トーマの心臓
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『トーマの心臓』のロゴ

『トーマの心臓』(トーマのしんぞう)は、萩尾望都による日本漫画作品。漫画雑誌『週刊少女コミック1974年19号から52号に連載された。

ドイツギムナジウム(高等中学)を舞台に、人間の愛という普遍的かつ宗教的なテーマを描いた作品[注釈 1][注釈 2]

舞台映画化されており、2009年には萩尾望都のファンであることを公言している小説家森博嗣によりノベライズされた。
概要

本作は、フランス映画『悲しみの天使』をモチーフとして描いた作品である[2][注釈 3]。ギムナジウムを舞台にした理由について、萩尾はヘッセを読んで以来、ドイツという国にあこがれていましたので……」と語っている[2]

本作のテーマについて、萩尾は「中学生のころ、ひたすら『いいひと』になりたかった。それをテーマにしたのが『トーマの心臓』です。完ぺきな善人を目指した神学校の優等生の、挫折と成長を描いた物語です。」と記している[3]。なお、ユーリは作品のラストでシュロッター・ベッツから神学校に転校していくので(作品中ではまだ神学校の生徒にはなっていないので)、その点で萩尾の記述には混乱が見られる。

連載初回の読者アンケートが最下位だったため、編集長から打ち切りを要請された。萩尾が「せめて1ヵ月見て下さい」と言っているところ『ポーの一族』の単行本初版3万部が3日で完売したため、編集部は「すぐに『トーマの心臓』を打ち切って週刊『少女コミック』に『ポーの一族』の続きを描かせろ」「『トーマの心臓』は月刊の『少コミ』に移し、すぐ週刊の『少コミ』に『ポーの一族』を連載させろ」「(『ポーの一族』の)単行本が売れているのなら、このまま『トーマの心臓』の連載を続けさせてもいいではないか」等の意見が入り乱れ、最後の意見に賛同する萩尾が「『トーマの心臓』を終えたら『ポーの一族』の続きを必ず描きます」、「もう少しで終わりになるから」とかわしているうちに『トーマの心臓』のアンケートも5位か6位に上がり、編集の態度もかなり軟化して、連載は最終回の33回まで続くこととなった[4]

番外編に「訪問者」「湖畔にて - エーリク 十四と半分の年の夏」、姉妹編に『11月のギムナジウム』「小鳥の巣」(ポー・シリーズ)がある。
あらすじ

ある雪の日、シュロッターベッツ高等中学(ギムナジウム)の生徒であるトーマ・ヴェルナーが陸橋から転落死する。

クラス委員のユリスモール・バイハン(ユーリ)は成績優秀で品行方正、常に冷静な少年で、同級のオスカー・ライザーと二人で舎監室に暮らし、寮生の管理監督の役目も受け持っている。

そのユーリのもとにトーマからの手紙が届く。「ユリスモールヘ さいごに」で始まる短い遺書によって、事故死とされていたトーマの死が自殺であること、トーマが死を選んだ理由が自分自身にあることを知ったユーリはショックを受ける。

トーマは誰からも愛される美少年だったが、同級のアンテにそそのかされてどちらがユーリを「おとせる」か賭けをし、そのことを知ったユーリが皆の前でトーマを厳しい言葉で拒絶したという過去があった。

手紙によってトーマが自分を愛していたことを改めて知ったユーリだったが、トーマが死んだ陸橋でその遺書を引き裂き、彼の愛を拒絶する。ところがその直後、トーマとそっくりのエーリク・フリューリンクが転校生としてギムナジウムにやってくる。ユーリはエーリクにトーマを重ねてしまい、彼に対して怒りや憎しみをあらわにする。美しい母親の愛情を浴びて経済的にも何不自由なく育ったエーリクは他者の愛を素直に受けることをしないユーリの冷ややかな心を訝しむ。

そこにエーリクの母が事故死したという知らせが入り、無断外出してケルンの自宅に帰って悲しみにくれるエーリクをユーリは連れ戻しに行く。シュロッターベッツへ戻る旅の中で二人は次第に心を通わせていくが、途中の乗り換え駅で八角眼鏡の若者に声をかけられたユーリは表情を曇らせる。サイフリートというこの若者はもとシュローターベッツの生徒だったが、休暇中に学校に残っていたユーリにひどい暴力を加え、神よりもサイフリートを愛していると無理矢理言わせる事件を起こし、退学処分を受けていた。当事者の他には校長や校医、オスカーなど少数の者しか知らない秘密となっているこの事件によって、ユーリは愛を信じることのできない人間になってしまっていたのだった。

トーマの死が自殺だったこと、ユーリの背中にひどい傷跡があることなどを知ったエーリクはユーリへの愛を自覚し、彼の心を開こうとする。エーリクの母親と再婚してエーリクの義父となったシュヴァルツがギムナジウムを訪れ、一緒に暮らそうと提案するが、エーリクはユーリの信頼を得るまで待ってくれと答える。

