ナノ医療
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ナノメディシン(: nanomedicine、またはナノ医療)は、ナノテクノロジーの医学的応用である[1]。ナノメディシンは、ナノマテリアル生体デバイスの医療用途から、ナノ電子バイオセンサー、さらには将来的には生体分子機械などの分子ナノテクノロジー (英語版) の応用にまで及んでいる。現在のナノメディシンの課題は、ナノスケールの材料(構造がナノメートルのスケール、すなわち10億分の1メートルの材料)の毒性(英語版)や環境への影響を理解することにある[2][3]

ナノマテリアルには、生体分子や構造物と相互作用させることで機能を付加することができる。ナノマテリアルのサイズは、ほとんどの生物学的分子や構造体のサイズに似ているため、ナノマテリアルは、生体内(in vivo)および試験管内(in vitro)の生物医学研究および応用の両方に有用である。これまでのところ、ナノマテリアルと生物学の融合は、診断装置、造影剤、分析ツール、理学療法アプリケーション、ドラッグデリバリービークル(薬物送達担体)の開発につながっている。

ナノメディシンは、近い将来、役立つ研究ツールと臨床的に有用なデバイスの一式を提供することを目指している[4][5]。米国においては、国家ナノテクノロジー・イニシアティブで、高度なドラッグデリバリーシステム、新しい治療法、in vivoイメージングなど、製薬業界における新たな商業的応用を期待している[6]。ナノメディシン研究は、米国国立衛生研究所の共通基金プログラムから資金援助を受けて、4つのナノメディシン開発センターをサポートしている[7]

ナノメディシンの売上高は2015年に160億ドルに達し、ナノテクノロジー研究開発に毎年最低38億ドルが投資されている。新興ナノテクノロジーへの世界的な資金提供は、ここ数年で年率45%増加し、2013年の製品売上高は1兆ドルを超えた[8]。ナノメディシン産業が成長を続ける中で、経済に大きな影響を与えることが期待されている。
ドラッグデリバリー.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{display:flex;flex-direction:column}.mw-parser-output .tmulti .trow{display:flex;flex-direction:row;clear:left;flex-wrap:wrap;width:100%;box-sizing:border-box}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{margin:1px;float:left}.mw-parser-output .tmulti .theader{clear:both;font-weight:bold;text-align:center;align-self:center;background-color:transparent;width:100%}.mw-parser-output .tmulti .thumbcaption{background-color:transparent}.mw-parser-output .tmulti .text-align-left{text-align:left}.mw-parser-output .tmulti .text-align-right{text-align:right}.mw-parser-output .tmulti .text-align-center{text-align:center}@media all and (max-width:720px){.mw-parser-output .tmulti .thumbinner{width:100%!important;box-sizing:border-box;max-width:none!important;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow{justify-content:center}.mw-parser-output .tmulti .tsingle{float:none!important;max-width:100%!important;box-sizing:border-box;align-items:center}.mw-parser-output .tmulti .trow>.thumbcaption{text-align:center}}ナノ粒子(上)、リポソーム(中央)、デンドリマー(下)は、ナノメディシンで使用するために研究されているナノマテリアルである。

ナノテクノロジーは、ナノ粒子を用いて特定の細胞に薬物を送達する可能性を提供してきた[9][10]。活性薬物を、病的領域のみに、必要以上に高用量で投与せずに沈着させることで、全体的な薬物消費量や副作用を大幅に低下することができる。標的化ドラッグデリバリーは、薬物の副作用を減少させ、それに伴って消費量および治療費を減少させることを目的としている。ドラッグデリバリー(薬物送達)は、体内の特定の場所と一定期間の両方でバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)を最大化することに焦点を当てている。これは、ナノエンジニアリングデバイスによる分子標的化によって達成される可能性がある[11][12]。医療技術にナノスケールのデバイスを使用する利点は、より小型のデバイスは侵襲性が低く、体内に埋め込むことができ、生化学的な反応時間がはるかに短いことである。これらのデバイスは、一般的なドラッグデリバリーよりも高速かつ高感度である[13]。ナノメディシンによるドラッグデリバリーの有効性は主に、a)薬物の効率的なカプセル化、b)体内の標的部位へ薬物の送達を達成、c)薬物の放出の成功次の点に基づいている[14]

