ドライアイス
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ドライアイス。常温常圧下では昇華して直接気体の二酸化炭素になる。二酸化炭素の固体の分子構造模式図ドライアイスは、に入れると大量の白煙を発生する。取り扱いが容易なペレット状のドライアイス。

ドライアイス (: dry ice) は、固体二酸化炭素 (CO2) の商品名である。生鮮食品の冷温保管・輸送などに用いられる。固形炭酸、固体炭酸とも言う。
物理的性質

ドライアイスは
常圧環境下では液体とならず、直接気体昇華する。

比重: 1.56

昇華温度: -78.5 ℃(1気圧において)[1]

昇華潜熱: 573 kJ/kg (137 kcal/kg)(1気圧において)[1]

冷却能力は約630 kJ/kg[注 1][注 2]。同重量で氷の約2倍[3][注 3]、同容積の氷の約3.3倍[3]の冷却能力がある。

ドライアイスを空気中に置くと、空気中の水分が凍り、白煙が発生する。

種類

商品としては形状から次に分けられる[4]

スノー - 粉末状

ペレット - 小粒

ブロック - 塊

表面積の大きな粉末状のものほど冷却能が高いが持ちは悪くなる。したがって輸送時等昇華しては困る場合はブロック状の大きな塊のまま扱うほうが、溶けにくく長時間にわたって利用することが可能であるが、使用する際にはハンマーなどで小さく割って利用する必要がある。スノー・ペレットなどは、ブロックに比べて短時間ではあるが、より急速に冷やすことが可能である。
製造方法と日本での需給

ドライアイスは以下のような工程で製造される[5][6][7]
製油所の石油精製過程、アンモニア (NH3)の製造過程、ビール工場等の発酵過程などで出る、副産物としての気体の二酸化炭素(炭酸ガス)を用意し、洗浄塔で精製する。

精製された気体の二酸化炭素を、加圧圧縮した後に冷却して液化させる。

液化した二酸化炭素を大気圧下にて断熱膨張させる。急速に大気圧力にすることで気化熱が奪われ、残った液体の二酸化炭素は凝固し粉末状(いわゆるパウダースノー状態)になる。これがドライアイスである。

ブロック状またはペレット状で市販されるドライアイスの塊にするためには液体の二酸化炭素に成形性向上のため少量の (H2O) を添加[5][8]し、プレス機の断熱チャンバー内に放出してできたドライアイスを圧縮・成形し(必要があれば切断も)、所望の形状とする。

日本でドライアイスを製造する企業8社は1979年以降、業界団体「ドライアイスメーカー会」(任意団体)を組織している[9]エア・ウォーター炭酸日本液炭レゾナック・ガスプロダクツなどが大手である。

近年、日本では製油所や化学工場の閉鎖によって副産される二酸化炭素の量が減り、ドライアイスの生産量が減少しているため、供給不足となっている。2013年には不足分1万トン以上が大韓民国から輸入された[10]

ドライアイスの国内需要は年35万トン前後で、うち2万6000トン前後を輸入している。夏季(6月末〜旧盆)の需要が特に多く「45日ビジネス」とも言われる。電子商取引インターネット通販)での生鮮食品の輸送量が増えるとともに、ドライアイスの消費量も増加傾向にある[11]
歴史ティロリエの液化二酸化炭素装置。

最初にドライアイスを観察したのは、1835年フランスのアドリアン-ジャン-ピエール・ティロリエ(英語版): (1790?1844) が行った実験で、自ら作成した装置で作った液化二酸化炭素を入れた容器を開けると、急速に気化して固体が残る現象が確認された。

1895年にはイギリスの化学者エルワシー (Elworthy) とヘンダーソン (Henderson) が炭酸ガス固化法の特許を取得し、冷凍用途での使用を提唱した[12]

1924年にアメリカ合衆国のトーマス・ベントン・スレート(英語版)は販売のために特許を申請。翌1925年に設立されたドライアイス・コーポレーションにより固形化した二酸化炭素を "Dry ice" と名付け、最初の商業生産者となった。なお "Dry ice" は同社の登録商標だったが、後に一般名詞化して "dry ice" と呼ばれている。なおイギリスのエア・リキードUK社 (Air Liquide UK Ltd.) は "Cardice" の名で商標登録を行った。
主な用途タイヤの金型にドライアイス洗浄を行っている様子。
食品の保冷剤
温度がよりも低く、昇華して気体となるため、液化による濡れ等が生じない。このため扱いが比較的容易であり、冷凍食品アイスクリームケーキ等の氷点下での保存が必要な食品を自然解凍から守る保冷剤として使われる。スーパーマーケットの食品売場等でディスペンサーにて消費者へ販売されるドライアイスは、都度、液化炭酸ガスを断熱箱に吹き出させて作られたドライアイスである。
舞台のスモーク効果
水中に入れることで、強い毒性や悪臭がない白煙を大量に発生させることができる。舞台などでの特殊効果では湯にドライアイスを投入した白煙がよく用いられる。この白煙はよく二酸化炭素が気体になったものと誤解されがちだが、白煙は二酸化炭素ではない。ドライアイスを水などの液体中に入れた場合での白煙の正体は空気中の水分だという説や、ドライアイスに触れた液体が微小な固体粉末になったものという説などのいくつかの説があるが、詳しくは判明していない[13]。東大寺学園中・高等学校の松川利行は、ドライアイスから気化したばかりの低温の二酸化炭素を水に通じたり、ドライアイスを水以外の液体に投入する実験を行い、酢酸ベンゼンなど、二酸化炭素の昇華点よりも融点が高く、粘性が十分小さい液体中に入れたときも白煙は発生する[14][15]ことを発見した。この実験結果より松川は白煙の正体を溶媒の微粉末固体(水に投入した場合は氷の微粒子)だと推定している[14][15]
遺体の保存
人間動物遺体保存にも使われる。葬儀の際はエンバーミング処理よりもはるかに手軽でかつ、極めて安価に遺体を保存できるメリットがあり、通夜の際、遺体を安置する寝具の掛け布団の下に入れるだけで済む。また納棺の際、遺体と一緒にしたまま入れることができ火葬しても二酸化炭素しか出さないことから、根強い需要がある。
人工降雨・降雪技術
水資源の安定確保・枯渇対策を目的とした、人工降雨・降雪技術の確立のための研究も行われている[16]
自動車の洗浄・エンジン冷却
フレーク状のドライアイスをコンプレッサーの圧縮空気を用いて対象物に吹き付ける「ドライアイス洗浄」が、有機溶媒などと比べて環境に良いとされ、自動車産業を中心に多く利用されてきている。また、F1など競技車両では走行直後の駐停車の際に、シリンダー形状のドライアイスを専用の筒に入れ送風機を組み合わせて強制的なエンジン冷却に利用されている。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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