ヌシ(主)は、古代日本の神名や人名につけられる称号。地方の首長や国津神系の神名や人名を表す称号として用いられた。天津神系の神名や人名を表すヒ(日)と対立する称号である。 ヌシはウシ(大人)が語源でノウシ(助詞ノ+大人)の短縮形である[1]。斎主(いわいぬし)を日本書紀は「斎之大人(いわいのうし)」とも伝えている。8世紀に成立した継体天皇紀は主人王をヌシ(主)を用いて記しているが、推古朝の7世紀に成立したと考えられる上宮記では同一人物を汙斯王(ウシキミ)とウシを用いて記している。つまりヌシ(主)はウシ(大人)から派生し、7世紀前後に成立した比較的新しい用語である[2]。ヌシの語義は「ある領域の主(あるじ)として占めている」の意である[1]。
語源・語義
神名・人名のヌシ、大友主命、葉山主命
ヌシの前に付く語幹は特定の場所や具体的なものを指す言葉でなく、人や神の状態や特性を概念化した言葉であるとする説がある[2]。たとえば大国主神はオオアナムチ、アシハラシコヲ、ヤチホコ、ウツシクニタマといった多くの別名を持っており、こうした古い呼称を統合して新しい概念でとらえ直した名前であるとする説がある[3]。 ヌシの神名は国津神に集中しており、天津神にはアメノミナカヌシ(天之御中主)以外には見あたらない。ヌシの人名も国津神系に集中しており、皇室系譜
ヌシとヒの対立
脚注[脚注の使い方]^ a b 本居宣長『古事記伝』
^ a b c ネ、ミ、ヒコ、ヒメなどの称号を表す漢字が多様なのに比べてヌシは「主」一つに固定化していることも、その新しさを表している。溝口睦子「記紀神話解釈の一つのこころみ」『文学』1973-1974年。
^ 吉井厳「日本神話成立の基礎--『ヌシ』を名にもつ神々をめぐって--」『解釈と鑑賞』1972年1月号。