ドラッグデリバリーシステムである脂質[15]またはポリマーベースのナノ粒子は、薬物の薬物動態および生体内分布(英語版)を改善するように設計することができる[16][17][18]。ただし、ナノメディシンの薬物動態および薬力学は、患者によって大きく異なる[19]。ナノ粒子は、体の防御機構を回避するように設計されている場合[20]、ドラッグデリバリーを改善するために用いられる有益な特性を備えている。細胞膜を通過して細胞の細胞質に薬物を取り込む能力など、複雑なドラッグデリバリー機構が開発されている。トリガー反応は、薬物分子をより効率的に使用するための1つの方法である。薬物は体内に置かれ、特定のシグナル(信号)に遭遇したときにのみ活性化する。例えば、溶解性の低い薬物は、親水性と疎水性の両方の環境が存在するドラッグデリバリーシステムに置き換えられて、溶解性が向上する[21]。ドラッグデリバリーシステムはまた、制御された薬物放出を介して組織の損傷を防止することができ、薬物クリアランス率を低減、または分布量を低下させ、非標的組織への影響を低減できる。しかしながら、これらのナノ粒子の生体内分布は、ナノサイズおよびマイクロサイズの材料に対する宿主の反応が複雑で、体内の特定の器官を標的とすることが困難であるため、依然として不完全である。それにもかかわらず、ナノ粒子システムの可能性と限界を最適化し、よりよく理解するために多くの研究が進行中である。研究の進歩により、ナノ粒子によって標的化および分布の増強が可能であることが証明される一方で、ナノ毒性の危険性は、その医療用途をさらに理解する上で重要な次のステップとなる[22]。ナノ粒子の毒性は、サイズ、形状、および材料によって異なる。これらの要因はまた、発生する可能性のある蓄積や臓器の損傷に影響を及ぼす。ナノ粒子は長持ちするように作られているが、分解や排泄ができないため、臓器、具体的には肝臓や脾臓に捕捉されてしまう。このような非生分解性物質の蓄積は、マウスで臓器障害や炎症を引き起こすことが観察されている[23]。ナノ粒子には、抗生物質耐性を低減させる可能性や、さまざまな抗菌薬としての利用が期待され、研究が進められている[24][25][26]。また、ナノ粒子は、多剤耐性(MDR)機構を回避するために用いらる可能性がある[9]
研究中のシステム

脂質ナノテクノロジーの進歩は、医療用ナノデバイスや新規ドラッグデリバリーシステムのエンジニアリング、およびセンシングアプリケーションの開発に大きく貢献した[27]。予備研究中のもう一つのマイクロRNAデリバリーシステムは、2つの異なるマイクロRNAの自己組織化によって形成されたナノ粒子による癌(がん)の抑制である[28]。可能性のあるもう1つの応用は、癌治療のための薬物やセンサーを積極的に放出するために研究されているナノ電気機械システム(鉄ナノ粒子や金シェルを用いる)のような、小型の電気機械系システムに基づくものである[29]
応用

市販されている、またはヒト臨床試験中のナノテクノロジーベースの薬剤には、以下のようなものがある。

アルブミン結合パクリタキセル
(英語版)(販売名 アブラキサン) - 乳がん[30]、非小細胞肺がん(NSCLC)[31]、および膵臓がん[32]の治療のために米国食品医薬品局(FDA)によって承認されている。ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセルである。

ドキソルビシン(販売名 ドキシル) - もともと、HIV関連のカポジ肉腫への使用がFDAで承認されていた。現在では、卵巣がんや多発性骨髄腫の治療にも使用されている。この薬はリポソームに包まれており、投与されている薬の寿命を延ばすのに役立っている。リポソームは、自己組織化した球状の閉じたコロイド構造であり、水性空間を取り囲む脂質二重膜で構成されている。リポソームはまた、機能性を高めるのに役立ち、特に薬剤が心筋に与える損傷を減少させるのに役立つ[33]

イリノテカン - 転移性膵臓がんを治療するためのイリノテカンをリポソームでカプセル化したオニビデ (英語版) は、2015年10月にFDAから承認された[34]


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