ニレ立枯病
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ニレ立枯病
ニレ立枯病に感染した樹木の樹冠で複数の枝が枯れたり垂れ下がっている
一般名ニレ立枯病
病原Ophiostoma ulmi
O. himal-ulmi
O. novo-ulmi
寄主ニレ
媒介生物キクイムシ
EPPOコード ⇒CERAUL
地理的分布ヨーロッパアメリカニュージーランドなど
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ニレ立枯病(ニレたちがれびょう、英名:Dutch elm disease、略称:DED)はニレ属学名:Ulmus)の樹木に発生する感染症である。子のう菌の一種を病原とし、キクイムシの媒介によって感染拡大する。病原菌はアジア原産と見られ、ヨーロッパアメリカニュージーランドなどのニレ類に枯死を伴う激害をもたらしており、五葉マツ類発疹さび病クリ胴枯病と並び樹木の世界三大病害の一つである。

英名のDutch elm disease(オランダのニレの病気)は1921年オランダ人植物病理学者シュワルツ(Bea Schwarz)、バイスマン(Christine Buisman)、ヴェシュタディーク(Johanra westerdijk)ら3人によって報告されたことに因む[1][2]。英名Dutch elm(オランダのニレ)と呼ばれる種(Ulumus glabraとU. minorの雑種)があるが、その種だけに特異的に発生する病気というわけではない[3][4]。ちなみに日本でも英名の直訳でオランダニレ病と呼ばれることがある。目次

1 症状

2 原因

2.1 青変菌

2.2 キクイムシ


3 発病要因

3.1 ニレの種類と抵抗性

3.2 その他の要因


4 対策

4.1 キクイムシの駆除

4.2 青変菌の駆除

4.3 抵抗性品種の開発


5 世界的な広がりと影響

5.1 ヨーロッパ

5.2 北アメリカ

5.3 ニュージーランド


6 脚注

7 関連項目

7.1 世界の樹木三大(四大)病害

7.2 昆虫や昆虫の共生微生物が引き起こす樹木の病気

7.3 広葉樹の重大な病気


8 外部リンク

症状

病原菌の侵入した時期と場所にもよるが、典型的な症状は晩春から夏にかけて樹冠上部にある葉の萎れと変色である。葉は初め黄色くやがて茶色へと変わり、時期外れの紅葉をしているようにも見える。このような場合病変部は次第に下方向へ拡大し他の枝も枯れ始める。ニレは落葉樹であり、冬は葉を落とし春に芽吹く。前年以前に感染していた場合は春先には葉や枝の異常が明らかになり、芽吹いてこないなどの症状が見られることもある。やがて他の枝も枯れ上がり葉は少なくなっていく。葉が少なくなると光合成による栄養分の全身への転流が減り、樹木は衰弱する。最終的に根が死に樹木は枯死する。いくつかの種では根が全滅せずに生き残ると言い、特にU. minorでは良く見られるという[5]

また、弱っている枝や幹の樹皮を剥ぐとして観察すると、師部が侵され変色し多数の茶色い筋模様が見える[6]

樹冠上部から侵入した場合の他に感染木は健全木の根の接触部分から菌が侵入して感染を広げる場合があり、樹冠からの感染は発病から枯死まで数年かかることもあるが、根からの感染の場合病気の進展は急速に進むという。

枯れ上がった枝

このような感じで始まる

だんだん枯れる枝が増える

最終的にこうなる。枯死したU. minor

ポーランドの枯死木

原因

病気の直接の原因は子のう菌類と呼ばれる菌類(カビ)の感染による[7]。原因菌はその中でもOphiostoma属に属し、現在のところは次節に挙げる3種類が知られている。この仲間はいわゆる青変菌と呼ばれ、木材内部で繁殖し材を青く変色させる。日本では樹木の病原菌と言うよりは木材を変色させて経済的価値を落とす菌としての知名度の方が高い。

病原菌が感染するとニレは防御反応を示し、木部組織を樹脂やチロースで塞いで病原菌の拡散を防ごうとする。木部組織は道管を含む場所で根から吸い上げた水や栄養素を光合成反応を行う葉に届ける役割を果たしている。ここの閉塞がおこると水が行きわたらない病変部より上部は枯死する。その後は前述のように葉の損失による餓死的な面も出てくる。管の閉塞による通水障害が致命的という点では我が国で猛威をふるっているマツ材線虫病(所謂マツ枯れ、松くい虫)とよく似ている。

病原菌はセラトウルミン(cerato ?ulmin、CU)と呼ばれる毒タンパク質を作ることでも知られる。
青変菌 Ophiostoma ulmiを培養したところ

本病の原因となるOphiostoma属菌は次の3種が知られる。

Ophiostoma ulmi ? この中では最も早く1910年にヨーロッパで確認された種類である。輸入材に紛れ込んで1930年頃にはアメリカに侵入した。

O. himal-ulmi[8] ? ヒマラヤ地域原産のU. wallichianaから分離された種。

O. novo-ulmi ? この中では最も強毒性の種で1940年代にヨーロッパとアメリカで確認された。1960年代から猛威をふるい多くのニレを枯死させている[5]

強毒性で猛威をふるうO. novo-ulmiの原産地は分かっていない[9]が、おそらく中国であるとみられている。1986年の調査ではその証拠を見つけられなかったが、媒介者のキクイムシはよく見られた[9]

近年、これらの病原菌は北海道に普通に見られることが明らかになった[10]。日本産O. novo-ulmiはO. novo-ulmi ssp. americana と呼ばれるアメリカ産系統である。日本ではこれらによる大量枯死は報告されていないが、人工接種試験ではハルニレ、オヒョウ、ケヤキ(ニレ科ケヤキ属)苗木の道管を侵すことが確認されている[11]
キクイムシ

キクイムシはキクイムシ科に含まれる昆虫の総称であり非常に多くの種類が知られる。名前が示すように餌は木であり成虫も幼虫も木を食べるが、多くの種では体に菌類を付着させて樹木内部に持ち込んで繁殖させて木を分解させてからそれを摂食するという習性を持つ。菌類の方でも宿主となる新しい樹木へ運んでもらう利点があり、両者は共生関係にあるといえる。

キクイムシ科は大きく3亜科に分かれるが、この病気を媒介するのは何れもキクイムシ亜科(Scolytinae)に属する。北米でこの病気をするのは次の3種である。

Hylurgopinus rufipes - アメリカ産

Scolytus multistriatus - ヨーロッパ産で体長2-3mmの小型種。

Scolytus schevyrew

先の北海道の事例ではニレノオオキクイムシ(S. esuriens)という種が菌を保有しているという[10]

Scolytus multistriatus

U. glabraの樹皮を剥がした場面。放射状模様はキクイムシが掘った坑道

発病要因
ニレの種類と抵抗性

ニレの種類により抵抗性に差がある。一般にアジア産種はこの病気に対する抵抗性が強いが、欧米産種は感受性であり弱い。以下、主な種の抵抗性とその種の分布地について述べる[12]。学名の後が分布地を示し、意味は亜=東アジアおよびシベリア、ヒ=ヒマラヤ地域、欧=ヨーロッパ、米=アメリカである


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