不確定性原理(ふかくていせいげんり、(独: Unscharferelation、英: Uncertainty principle)は、量子力学に従う系の物理量 A ^ {\displaystyle {\hat {A}}} を観測したときの不確定性と、同じ系で別の物理量 B ^ {\displaystyle {\hat {B}}} を観測したときの不確定性が適切な条件下では同時に0になる事はないとする一連の定理の総称である。特に重要なのは A ^ {\displaystyle {\hat {A}}} 、 B ^ {\displaystyle {\hat {B}}} がそれぞれ位置と運動量のときであり、狭義にはこの場合のものを不確定性原理という。
原理的には、一般のフーリエ解析で窓関数を狭めるほど得られるスペクトルが不正確となるのと同種の説明がなされる。
このような限界が存在するはずだという元々の発見的議論がハイゼンベルクによって与えられたため、これはハイゼンベルクの原理という名前が付けられることもある。しかし後述するようにハイゼンベルク自身による不確定性原理の物理的説明は、今日の量子力学の知識からは正しいものではない。
今日の量子力学において、不確定性原理でいう観測は日常語のそれとは意味が異なる用語であり、測定装置のような古典的物体と量子系との間の任意の相互作用を意味する[1]。したがって例えば、実験者が測定装置に表示された値を実際に見たかどうかといった事とは無関係に定義される。また不確定性とは、物理量を観測した時に得られる測定値の標準偏差を表す。
不確定性原理が顕在化する現象の例としては、原子(格子)の零点振動(このためヘリウムは、常圧下では絶対零度まで冷却しても固化しない)、その他量子的なゆらぎ(例:遍歴電子系におけるスピン揺らぎ)などが挙げられる。 不確定性原理は、物質が根源的に波であり、位置と運動量が共役すなわちフーリエ変換の双対となることに由来する。よって、一般の音声解析等のフーリエ変換にて生じるトレードオフに例えられる。 フーリエ変換では対象となる波に窓関数を乗じて波の一部を切り出し、一度の解析対象領域とするが、この領域を長くとった方が周波数分析としては正確であり、スペクトル空間上の局在的な情報が得られる。例えば波長の値などが正確に得られる。 しかし、領域が長いほど、波の瞬時ピークの高さやその出現時刻といった、時間軸で局在している特徴は曖昧になる。スペクトル空間上の局在性を犠牲にして対象領域を狭めていくことで時間軸上の局在情報すなわち瞬時のピークや波形は、より正確に捉えられる。 これは窓関数の利用に限ったことではなく、波の局在した成分を捉えようとすると、周波数空間での情報は曖昧になり分布が広がる。両方を同時に局在化させることはできない。 ※詳細は不確定性原理英語版 歴史的に、不確定性原理は観察者効果と呼ばれる物理学におけるいくらか似た効果と混同されてきた[2][3]。観察者効果とは、系を測定する行為それ自身が系に影響を与えてしまうというものである。 量子力学が成立するミクロな世界が測定による観測者効果で「揺動」してしまうという説明は、ハイゼンベルク自身が当初不確定性原理に対して与えたものであり[4]、今日において繰り返し出てくるものの、根本的に誤解を招くおそれのあることが現在は知られている[5][6]。 「不確定性原理は実際には量子系の基本的特性を述べており、現代のテクノロジーにおける測定精度の到達点について述べたものではない」[7]。不確定性原理は全ての波のような系にもともと備わっている特性であること[5]、不確定性は単純に全ての量子物体の物質波の性質によって現われることが今日の量子力学ではわかっている。 測定器の誤差と測定による反作用との不確定性とは区別して考えなければならない。量子論での時間発展や測定についての基本的要請をすべて使って展開できる量子測定理論を用いて、ハイゼンベルクの考察した「測定精度と反作用に関する不確定性原理」ははじめて導けるが、その結果得られる不等式の下限はケースバイケースで変わることが判っている[8]。後述する小澤の不等式などがその1つである。 不確定性原理で特に重要になるのは、物理量 A ^ {\displaystyle {\hat {A}}} と物理量 B ^ {\displaystyle {\hat {B}}} がそれぞれ(j軸方向の)位置 Q ^ j {\displaystyle {\hat {Q}}_{j}} と運動量 P ^ j {\displaystyle {\hat {P}}_{j}} である場合である。系が状態ψにあるときのこれらの不確定性をそれぞれ Δ ψ Q ^ j {\displaystyle \Delta _{\psi }{\hat {Q}}_{j}} 、 Δ ψ P ^ j {\displaystyle \Delta _{\psi }{\hat {P}}_{j}} とするとき、以下が成立する: Δ ψ Q ^ j Δ ψ P ^ j ≥ ℏ 2 {\displaystyle \Delta _{\psi }{\hat {Q}}_{j}\Delta _{\psi }{\hat {P}}_{j}\geq {\frac {\hbar }{2}}~~} ここで ℏ {\displaystyle \hbar } は換算プランク定数である。なお本項ではH13に従い、不確定性を Δ ψ Q ^ j {\displaystyle \Delta _{\psi }{\hat {Q}}_{j}} と表記したが、多くの物理の教科書では系の状態ψを省略し Δ Q ^ j {\displaystyle \Delta {\hat {Q}}_{j}} と表記する。 上式右辺は0より真に大きいので、位置の不確定性 Δ ψ Q ^ j {\displaystyle \Delta _{\psi }{\hat {Q}}_{j}} が0に近い値であれば Δ ψ P ^ j {\displaystyle \Delta _{\psi }{\hat {P}}_{j}} は極端に大きくなり、逆に Δ ψ P ^ j {\displaystyle \Delta _{\psi }{\hat {P}}_{j}} が0に近い値であれば Δ ψ Q ^ j {\displaystyle \Delta _{\psi }{\hat {Q}}_{j}} は極端に大きくなる。両方共0に近い値にする事はできない。 一般の物理量 A ^ {\displaystyle {\hat {A}}} 、 B ^ {\displaystyle {\hat {B}}} に対する不確定性原理として、以下のロバートソンの不等式がある: ( Δ ψ A ^ ) 2 ( Δ ψ B ^ ) 2 ≥ 1 4 。 ⟨ [ A ^ , B ^ ] ⟩ ψ 。 2 {\displaystyle (\Delta _{\psi }{\hat {A}})^{2}(\Delta _{\psi }{\hat {B}})^{2}\geq {\frac {1}{4}}\left|\langle [{\hat {A}},{\hat {B}}]\rangle _{\psi }\right|^{2}}
概要
一般のフーリエ変換に現れる同種のトレードオフ
観察者効果との混同
不確定性原理の概要