ドラキュラ伯爵
[Wikipedia|▼Menu]
.mw-parser-output .hatnote{margin:0.5em 0;padding:3px 2em;background-color:transparent;border-bottom:1px solid #a2a9b1;font-size:90%}

この項目では、ブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』の登場人物について説明しています。テレビドラマについては「ドラキュラ伯爵 (テレビドラマ)」をご覧ください。

ドラキュラ伯爵
Count Dracula
吸血鬼ドラキュラ』 (1897年)のキャラクター
1931年公開の映画『魔人ドラキュラ』でドラキュラを演じるベラ・ルゴシ
作者ブラム・ストーカー
演「演じた人物」を参照
詳細情報
種族吸血鬼
性別男性
肩書き貴族
テンプレートを表示

ドラキュラ伯爵(ドラキュラはくしゃく、英:Count Dracula)は、ブラム・ストーカーによるイギリスの小説『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)に登場する悪役吸血鬼アンデッド)。表向きはルーマニアトランシルヴァニア地方に住む由緒ある貴族だが、実は若い美女の生き血を好む吸血鬼であり、物語の進展に伴ってイギリスに渡り、災いを招く。その後のフィクション作品に多大な影響を与え、フィクションにおける吸血鬼の設定を確立したとみなされている。ドラキュラはあくまで吸血鬼(ヴァンパイア)の中の一キャラクターの固有名詞であるが、日本ではしばしば吸血鬼それ自体を指す言葉としても用いられる。

ドラキュラ伯爵のモデルとしては15世紀のワラキア公国の君主ヴラド・ツェペシュ(ヴラド3世)だと一般に信じられている。しかし、原作中にはヴラド3世の名前は登場しない。ストーカーの執筆メモにもその名前はなく、ドラキュラの名前を採用しただけという説も出されている。

ドラキュラ伯爵の吸血鬼としての設定はそれまでのフィクションや伝承上の吸血鬼の設定をまとめたものであり、特に人間を噛んで同族の吸血鬼に変える能力が知られる。後の映画などの翻案作品や、ドラキュラがモチーフの作品などによって追加された、あるいは変化した設定も多く、その中には日光が致命的な弱点とされるなど、今日には標準設定とみなされているものもある。
来歴

原作であるブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』では、ドラキュラ伯爵の特徴や身体能力、特殊能力、弱点を複数の語り手が、異なる視点から語る形式をとっている[1]

ドラキュラ伯爵は何世紀も前から生き続けてきた不死の怪物(アンデッド)である吸血鬼である。表向きはトランシルヴァニアに領地を持つ貴族(ボヤール)であり、先祖がフン族アッティラとされるセーケイ人とする[2]。第3章でドラキュラ伯爵自身が語るところによれば、ドラキュラ一族は戦乱の世においてその勇猛果敢さで故郷を守り、周囲の侵略者たち(特にオスマン帝国)を怯えさせてきた者たちであったという。ヨーロッパ側が敗北に終わるコソボの戦い(1389年)ではドラキュラ一族の者が一矢報いる功績を立て、またモハーチの戦い(1526年)ではハンガリーから独立を果たせたのもドラキュラ一族の功績であると語る[3]。第18章で語られるヴァン・ヘルシングの調査結果によれば、ドラキュラ伯爵の正体は、かつてオスマン帝国との国境であったドナウ川での戦いで勇名を馳せたドラキュラ将軍(ヴォイヴォド・ドラキュラ、Voivode Dracula)その人である。このドラキュラ将軍はトランシルヴァニアにおいて最も勇敢かつ聡明で抜け目がない人物として当時や、また数世紀経った今でも評されてきた人物とされている。また、ドラキュラ一族はヘルマンシュタット湖[注釈 1]を見下ろす山中にあるとされる悪魔学校「ショロマンツァ」において、秘術を学んできたとする[4]
前日譚『ドラキュラの客』短編集『 ドラキュラの客』(1914年)の表紙詳細は「ドラキュラの客」を参照

短編『ドラキュラの客』は、ある人物と会うためトランシルヴァニアに向かう予定の若いイギリス人旅行客を語り手とする物語である[注釈 2]。彼はドイツミュンヘン近郊を馬車で移動していた折、御者の警告を無視して「ワルプルギスの夜」に一人で街道から外れた横道を進み、彷徨うことになる。

青年は、謎の長身痩躯の男の影や不意の吹雪などに見舞われながらも先へと進み、最終的に古い墓地にたどり着く。そこで青年はドリンゲン伯爵夫人と彫られた大理石の一際立派な大きな墓を見つける。その墓は何故か大きな鉄杭が突き刺さっていた。今度は雹の嵐に襲われた青年は避難のため、墓の内部へと入るが、そこでまるで眠っているかのような美しい女性の遺体と対面する。その瞬間、謎の怪力によって青年は墓の外へと放り出される。同時に、大理石に刺さった鉄杭に雷が落ちて墓は崩壊し、炎に包まれた女性の遺体は実は生きていたように苦悶の表情と悲鳴を上げ滅びる。しかし、危機は終わっておらず、再び謎の力に引きずられ意識を失った後、目が覚めると大きなオオカミに伸し掛かられ、首筋を舐められている。しかし、オオカミはそれだけで青年を襲うことはなく、やがて助けが現れ、オオカミは彼を守っていただけだとわかる。

