ネルソン級戦艦
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ネルソン級戦艦

艦級概観
艦種戦艦
艦名提督の名前
前級リヴェンジ級戦艦
次級キング・ジョージ5世級戦艦
性能諸元
排水量基準:33,333トン
常備:34,000トン
満載:38,000トン
全長216.4m
水線長:214.5m
全幅32.3m
吃水9.1m
(1945年:10.8m)
機関アドミラリティ式重油専焼三胴型水管缶8基
+ブラウン・カーチスギヤード・タービン2基2軸推進
最大
出力45,000hp
最大
速力23.0ノット(竣工時)
23.9ノット(公試時)
航続
距離16ノット/7,000海里
乗員1,314名(平時)
1,640名(戦時)
兵装Mark I 40.6cm(45口径)3連装砲3基
Mark XXII 15.2 cm(50口径)連装速射砲6基
Mark VIII 12cm(43口径)単装高角砲6基
2ポンド(4cm)ポンポン砲8連装8基
62.2 cm水中魚雷発射管単装2基
装甲舷側:
356 mm(弾薬庫・傾斜角18度)
330 mm(機関区・傾斜角18度)
38(19+19)mm(水線下隔壁)
甲板:
159 mm(弾薬庫上面部)
95 mm(機関区上面部)
主砲塔:406 mm(前盾)
279 mm(側盾)
184 mm(天蓋)
副砲塔:
37 mm(前盾)
25 mm(側盾)
25 mm(天蓋)
バーベット部:
381 mm(最厚部)
司令塔:
406?356?343 mm
艦載機なし
(1935年、ロドニーのみ:水上機2基、カタパルト1基)
同型艦1番艦ネルソン
2番艦ロドニー

ネルソン級戦艦(ネルソンきゅうせんかん、Nelson class battleship)は、ワシントン海軍軍縮会議の結果、条約型戦艦のうち16インチ砲戦艦2隻の保有権を獲得したイギリス海軍が建造した超弩級戦艦の艦級である。同型艦は2隻で、1番艦ネルソンは1927年に竣工した。

本級はワシントン条約で定められた排水量内で最大の攻撃力と防御力を実現した[1]ものの、代償に速力を失った。
概要

ワシントン海軍軍縮条約(以下条約)の第3項目において、建造中および未起工の艦は全て中止されることになっていた[2]。しかし、大日本帝国は未済工事が残っていた長門型戦艦陸奥」の竣工を主張したため、それを認める代わりに英米に対する日本の戦艦保有量が6割を超えるのを防ぐ目的から英米に対して16インチ砲戦艦2隻の追加保有が認められた。このためアメリカ海軍デラウェア級戦艦2隻の廃艦と引き換えにコロラド級戦艦のうち工事の進んでいた「メリーランド」に加え、2隻の追加建造が認められて3隻となった[3]

この時点でイギリス海軍において16インチ砲戦艦はなく、イギリスにも「サンダラー」と「キング・ジョージ5世(初代)」の廃艦と引き換えに16インチ砲戦艦2隻の建造枠が認められた。加えて第一次世界大戦の戦訓を加えて一から設計できるのは大きなアドバンテージであり、1922年度計画で2隻の建造が承認された。

本級は、同条約期間中に新造された唯一の戦艦であり、英国が建造した唯一の16インチ砲を搭載する超弩級戦艦であり、また英国が建造した唯一の三連装主砲塔を持つ戦艦である。本級の主砲塔は全て艦首甲板上に16インチ三連装砲3基を集中配置している。この主砲の前方集中配置は世界の海軍の注目を集め、各国の新戦艦設計時に検討されることとなるが、後述する弊害が発生するため、結局この配置を積極的に採用して建造までしたのはフランス海軍ダンケルク級戦艦及びリシュリュー級戦艦)のみとなった。

大戦末期、ネルソンは長駆マレー半島まで活動したが、酷使され、船体の痛みが激しかったロドニーは係留状態で終戦を迎えている[4]
設計竣工時の「ネルソン」。本級はイギリス海軍では初めて主砲塔を三連装砲としたクラスであった。

本級は造船官ユースタス・テニソン=ダインコートの最後の設計となった[5]

条約締結前の1921年に計画されていたG3型巡洋戦艦をタイプシップに採り、これを条約制限ギリギリの基準排水量35,000トンで収まる船体に16インチ砲9門を持つ戦艦として計画された。しかし、G3型がポスト・ジュットランド型戦艦として、攻撃力・防御力・速力を重視して計画されたのに対し、本級は条約の制約によってその全てを求めることはできなかった。このため、イギリスは排水量上限を43,000トンとする特例を画策した[6]。しかし、1921年11月にはワシントン条約の内容が確定したことから、本級は攻撃力と防御力のみを重視し、速力は当時の標準として改めて12月17日に16インチ砲を搭載する速力23ノット台の戦艦として設計しなおされた[6]

