標準: Allium sativum L. (1753)[2]
シノニム
Allium sativum L. var. japonicum Kitam.[3]
英名
Garlic
ニンニク(大蒜[4][5]・忍辱[6]・〈稀に〉人肉[7]、学名: Allium sativum)は、ヒガンバナ科[注 1]ネギ属の多年草。香りが強く、強壮・スタミナ増進作用があると信じられているため[8]、球根(鱗茎)を香辛料などとして食用にするほか、茎も「ニンニクの芽」(トウ)と呼ばれて野菜として調理される[9]。強烈な風味を持つことから、肉食の習慣がある地域で肉類と併用し、くさみを消す食材、香辛料として普及している。
概要ニンニクの鱗茎
鱗茎(球根)の部分は世界各国で用いられる香辛料で、強烈な香りと風味を持つことから、肉食の習慣がある地域で普及している。古くから、疲労回復、強壮作用があることが知られており、古代エジプトや古代ギリシアでは、薬として使われていたといわれる[10]。
日本ではニンニクやノビル(野蒜)など鱗茎を食用とする臭いの強い(ネギ属の)植物を総称して蒜(ひる)と呼び、特にノビルと区別する場合にはオオヒル(大蒜)とも称した。漢方薬の生薬名は大蒜(たいさん)。ニンニクの語源は、困難を耐え忍ぶという意味の仏教用語「忍辱」(にんにく)とされる[6]。英語名のガーリック (garlic) でもよくよばれ、フランス語では ail(アオユ/アイユ)、イタリア語では aglio(アッリョ/アーリョ)という[11]。ニンニクの標準学名は、Allium sativum L. であるが、狭義のニンニクの学名は Allium sativum L. 'Nipponicum' とされる[1]。
5月ごろに白い小さな花を咲かせるが、栽培時には鱗茎を太らせるために花芽は摘み取る。摘み取った茎は柔らかい物であれば野菜として利用される。一般に市場に通年流通しているにんにくは、鱗茎を収穫後、乾燥して貯蔵したものである[10]。また、初夏には「新にんにく」が出荷されている[10]。にんにくが持つ強い香りは、加熱調理することによって香ばしい香りへと変化する[10]。
一般的に見かけるニンニクは分球ニンニクがほとんどで、代表種は鱗茎が6片集まって1個になった「ホワイト六片」「福地ホワイト」が知られている[10][11]。一片種と呼ばれる中国のプチニンニクなどの品種もある[11]。系統を大別すると、暖地系品種(壱岐早生、上海など)と寒地系品種(福地ホワイトなど)に分けられる[11]。なお、ジャンボニンニクあるいは無臭ニンニクと呼ばれるものはニンニクとは別種であり、リーキ(ポロネギ)の1変種である。
ニンニクは自然状態ではアリインを多量に含み、鱗茎がすりおろしなどで加工されて分解されるとアリシンに変化するが、どちらも非常に強力な成分であり、生で1日1片、加熱調理で1日3片を超えて摂取すると有害な副作用が現れる[12][13]。従って、薬味として少量用いるに留めるべきである。
ニンニクの株
株元
葉
総苞に包まれた花序と花茎
花序(開花期)
花序にはムカゴと花がつく
花蕾
鱗茎
歴史江戸時代の農業百科事典『成形図説』 (1804年)
原産地は中央アジアと推定されるが[4]、既に紀元前3200年頃には古代エジプトなどで栽培・利用されていた。また、紀元前1550年ごろにエジプトで書かれたという、現存する最古の医学書『エーベルス・パピルス』には薬としても記載されている。中国へは紀元前140年ごろに伝わり、日本には中国を経て8世紀ごろ(平安時代)には伝わっていたと見られる[14]。
日本では、禅宗の禅寺の戒壇石に「不許葷酒入山門」(くんしゅさんもんにいるをゆるさず)と刻まれるように、強壮作用が煩悩(淫欲)を増長するとされて仏教の僧侶の間ではニラ、ネギ等とともに五辛の一つとして食が禁じられた。漢字表記の「蒜」「大蒜」は漢語に由来する一方、仏教用語の「忍辱(にんにく)」がニンニクの語源となったとされる[14]。『大和本草』巻之五 草之一 菜蔬類では、悪臭甚だしくとも効能が多いので人家に欠くべからざるものと評価された。
古代日本では上記の通り禁葷食となったほか、肉や油を摂る習慣のなかった当時は食材としては刺激が強すぎるため、薬や強壮剤として用いることが主だったとされる[15]。江戸時代に入り徐々に食材として用いられるようになり、料理書『料理物語』にはたぬき汁や鹿汁の添え物として、『江戸料理集』には鳥肉汁の薬味やタニシの和え物として使われた記述がある[15]。