かたくななユーリはなかなか心を開こうとしなかったが、エーリクのひたむきな働きかけによって、トーマの自分への愛と遺書の本当の意味、自分も本当はトーマを愛していたことに気づき、これまで秘密にしてきたことのすべてをエーリクに打ち明ける。そして、神がどんな人をも愛していることを悟ったユーリは神父となるために神学校へと転校していく。
登場人物
シュロッターベッツの生徒
ユリスモール・バイハン / ユーリ
シュロッターベッツ高等部1年。14歳。品行方正で成績優秀。皆から「委員長」と呼ばれ、信頼されているが、ある事件以来心を閉ざしている。トーマのことを愛していたが、自分には資格がないと思い手ひどくふってしまう。
南欧系の外貌を持っているため自宅では祖母に疎まれ、自分に向けられる差別に対抗して優等生であろうとしている。
トーマ・ヴェルナー
シュロッターベッツ中等科4年。13歳。「フロイライン(お嬢さん)」と呼ばれ、誰からも愛される生徒だったが、ユーリを救うために自殺する。
エーリク・フリューリンク
シュロッターベッツ高等部1年。14歳。「ル・ベベ(フランス語で赤ちゃん)」と呼ばれるほど自由奔放で世間知らずだが勘のいいところもある。母親とずっと2人暮らしだったためマザーコンプレックスだった。トーマが死んだ直後にシュロッターベッツに編入したが、トーマとうりふたつの容貌であったため校内で大きな話題を呼ぶ。
オスカー・ライザー
シュロッターベッツ高等部1年。15歳。シュロッターベッツに預けられる前は父親と旅をしていたため、1年遅れて編入している。不良っぽいが兄貴肌。ミュラー校長が実の父であり、そのことが原因で父親が母親を殺害し、その父親も既に死んでいることを察している。ユーリとともに舎監室に住み、ユーリを見守っている。
サイフリート・ガスト
前年にシュロッターベッツ高等部を放校された不良生徒。素行が悪いが頭の切れる悪魔的な魅力を持っていた。己の主義の実証のためにユーリの心身に深い傷を負わせる。八角メガネが特徴。
アンテ・ローエ
シュロッターベッツ中等科4年。13歳。オスカーのことが好きで、オスカーからユーリを引き離そうと、トーマとどちらがユーリを落とせるか賭けを提案した。
レドヴィ
シュロッターベッツ中等科4年。13歳。盗癖がある。トーマがユーリにあてた詩を見つけていた。
ヘルベルト、アロイス
シュロッターベッツ高等部1年。14歳。ユーリとは常に対立しているが、ユーリを信頼している。
リーベ、アーダム
シュロッターベッツ高等部1年。14歳。ユリスモール親衛隊。
ホセ
シュロッターベッツ高等部3年。16歳。暴力的な性格。時計を盗まれたことからレドヴィにしつこく付きまとう。
バッカス、シャール、ヘニング
シュロッターベッツ高等部の最上級生。毎週土曜日の午後に「ヤコブ館のお茶会」を主催している。トーマはこのお茶会の常連だった。
シュロッターベッツの教職員
ルドルフ・ミュラー
シュロッターベッツ・ギムナジウムの校長。オスカーの実父。ライザー夫妻とは大学時代の旧友。オスカーを養子にしたいと思っているが言い出せない。
ブッシュ先生
シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。
古典(ラテン語)担当。大変厳しい先生。
ホーマン先生
シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。化学担当。元ヨハネ館の舎監。
保健の先生
校医[注釈 4]。校長からの信頼も厚い。ユリスモールの傷のことを心配している。
その他
マリエ・シュヴァルツ
エーリクの母。エーリクと2人で暮らしてきた。恋多き女性であったが、エーリクの編入後、再婚した夫ユーリ・シドとともに事故にあい亡くなる。
ユーリ・シド・シュヴァルツ
マリエの再婚相手。マリエとともに事故にあい、片足を切断。エーリクの卒業後、彼を引き取る。
アルフォンヌ・キンブルグ
エーリクの弁護士。
マクス・ドッドー
ユーリ・シドの友人で医師。ユーリ・シドがエーリクに会いに行く際に同行する。
ロジェ・ブラウン
エーリクの実父。
グスタフ・ライザー
オスカーの父。妻を殺害したあと、オスカーを連れて逃亡。シュロッターベッツ・ギムナジウムにオスカーを預けて南米に旅立ったが、おそらく死亡しているとオスカーは言う。
ヘレーネ・ライザー
オスカーの母。長く夫との間に子供ができず、ミュラー校長との間に子供をもうけるが、そのことが原因で夫に殺害される。オスカーを溺愛していた。オスカーはヘレーネそっくりの顔をしている。
シェリー・バイハン
ユーリの母。
ユーリの父
ギリシアドイツ人。事業に失敗し多額の借金を残して亡くなる。
ユーリの祖母
娘の結婚には反対だった。金髪碧眼の者を好む。南欧系の特徴を持つユーリを嫌っている。
エリザベート・バイハン
ユーリの妹。8歳。体が弱い。ユーリとは違い、金髪であるため、祖母からはかわいがられている。
ベルンハルト・ヴェルナー
トーマの父。元シュロッターベッツ・ギムナジウム教諭。
アデール・ヴェルナー
トーマの母。エーリクの実父のいとこ[注釈 5]
トーマの兄
トーマの兄。トーマとはそれほど年が離れていない。
番外編
湖畔にて - エーリク 十四と半分の年の夏

『トーマの心臓』の後日譚。『ストロベリーフィールズ』(新書館1976年11月)に書き下ろされた。
あらすじ(湖畔にて)

ユリスモール・バイハンが転校してすぐの夏休み、エーリク・フリューリンクは義父のユーリ・シド・シュヴァルツと湖畔で過ごしていた。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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