ナラノヤエザクラ
ナラノヤエザクラの花
分類
ナラノヤエザクラ(奈良の八重桜)もしくはナラヤエザクラ(奈良八重桜)(学名: Prunus verecunda 'Antiqua')はサクラの栽培品種の一つ。オクヤマザクラ(カスミザクラ)の変種で、4月下旬から5月上旬に開花する八重桜である。他の桜に比べて開花が遅く、八重桜の中では小ぶりな花をつけるのが特徴である。「奈良の八重桜」は八重桜の一品種であり、奈良に植わっている八重桜の総称ではない。
ナラノヤエザクラは『詞花和歌集』の伊勢大輔の和歌により著名になった八重桜である。『詞花集』には「一条院御時、奈良の八重桜を人のたてまつりて侍けるを、そのおり御前に侍ければ、その花をたまひて、歌よめとおほせられければよめる」とあり、伊勢大輔は「いにしへの奈良のみやこの八重ざくらけふ九重ににほひぬるかな」と詠んでいる。奈良の文化の一片を今に伝える桜であり、奈良を代表する花として、奈良県の県の花・奈良市の花に制定され、奈良市章にも用いられている。 ナラノヤエザクラは落葉高木であり、カスミザクラが重弁化した変種であると考えられている。ナラノヤエザクラの繁殖力は極めて弱く、殖やすのが非常に難しい。樹勢は弱く、寿命も短い。後述する「知足院奈良八重桜」も1923年に天然記念物に指定された樹は既に枯れてしまっている。 芽は赤紫色を帯びた褐色をしている。芽は最終的に、長さ 5 センチメートルから 9 センチメートル、幅 2.5 センチメートルから 5 センチメートル に成長した葉になる。 葉身の全体の形は長楕円状倒卵形 葉柄には伏せていない毛(開出毛
概要
芽
葉
花花の拡大画像
花序は散房花序をしており 2 - 4 花からなる。鱗片葉は紅紫色、苞は緑色で基部は紅紫色をしている。花柄と小花柄には白色の開出毛が存在する。萼筒は長鐘形をしており、外側に毛がまばらに存在する。萼裂片は内側外側とも毛がないが縁に縁毛がある。花弁は「奈良市史 自然編」によると 22 枚から 79 枚、「新日本の桜」によると 30 枚から 36 枚とされる。花弁は楕円形で先端は二つに深く裂けたいわゆる「桜の花びら」の形をしている。花弁の色は淡い紅色である。雄しべは「奈良市史 自然編」によると 10 本から 42 本、「新日本の桜」によると 32 本から 45 本とされる。雌しべは 1 本から 4 本である。
ナラノヤエザクラはカスミザクラが重弁化した品種であるため、八重桜にしては小ぶりで清楚な花を咲かせる。花は 4 月下旬から 5 月上旬に咲き、ゴールデンウィークの頃に満開となる。 他の八重桜と違い、ナラノヤエザクラには果実がよく実る。ただし、果実は若いときに枝から落ちることが多く、残って成熟する果実は珍しい。ナラノヤエザクラの花には複数の雌しべがあるため、果実もしばしば複数個くっついた状態になっている。果実は黒く熟し、食べると苦味と酸味がある。 岡本勇治はナラノヤエザクラはケヤマザクラが重弁化したものであるとその著で指摘している。ケヤマザクラの学名はその後にいくどかの変更があり、また和名についてはケヤマザクラはヤマザクラにも毛のあるものがあるため現在ではカスミザクラが採用されている(和名には命名規約がない)。ナラノヤエザクラはカスミザクラが重弁化したものとなる。ナラノヤエザクラには果実が複数実ることがある。三好学(1922)は「Kapell(心皮)1-2」と指摘し、牧野富太郎(1926)は「ovarios often 2」としている。これ以降の一文はこれらから援用して表現されたものである。 三好学はナラノヤエザクラの学名を Prunus antiqua (antiquus = '古代の';「いにしえの桜」の意)と名づけた。しかし、ナラノヤエザクラは重弁化したものであり種や変種とするのではなく品種とするのが適当である。
果実
系統・学名