ナトリウムチャネル
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ナトリウムチャネル(: sodium channel)はイオンチャネルを形成する膜タンパク質で、ナトリウムイオン(Na+)の細胞膜の透過を担う[1][2]。カチオンチャネルスーパーファミリー(英語版)に属する。チャネルを開くトリガーの種類によって、電位依存性チャネル(voltage-gated、膜電位の変化によって開く)とリガンド依存性チャネル(ligand-gated、物質の結合によって開く)に分類される。

神経細胞筋細胞、特定のグリア細胞などの興奮性細胞では、ナトリウムチャネルは活動電位の上昇相(rising phase)を担う。これらのチャネルには静止(resting)、活性(active)、不活性(inactive)の3つの状態が存在する。静止状態と不活性状態のチャネルはともにイオンを通過させないが、これらの状態のコンフォメーションには差異が存在する。
電位依存性ナトリウムチャネル
構造電位依存性ナトリウムチャネルのαサブユニットの模式図。G: グリコシル化部位、P: リン酸化部位、S: イオン選択性を担う部位、I: 不活性化を担う部位。膜貫通セグメント4の正電荷(+)は膜電位の検知に重要である[3]

ナトリウムチャネルは大きなαサブユニットと、そこに結合するサブユニット(βサブユニットなど)から構成される。αサブユニットはチャネルのコアを形成し、それ単独でも機能を有する。つまり、細胞でαサブユニットが発現されたときには、βサブユニットや他の調節タンパク質が発現していなくとも、電位依存的なNa+透過を行うチャネルを形成することができる。補助タンパク質が組み込まれた場合には、形成された複合体はαサブユニット単独のものとは異なる電位依存性や細胞内局在を示す。

αサブユニットはIからIVの4つのリピートドメインを持ち、そのそれぞれがS1からS6という膜貫通セグメントを持っている。高度に保存されたS4セグメントはチャネルの電位センサーとして機能する。このチャネルによる電位の検知は、2つおきに位置する正に帯電したアミノ酸によって行われている[4]。膜電位の変化によって刺激されると、このセグメントは細胞膜の細胞外側へ向かって移動し、イオンはチャネルを透過できるようになる。イオンが通過するポアは2つの領域に分けられる。ポアの細胞外側の部分は、各ドメインのS5とS6の間の「Pループ」によって形成される。この領域がポアの最も狭い部分を構成しており、イオンの選択性を担う。ポアの細胞質側の部分は4つのドメインのS5とS6セグメントの組み合わせによって形成される。ドメインIIIとIVをつなぐ領域もチャネルの機能に重要である。この領域は持続的な活性化の後にチャネルに栓をすることで、チャネルの不活性化を行う。
開口

電位依存性ナトリウムチャネルのコンフォメーションには、閉じた状態(closed)、開いた状態(open)、不活性状態(inactivated)という3つの主要な状態が存在する。閉じた状態から開いた状態への移行は活性化(activation)、その逆は脱活性化(deactivation)、開いた状態から不活性状態への移行は不活性化(inactivation)、その逆は再活性化(reactivation)、不活性状態から閉じた状態への移行は不活性状態からの回復または脱不活性化(recovery from inactivation/deinactivation)、その逆は閉鎖状態不活性化(closed-state inactivation)と呼ばれる。閉じた状態と不活性状態のチャネルはイオンを透過させない。

活動電位が発生する前の軸索膜は静止膜電位の状態にあり、ナトリウムチャネルは閉じた状態で、ポアの細胞外側は活性化ゲート(activation gate)によってブロックされている。ヒトの神経細胞では、膜電位が-55 mV程度まで上昇すると活性化ゲートが開き、Na+がチャネルを通って神経細胞内に流入し、膜電位のさらなる上昇が引き起こされる。膜電位は静止状態の負の値からゼロを超えて上昇し(静止電位の-70 mVから最大で+30 mVまで)、このことは脱分極と呼ばれる。この電位上昇が、活動電位の上昇相を構成する。

十分な量のNa+が神経細胞に進入し膜電位が十分に高くなると、ナトリウムチャネルは不活性化ゲート(inactivation gate)を閉じることで自身を不活性化する。不活性化ゲートは、αサブユニットのドメインIIIとIVをつなぐ細胞内の領域が「プラグ」のように機能することで開閉が行われていると考えられている。不活性化ゲートが閉じるとNa+の流れが止まり、膜電位の上昇は止まってチャネルは不活性化状態となる。ナトリウムチャネルが膜電位に寄与しなくなるため、膜電位は静止電位へ向かって低下し、神経細胞は再分極し、その後過分極状態となる。この電位低下は活動電位の下降相(falling phase)を構成する。

