯域幅は30MHzである。このため映像の圧縮が必要となった。MUSE方式の場合、1フィールドのサンプリングを画素数の半分とし全画素数の1/4とすることでこれを実現した。4フィールドで全画素位置がサンプリングされるが、パターンは各フィールド間で千鳥格子状をしており、五点形サンプリング(quincunx sampling)とも呼ばれる。 静止画の場合は前サンプリングの内容を用いることで補間する。動画の場合も定常的な動きの際には送られて来た動きベクトルデータを基に動き補償を行うことで高解像度を維持している。動きベクトル量の検出ができない不定動作の場合は解像度が低下するが、特に大きな問題とはならない。これは人の目の視力は動いているものを対象にしている時に視力が低下することに因る。色信号については同様のサンプリング処理を行われた後、時間軸圧縮を行う。こうして作られたサンプル値はアナログ伝送される。なお、MUSEはスタジオ規格であるBTA S001とはカラーマトリクスが異なる。その違いは下記の通り。 音声信号はAモードサンプリングレート(標本化周波数)32kHz 量子化語長12bit(4ch:3-1ステレオ方式)/Bモードサンプリングレート48kHz 量子化語長16bit(2ch)を準瞬時圧伸DPCM(Differential PCM)により伝送レートを軽減することによりAモードでは15bitを8bit、Bモードでは16bitを11bitに軽減している。ビット量の軽減はDPCMエンコード時にローカルデコーダを用いて差分値を測定し、変化差分に合わせてレンジビットと呼ばれるスケールを表すビットにより、データが表す音声レベルを決めることによって伝送量を減らす。これらの処理により、音声の伝送レートを1350kbpsとしている。DPCMは標本化されたデータの差分を伝送する。このために伝送路での障害によりエラーが発生した場合、誤差が蓄積し復号された信号が正しく再現されなくなることがある。これを軽減するためにリーク値と呼ばれる前の差分信号との積分を行うための係数が存在する。リーク値により後続する音声データに蓄積する誤差をリセットすることができる。これらのデジタルデータには誤り訂正符号も付加されており、伝送路で発生したエラーによる聴覚上耳障りとなる雑音を排除する役割を担っている。この音声伝送符号化方式はDANCE(DPCM Audio Near-instantaneous Compressing and Expanding)と名付けられている。 MUSE方式で放映されたハイビジョン放送を視聴ないしは録画するには、受信側でMUSE信号をMUSEデコーダによってデコードするか、もしくはM-Nコンバーターで疑似NTSC信号へ変換しなければ正しい画角および色で表示できない。 ハイビジョン画質の高精細度映像をそのまま視聴するには、BSアナログチューナーとMUSEデコーダの両方が内蔵された「ハイビジョンテレビ(主にブラウン管)」であればBSアンテナを接続するのみで視聴できる。
アナログハイビジョン
アナログハイビジョンの概要
1125/60 高精細度テレビジョン(HDTV)方式
アスペクト比:16:9
総走査線:1,125本 / 有効 1,035本
1ライン当たりの有効画素数:1,920(総画素数:2,200)に対して正方画素ではない。故にコンピュータ・グラフィック(CG)との相性に問題があり、ハリウッドのポストプロダクション・スタジオの影響が大きいアメリカの放送業界に1035システム(MUSE方式)が受け入れられなかった原因の一つとされている。後のデジタル・ハイビジョンは、総走査線 1,125本 / 有効 1,080本の正方画素を採用している。
走査線数の決定にあたってはPAL・SECAM・NTSCとの変換を考慮、かつCGとの親和性を考慮して、有効走査線数が1,024本を上回るようにしたという。
インターレース比:2:1
フィールド周波数:60.00Hz
System-M/NTSC互換の59.94Hz(60×1000/1001)ではなく60.00Hzである。これはフィールド周波数50.00HzであるPAL圏との方式変換が容易なように考慮されたものであるが、NTSCとのサイマル放送に難があり、逆にNTSC圏へのMUSE方式(1035システム)の普及を妨げる要因となった。後のデジタル・ハイビジョンでは59.94Hzを採用している。
MUSE方式の概要詳細は「Multiple Sub-Nyquist Sampling Encoding」を参照
映像方式
圧縮対象走査線:1,032本
原始サンプリング周波数:44.55MHz
伝送サンプリング周波数:16.2MHz
時間軸輝度圧縮率:12:11
時間軸色差圧縮率:4:1
色差多重方式:時間軸圧縮多重(TCI)
圧縮方式:フィールド間、フレーム間、ライン間オフセットサンプリング方式
動きベクトル補正:水平±16サンプル(32.4MHzクロック)/フレーム、垂直±3ライン/フィールド
同期信号:デジタルフレームパルス型、正極同期
ベースバンド帯域幅:8.1MHz(-6dB)
音声方式
多重化方式:垂直帰線期間に3値ベースバンド多重
モード:48kHz 16bit(2ch) /32kHz 12bit(4ch:3-1ステレオ)
音声圧縮方式:準瞬時圧伸 DPCM
音声誤り制御:BCH SEC DED
BSにおける伝送変調方式
エンファシス:ノンリニアエンファシス、ゲイン9.5dB
変調極性:正極性
周波数偏移:10.2MHz p-p
占有周波数帯域:27MHz
スタジオ規格(BTA S001):Y=0.701G+0.087B+0.212R
MUSE方式:Y=0.588G+0.118B+0.294R
視聴に必要な機材