ドゴン族の神話
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ドゴン族の神話(ドゴンぞくのしんわ)ではマリ共和国ドゴン族に伝わる神話を解説する。

ドゴン族はニジェール川流域のバンディアガラの断崖において農耕を営む。その独自の文化、社会制度、木工彫刻には神話の存在が強い影響を与えている[1]
神話の性質
ドゴン族の社会

ドゴン族

ドゴン族の少女

祭りの装束

バンディアガラ断崖

ドゴン族の彫像

ドゴン族は共通の祖先と持つとされる「大家族」が最小の集団の単位となっている。その大家族は最年長の男が長となる。ただし、長であっても家長権ほどの強大な権力はなく、集団の代表者で、大家族の運営も他の長老との合議でなされる。そして、祖先を祀る神話の領域では絶対的な上位者となる。特に大地の祭祀としての役割は、他の民族やイスラム教徒に追いやられてバンディアガラに逃げ込んだドゴン族にとって、この痩せた土地に恵みをもたらす長は必要不可欠のもとされた[2]。これら大家族が集まり、ドゴン族の村を形成される。村の上位のコミュニティとしては、村が集合した「地方」が5つほど存在するが、それより上位の一つにまとまった「国」に当たる存在はドゴン族には存在しない[2]。その各地方はそれぞれホゴンと呼ばれる宗教上の長に指導され、その権威は神話上の祖先から受け継ぐ父系血縁に裏付けられている。

ドゴンの社会

ホゴンの住居

ホゴンの老人

伝統的なマスク

一般的な村の外観

神話の多様性

ドゴン族の神話が外部に紹介されるようになったのは20世紀に入ってからであり、フランスのマルセル・グリオールらの研究者が『水の神 - ドゴン族の神話的世界(1948年)』を始めとするその研究の成果を発表した。ドイツの民族学者イエンゼン(英語版)は、農耕民族には天上から穀物を運びだして農業を始めた神話が多いことに着目し、特にドゴン族の神話はそれを代表するものとして発表した[3]。だが、彼らの採集した神話もドゴン族に伝わる神話をすべて網羅したわけではなく、グリオール自身も「20年間の研究をもってしても、ドゴンの神話の広がりをまとめあげることができなかった」と言葉を残している[4]。採集を進められた現在に至っても、異なる内容の神話が発見されている。その背景にはドゴン族固有の「地方」と「父系血縁集団」が影響している[2]。ドゴン族の神話は口述で伝えられているが、長以外に神話の全てが伝えられることはなく、また血縁集団ごとに伝えられる神話も異なる。さらに宗教結社への所属の有無、各世代、営む職業によっても伝えられる内容は分けられる上、ドゴン族は大家族ごとに分散する性質を持つので暮らす地域によっても内容は異なる[2]
神話の共通内容

以上のように千差万別のドゴン神話だが、神話の断片から人類学者はある程度の共通項目を見い出している[5]。ほとんどのドゴンの族の神話には以下の要素が入る。

創造神アンマによる宇宙の創世

最初の意思持つ存在ユルグによる反逆

ユルグと自らを生み出した大地との交わり

その近親相姦により穢れた大地

アンマによる4組8人の人間の創造

天上から8種類の穀物をもって、地上に下りる人間たち

人間が穀物を育てることで浄化されていく大地

特に現在のドゴン族の骨格をなす四組の父系血縁集団は神話に必ず登場し、その血筋を引くそれぞれの集団の宗教的権威を高めている[6]。次項では実際の神話で主だった部分を、参考文献に従い紹介する。
創世神話
天地創造

はじまりの世界には宇宙すらなく、天の創造神アンマのみが存在していた[6]。アンマは言葉から宇宙を生み[7] [8]、次に2つの白熱する壺を創ると、赤い銅の螺旋を巻きつけて太陽とし、より小さな壺には真鍮を巻きつけて月とした。天に掲げられた太陽は一部が砕け、その破片は星となった[9]。空を満たしたアンマは、次に粘土から女の姿をした大地を創り上げると、それを妻とした。大地は生殖器としての蟻塚と、陰核としての白蟻の巣を身に宿していた。アンマは大地と交わり創世を続けようとしたが、その時、白蟻の巣がアンマを拒み交わりは困難となった。そのため、アンマは白蟻の巣を切り落とした[6]。だが、この時になされた不完全な交わりはユルグを生む。ユルグは金狼の姿をした子で、男の魂しかもたない単性の存在だった。アンマは次に大地に雨を降らせて双子の精霊ノンモを生み出した。ノンモは自らを生み出した神の種子、すなわち水でできた存在で、緑色の毛をまとい、植物の未来を予言した。ノンモは母である大地に繊維を織った衣を着せた。だが、先に生まれた子、双子ではなく両性でもない孤独なユルグは妻を求め、その衣を剥がして母と交わってしまう。この近親相姦により、大地には月経の血が流れ、不浄な存在となり地上から秩序が失われた[10]。ユルグは交わりによって言葉を得て、「夜、乾燥、不毛、無秩序、死」の領域を支配する存在[11]となり、母との間に生まれたイエバン、その子アンドゥンブルと共に藪に潜むジャッカルとなった。一方、ノンモは「昼、湿気、豊穣、秩序、生」の領域を支配する水と言葉の存在[11]となり、アンマに代わって天地の管理を行うようになる[10]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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