青年がホテルに戻ってくると、ホテルマンよりトランシルヴァニアで待つ相手より電報が届いていると連絡を受ける。それは雪とオオカミと夜の危険を警告するドラキュラ伯爵からのものであった。
本編詳細は「吸血鬼ドラキュラ」を参照

ドラキュラ伯爵はイギリス・ロンドンへの移住を考え、新人弁護士のジョナサン・ハーカーをイギリスからトランシルヴァニアの居城へと招く。ドラキュラは持ち前の博識さなどでジョナサンを魅了して信頼を得、また、城内に住む女吸血鬼からも彼を助ける。その目的はなるべく彼を生かし、不動産取引の法的妥結と、今のイギリスの情報を引き出すためである。準備が整うと、彼は城を出発し、回復と日中の静養に必要な故郷の土を詰めた木箱50箱と共にロシア船デメテル号に乗船する。船内では夜な夜な船員に襲いかかり、最終的に船はイギリスに到着するも乗員は全滅する。また、その遺体は舵に身体を巻き付けた船長のもののみが残る。

船を降りたドラキュラはジョナサンと契約した邸宅に住むようになり、また、同時に吸血鬼を信奉する人間レンフィールドを操作する。そしてドラキュラは2人の若い女性、ジョナサンの婚約者ミナと、その友人ルーシー・ウェステンラに目をつける。ドラキュラは毎夜ルーシーの部屋に忍び込んでは少しずつ彼女の生き血を吸い続け、彼女を弱らせていく。ルーシーの婚約者であるアーサーは、親友のセワードやモリスと共に病気の原因を調べ始め、やがてセワードは恩師の老学者エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授を頼る。博識なヘルシングはこれがすぐに吸血鬼の仕業だと見抜き、ニンニクを使って吸血鬼を遠ざける策を授けるが、不幸が重なってドラキュラはこれを破り、ルーシーを死に至らしめると吸血鬼化させる(この時点でヘルシングらにドラキュラ伯爵のことは知られていない)。

ドラキュラはデ・ヴィル伯爵といった偽名を用いてロンドン市内に複数の不動産を購入し、そこに持ち込んだ故郷の土を隠すことで、自身の安全なねぐらを増やしていく。一方、城に軟禁状態にあったジョナサンはそこから脱出し、苦難の末にイギリスに帰り着く。ジョナサンの日記はミナを経由してヘルシングに届き、ここで彼らはドラキュラの手掛かりを得る。ここから新聞記事の切り抜きなどで吸血鬼が起こしたと思われる事件の情報が集められていき、あるいはヘルシングの友人アルミニウスの調査より、ドラキュラの正体がかつてトルコ人との戦いで有名を馳せたドラキュラ将軍(ヴォイヴォド・ドラキュラ)だと推定される。ヘルシングらは、ドラキュラの各拠点を見つけ出しては、持ち運ばれた土を浄化することでドラキュラの逃げられる場所を潰していく。

こうしたヘルシングらの動きに対してドラキュラは報復としてミナに狙いを定め、レンフィールドを操作して最終的に彼女を襲うことに成功する。これは単純に吸血だけではなく、自らの血も相手に飲ませる「吸血鬼の血の洗礼」を行って彼女に吸血鬼化の呪いをかける。少なくとも3回目の襲撃での吸血の最中にヘルシングに踏み込まれ、黒い霧に姿を変えての逃亡を余儀なくされる。ミナは吸血鬼化が徐々に進み始めるが、逆にそれによってテレパシーでドラキュラと繋がるようになり、彼の居場所が朧気ながらもわかるようになる。ドラキュラは追い詰められ、トランシルヴァニアへ逃亡する。

ヘルシングら一行もドラキュラを追いかけてトランシルヴァニアに向かう。ドラキュラはジプシーらによって居城へ運び込まれる直前で、ジョナサンらの襲撃を受ける。この時、ドラキュラは夕刻前で身動きが取れない吸血鬼の眠りの最中であり、ジプシー達が迎え撃とうとする。結局最後は、箱の中で身動きがとれない状態のまま、ジョナサンによって首をククリ刀で斬られ、同時にモリスによってその心臓にボウイナイフを突き立てられ討伐される[注釈 3]。また、その遺体は塵になって消える。
人物伯爵の顔は精悍な荒鷲のような顔であった。肉の薄い鼻が反り橋のようにこんもり高くつき出て、左右の小鼻が異様にいかり、額はグッと張り出し、髪の毛は横鬢のあたりがわずかに薄いだけで、あとはふさふさしている。太い眉がくっつきそうに鼻の上に迫り、モジャモジャした口ひげの下の「へ」の字に結んだ、すこし意地の悪そうな口元には、異様に尖った白い犬歯がむきだし、唇は年齢にしては精気がありすぎるくらい、毒々しいほど赤い色をしている。そのくせ耳には血のけが薄く、その先がいやにキュッと尖っている。顎はいかつく角ばり、頬は肉こそ落ちているが、見るからにガッチリとして、顔色は総体にばかに青白い。“”『吸血鬼ドラキュラ』第二章(平井呈一訳)[5]

ドラキュラ伯爵は物語の進展によって序盤は老人、中盤以降は壮年と外見年齢が変わるため、その容姿は一様ではないが、基本的には体型は長身痩躯で、目が赤く、尖った犬歯(牙)を持ち、肌に血の気はないが唇は赤く若々しいことは共通して言及される。また、その服装は黒を基調としているのも同じである。聡明な人物であり、事前に書物で勉強したとしてイギリスのことにも詳しく、流暢な英語を話すことができる[6]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:65 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef