ナメクジウオ
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ナメクジウオ
ニシナメクジウオ
Branchiostoma lanceolatum (Pallas)
分類

ドメイン:真核生物 Eukaryota
:動物界 Animalia
:脊索動物門 Chordata
亜門:頭索動物亜門 Cephalochordata

学名
Branchiostoma belcheri Gray

ナメクジウオ綱 Leptocardia

頭索動物(とうさくどうぶつ Cephalochordata) は、一般にナメクジウオ(蛞蝓魚)と呼ばれる動物の1群で、脊索動物門頭索動物亜門に分類される原始的な脊索動物である。ナメクジウオと総称されることも多いが、この名はこの類における日本産の1種の標準和名としても使われてきた。脊椎動物の最も原始的な祖先に近い動物であると考えられたこともあり、生きている化石とされる。
概説

小型で、のような形態をした動物である。尾索動物と異なり、脊索を終生に渡って持ち、またそれが体の前端まで伸びていることが特徴である。神経管も先端付近まで伸びており、その体制は脊椎動物の基本的な体制と共通する。ただし頭部が分化せず、骨格軟骨を含め)が発達しない点で脊椎動物とは異なる。

全て海産で、底生で不活発な動物であり、遊泳は可能だが長く泳ぐことはほとんどない。小さな口でデトリタスプランクトンを食べていると思われる。雌雄異体で有性生殖を行い、無性生殖はしない。幼生は一時的にプランクトン生活をする。

その特徴に脊椎動物との共通点が多く、しかも無脊椎動物であることから、脊椎動物の進化を考える場合、この類は最もそれに近いものと考えられてきた。そのためその観点から多くの研究がある。ただし近年の系統研究からはむしろ尾索動物の方が脊椎動物とは近縁であるとの結果が出ている。
名称

学名はCephalo が「頭」で chordata が「脊索を持つ」を意味し、つまり「頭に脊索を持つ」という本群の特徴を述べたもの。和名はその直訳である[1]

この類の総称としても使われるナメクジウオは1876年(明治9年)に遡る。文部省から初等教育用の掛図が発行された中に、「ナメクヂウオ 蛞蝓魚」として「諸有脊椎動物中最不全ナル者」との説明があったという。ちなみにこれは日本でナメクジウオが発見されるより6年前である。更に何故ナメクジかについては、本群の最初の種が1774年に発見された際、Limax lanceolatus と、ナメクジの1種として記載されたことによる。ちなみに件の掛図にも「昔ハ柔軟類ノ蛞蝓属トセリ」と説明が付いていたという[2]

なお、ナメクジウオは日本産の種であるBranchiostoma japonicumの標準和名として長らく使われていたが、総称としてのこの名の使用が多く、紛らわしいことからヒガシナメクジウオの名が使われるようになっている。
特徴
外部形態口の部分・写真と図

基本的には左右相称の動物。身体は細長く、左右から扁平で、前後が尖った魚形をしている。表皮クチクラ化しており、半透明[3]。外部には目立った感覚器や突出部はない。最先端には以下にある光受容器が眼点の形で存在する。

背側の過半と腹側の出水口より後方の縁はひれ状にやや隆起してひれ小室と呼ばれる構造が並び、それぞれ背ひれ、腹ひれと呼ばれる。後方のひれ小室を伴わない部分は尾ひれとして区別される。

先端部の腹面にがある。腹面中程やや後方には出水孔が開き、それよりずっと後方に肛門が開く。口はその周囲に短い突起が並び、これを外触手(外鬚とも)という。これは並んで口を蓋するように配置し、摂餌の時に異物が混入するのを防ぐ意味があると考えられる。外触手の基部は触手間膜でつながっている[3]。口の後方には左右1対の稜が走り、それらは後方に伸びてその終点に出水孔がある[4]
内部構造1:脳室, 2:脊索, 3:神経索, 4:尾ひれ, 5:肛門, 6:消化管, 7:血管系, 8:出水口, 9:囲鰓腔, 10:鰓裂, 11:咽頭, 12:mouth lacuna, 13:外触手, 14:mouth gap, 15:生殖腺 (卵巣/精巣), 16:眼点, 17:神経系, 18:abdominal ply, 19:肝

頭部から尾部にかけて、棒状の組織である「脊索」をもつ。ナメクジウオ(頭索動物)は生涯にわたって「脊索」をもち続ける。脊索の背側に神経索 (下図3) をもつ。神経索の先端は脳室 (下図1) と呼ばれ、若干ふくらんでいるが、として分化しているとは見なされない。

神経索の先端には色素斑や層板細胞、ヨーゼフ細胞と呼ばれる光受容器をもつほか、神経索全体にわたってヘッセの杯状眼と呼ばれる光受容器がある。閉鎖血管系(下図7)をもつが、心臓はもたず、一部の血管が脈動することで血液を循環させている。また血液には呼吸色素がなく、無色である[3]

消化管は口に始まり、直線的に肛門に続く。咽頭は大きくて長く、側壁には多数の鰓裂があり、全体は籠状となって鰓嚢と呼ばれる。その部分の腹面の正中線沿いには内柱という構造があり、背面正中線沿いには咽上溝がある。鰓裂には基底膜が肥厚してで来た支持構造が備わっている[3]。鰓嚢より後方には肛門まで腸が続くが、その途中に分枝があり、肝盲嚢という。これは先端が閉じた細長い袋状で、囲鰓腔の中で鰓嚢の右側を前に向けて伸びる[4]

囲鰓腔は腹部の大部分を占める。前は口の後方から咽頭(鰓嚢)を包む形で後方に伸び、出水孔より後方では腸の右側に沿って伸びる[4]

体側には筋肉が並ぶが、筋肉はくの字形の体節構造を取る。その節数は種を判別するのに用いられる[4]。排出系は特殊な有管細胞で構成され、脊索下孔から出て囲鰓腔に開く。生殖腺は腹部に体節のような形で並ぶ[3]

体内に緑色蛍光タンパク質を持ち、特に頭部が明るく発光する。

なお、この群の構造には脊椎動物のものに対応するところがいくつかあり、例えば鰓嚢にある内柱は脊椎動物の甲状腺に当たるものと考えられている。ただし、これが内分泌腺として機能しているとの証拠はまだない。また下垂体に当たるとされるものにハチェック小窩がある[5]
生態

全世界の暖かい浅海に生息している。ただし1種のみ、ゲイコツナメクジウオは深海から発見されている[2]。体全体を左右にくねらせて素早く泳ぐことができるが、通常は海底の砂のなかに潜って生活している。ホヤなどと同様、水中の食物を濾過することで摂食している。

鰓裂は水中の食物を濾(こ)しとる役割も果たしている。まず内柱が粘液を分泌し、これが鰓嚢全面に広がる。鰓裂には繊毛があり、これによって口から海水が流れ込むと、そこに含まれる微小藻類などの微粒子は粘膜に吸着される。粘液はそれらを含めて腸に入り、それらの微粒子が餌となる。鰓嚢を出た海水はそれを囲む腔所である囲鰓腔に出て、その後方腹面に開く出水孔から外に出る[3]
生殖と発生

雌雄異体であり、精子を体外に放出し、体外受精を行う。無性生殖は行わない。

初期発生は両生類のそれに類似する[6]中胚葉は最初に典型的な腸体腔の形を取り、原腸の前方から数対がくびり出されて生じる。が、その後方には裂体腔の形で対を成して作られ、その後でそれらがつながって前後に伸びる1対の真体腔となる[3]幼生の前部(ニシナメクジウオ)

幼生は当初はプランクトンとして成長し、体表に繊毛があってこれにより摂食しながら成長する[3]。特に与えられた名前はないようである。幼生の体制はほぼ成体と変わらず、形はより細長い。はっきり異なるのは消化系、特に咽頭が未発達であることと、囲鰓腔がないことである。幼生の口がまず体の左側に開く。鰓裂も左側の列が腹面にまず開き、この時点では咽頭は外界に裸出している。次に右側の鰓裂を右の背面側に生じ、それから咽頭の上、両側に突出部ができて、それが伸びて咽頭を覆い、腹面で出水孔を残して癒合し、囲鰓腔が完成する。これに合わせて口が下面に移り、成体の形になる[4]
分類
上位分類

身体の中心を貫く脊索と、その上に走る神経管、それに消化管の咽頭に鰓裂を持つことなどは脊椎動物と共通する特徴であり、しかし骨格を発達させず、神経管が前端で脳を作らず、またそれを頭蓋が覆わない点で脊椎動物とは異なる。かつてはこのような脊椎動物と共通の特徴を持ちながら無脊椎であるものを原索動物として一つの動物門にまとめた。しかし現在ではこれら全てが単系統を成すものと見なし、まとめて脊索動物として扱う。

原索動物に含まれていたものとしては他にホヤやオタマボヤなどの群があり、これらは脊索が尾の部分にしか存在しないので、これを尾索動物という。


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