当初はイギリス海軍省はN3型戦艦を小型化した物を要求したが、海軍設計局長であるダインコートは「35,000トンの枠内では要求性能を満たすことは至難である」と回答したため、逆に設計局側から新戦艦の設計をまとめるために敢えて主砲を15インチ砲を搭載する事と装甲厚を1インチ(25mm)減少させることで軽量化を図ること、高張力鋼等の軽量化素材を広範囲に用いる事で船体の軽量化を図ることは可能か否かを問う質問状が送られる事態となった。この質問状に対して軍令部長は、新戦艦の15インチ砲搭載は他国が16インチ砲戦艦への対抗上で考えられない事と、防御装甲の減厚は0.5インチ以上は認められないという回答を設計局長宛てに返信した。この際に軽量化素材の採用は認めており、従来は装甲板として使用されていたDS鋼を広範囲に船体鋼材として使用する許可を与えて設計の範囲を広げた。本級の設計は1922年9月11日に承認され、11月28日に「ネルソン」と「ロドニー」が起工された[7]
評価

本級はイギリス海軍において満足のいく戦艦ではなかった。なぜなら、本級の設計は条約という足枷によって大幅な妥協を余儀なくされたからである[8]

後述する理由により後方砲撃力が不足と評価され、防御面でも傾斜装甲の防御効果は良好と判断されたが、軽量化のため防御範囲が狭く、水中防御も満足な対策が執れないために様々な面で能力不足と認識された[6]

また、本級は集中防御に伴う特殊な船体形状により運動性が悪いという問題があり、特に低速時の運動性は劣悪と艦隊側から評価されている。加えて、主砲塔全てを艦首に集中配置したために発砲時の爆風圧力は猛烈な物となり、特に後方に向けて射撃した際には上部構造物や甲板を損傷する可能性があった事から、平時に艦後方に向けての射撃が禁止されていたなど運用性に問題があった[6]。結局、ほかの戦艦の設計において主砲の前方集中配置を採用したのは(3連装3基と4連装2基の違いはあるが)フランス海軍ダンケルク級戦艦及びリシュリュー級戦艦)のみとなった。しかしこれ以降イギリス海軍は主砲の前部集中配備を採用せず(後にライオン級戦艦の改設計等の機会に後部砲塔を撤去したかたちでの前部集中案が検討されている。ただし建造コストを抑える、工期短縮を図る等どちらかといえば消極的な理由による。)、フランスもガスコーニュ級戦艦においては前部集中配備をやめる予定であり、艦形として評価が高くないのは事実である。
艦形外洋航行における「ロドニー」。艦首の凌波性が判る写真。

本級の船体は弩級戦艦以降では初の平甲板型船体を採用した。ほぼ垂直に切り立った艦首から主砲を真正面方向へ仰角をかけずに斉射できるようにする為に艦首甲板の傾斜(シア)は全く設けられていなかった。その艦首甲板上に40.6cm(16インチ)砲を三連装砲塔に収めて3基を艦首方向に配置していた。その搭載様式は、1・3番主砲塔を甲板上に置き、その間の2番主砲塔のバーベットを伸ばして一段、高所に置いて背負い式とした。3番砲塔は2番主砲塔のバーベットと上部構造物に挟まれたため、射角が他の砲塔よりも著しく小さくなっている。

もしも3番砲塔を2番主砲塔よりも高所に配置すれば重心の上昇を招く上に、3番主砲塔を避けるために操舵艦橋・戦闘艦橋の位置をより高くする必要が生じ、これは更なる重心の上昇を招いてしまう。重心の上昇は荒天時の横揺れの悪化や左右への主砲斉射時の反動から来る動揺悪化に繋がる為、敢えて3番主砲塔を甲板に置くこの配置になったとされる。ちなみに3基のすべての主砲塔を艦橋前に集中配備したのは本級のみであるが、砲塔を5基以上搭載する艦で、艦の前部ないし後部に砲塔を3基並べた例は珍しいものではないが、いずれも3基の砲塔のうち1基のみを高所に配置した背負い式としている(背負い式砲塔をはじめて採用したのはアメリカのサウスカロライナ級戦艦であるが、続くデラウェア級戦艦から、砲塔を3基連続して並べる際は、1基のみを高所に配置するのが基本となり、他の艦もこれを踏襲している。


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