写真の撮影技法については「口径食」をご覧ください。
矩形ポテンシャル障壁を越える量子トンネル。トンネル抜け前後で粒子のエネルギー(波長)は変わらないが確率振幅は減少する。
トンネル効果(トンネルこうか、英: tunnelling effect)は、量子力学において、波動関数がポテンシャル障壁を超えて伝播する現象である。
20世紀初頭に予言され、20世紀半ばには広く認知される物理現象となった[1]。トンネル効果は、ハイゼンベルクの不確定性原理と、物質における粒子と波動の二重性を用いて説明できる。
トンネル効果は、原子核崩壊や核融合など、いくつかの物理現象において欠かせない役割を果たしている[2][3]。また、トンネルダイオード[4]、量子コンピュータ、走査型トンネル顕微鏡、フラッシュメモリなどの装置において応用されているという意味でも重要である。 1901年、ロバート・フランシス・イアハートは、電極間の距離を測定することができるマイケルソン干渉計を用いて、非常に近接した電極間における気体の電気伝導性を研究していたところ、予想に反して大きな電流が流れることを発見した。1911年から1914年にかけて、当時大学院生であったフランツ・ロターは、イアハートの手法を応用して、電極間の距離を制御及び測定する方法について研究した。ロターは、感度の高い検流計を用いて、電極間を流れる電流を測定することにより、電極間の距離を測定する方法を発案した。1926年、ロターは 26 pA(ピコアンペア) の感度をもつ検流計を用いて、高真空の環境下において、近接させた電極間を流れる電流を計測した[5]。 トンネル効果に係る理論は、放射能及び原子核物理学の研究によって発展した。フリードリッヒ・フントは1927年、二重井戸ポテンシャル
歴史
マックス・ボルンは、ガモフのセミナーに参加した際に、トンネル効果が原子核物理学の範囲内に留まらず、もっと普遍的な現象であることに気付いた[1]。その直後、両グループは、トンネル効果によって粒子が原子核に取り込まれることについて考察した。1957年までに、半導体の研究とトランジスタやダイオードの開発を通じて、電子のトンネル効果が広く認知されるようになった。江崎玲於奈、アイヴァー・ジェーバー、ブライアン・ジョゼフソンは超伝導性クーパー対のトンネル効果を予言し、1973年のノーベル物理学賞を受賞した[1]。2016年、水の量子トンネリング(英語版)が発見された[11]。
基礎トンネル効果とそのSTMへの応用を図示したアニメーション電子波束がポテンシャル障壁とぶつかる様子。右側へ抜ける淡い点がトンネル抜けをした電子を表わす。障壁を越える量子トンネル。原点 (x=0) に非常に高く狭いポテンシャル障壁が存在する。顕著なトンネル効果が見られる。
トンネル効果は、非常に微細な領域で発生する現象であるため、我々が直接知覚することはできない。また、古典力学では説明することができず、量子力学により取り扱う必要がある。
例えば、ポテンシャル障壁に向かっている粒子を、丘を転がり上がるボールに喩えて考えた時、古典力学においては、障壁を乗り越えるだけのエネルギーを粒子が持っていない限り、粒子は障壁の向う側には到達できない。つまり、丘を乗り越えるだけのエネルギーを持たないボールは、途中で止まり丘を転がり落ち戻っていく。別の喩えを用いれば、壁を貫通するだけのエネルギーを持たない銃弾は跳ね返されるか、壁の中で止まる。ところが、量子力学においては、ある確率で粒子は障壁を貫通する。この場合、「ボール」は環境からエネルギーを「借りて」丘を乗り越え、反射電子のエネルギーを高くすることによってそれを返済する[12]。
このような違いは、量子力学における粒子と波動の二重性に起因する。この二重性により導かれるハイゼンベルクの不確定性原理によれば、粒子の位置と運動量は確定することができない[6]。