膜電位が十分低くなると、不活性化ゲートが再び開き、活性化ゲートは閉じる。この過程は脱不活性化と呼ばれ、再びチャネルが活動電位の生成過程に加わる準備が整う。

自身の不活性化が行われないイオンチャネルでは、持続的な活性化状態(persistently activeまたはtonically activeと呼ばれる)となる。一部のイオンチャネルは元来このような持続的活性化を行う性質を有するが、遺伝的変異によってそれ以外のチャネルで持続的活性化が起こるようになると、特定種の神経細胞での過剰な活性化が引き起こされ、疾患の原因となる。ナトリウムチャネルの不活性化を妨げるような変異は、window current(窓電流、ウィンドウ電流)による筋肉や神経細胞の過剰な活性化を引き起こし、心血管疾患てんかん発作に寄与する。
ゲートのモデリング

ナトリウムチャネルの一過的振る舞いはマルコフ過程またはホジキン-ハクスリーモデル(英語版)によってモデリングを行うことができる。前者では個々のチャネルは異なる状態を占め、状態間の移行は微分方程式で記述される。後者では、チャネルは複数の独立したゲート変数の影響を受ける集団として扱われる。各変数は0(完全にイオンを透過させない状態)から1(完全にイオンを透過させる状態)までの値を取り、変数の積によって伝導性を有するチャネルの割合が得られる[5]
他のイオンの透過性

ナトリウムチャネルのポアには負に帯電したアミノ酸残基からなる選択性フィルターが存在し、これらの残基は正に帯電したNa+イオンを引き寄せるとともに、Cl-イオンなどの負に帯電したイオンを排除する。その後、カチオンはポアのさらに径が小さい領域へと流れ込む。径が最も小さい領域では、ポアは0.3から0.5 nmで、水分子を伴った1つのNa+イオンがちょうど通過できるだけの幅である。より大きなサイズであるK+イオンはこの領域を通過することができない。またサイズが異なるイオンは、ポアに並んだ負に帯電したグルタミン酸残基との間でNa+イオンと同様の相互作用を形成することもできず、透過は起こらない[要出典]。
多様性

電位依存性ナトリウムチャネルは、通常イオン透過性ポアを形成するαサブユニットに、チャネルのゲート機能の調節などいくつかの機能を持つβサブユニットが1つか2つ結合した構成をしている[6]
αサブユニット図1. 既知のヒトのナトリウムチャネル9つの進化的関係

ナトリウムチャネルファミリーには既知のメンバーが9つ存在し、膜貫通領域と細胞外ループ領域のアミノ酸同一性は50%以上である。ナトリウムチャネルの標準的命名法はIUPHAR(英語版)によって定められ、管理されている[7][8]

これらのチャネルタンパク質は、Nav1.1からNav1.9と名付けられている。遺伝子名はSCN1AからSCN11A(SCN6A/7A遺伝子は機能未知のNaxサブファミリーメンバー)である。アミノ酸の類似性に基づくチャネル間の進化的関係が図1に示されている。ナトリウムチャネルは配列の差異だけでなく、速度論や発現プロファイルに基づいて分類することもできる。そのデータの一部は下の表1にまとめられている。

表1. 電位依存性ナトリウムチャネルαサブユニットの命名とその機能の一部タンパク質遺伝子発現プロファイル関連するヒトのチャネロパチー
Nav1.1(英語版)SCN1A中枢神経細胞、(末梢神経細胞)、心筋細胞発熱性てんかん、全般てんかん熱性けいれんプラス(英語版)(GEFS+)、ドラベ症候群(乳児重症ミオクロニーてんかん(SMEI))、境界型SMEI(SMEB)、ウエスト症候群、ドーゼ症候群(英語版)(ミオクロニー脱力発作を伴うてんかん)、intractable childhood epilepsy with generalized tonic-clonic seizures(ICEGTC)、Panayiotopoulos症候群(英語版)、家族性片麻痺性片頭痛(英語版)、家族性自閉症

ラスムッセン脳炎(英語版)、レノックス・ガストー症候群[9]
Nav1.2(英語版)SCN2A中枢神経細胞、末梢神経細胞家族性熱性痙攣、てんかん、自閉症スペクトラム障害
Nav1.3(英語版)SCN3A中枢神経細胞、末梢神経細胞、心筋細胞てんかん、痛覚[10]
Nav1.4(英語版)SCN4A骨格筋高カリウム性周期性四肢麻痺先天性パラミオトニア、カリウム惹起性ミオトニー(英語版)
Nav1.5(英語版)SCN5A心筋細胞、神経支配されていない骨格筋、胃腸の平滑筋、カハール介在細胞(英語版)心臓: QT延長症候群3型、ブルガダ症候群、進行性心臓伝導障害、家族性心房細動、特発性心室細動[11]

胃腸: 過敏性腸症候群[12]
Nav1.6(英語版)SCN8A中枢神経細胞、後根神経節、末梢神経細胞、心臓、グリア細胞てんかん


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