カナダ、バンクーバーのトロリーバス。写真は、試験走行中のもの。ハンガリー、デブレツェン市の低床トロリーバスポーランド、グディニャ市を走る旧式のトロリーバス。バス上部の2本の棹のような物がトロリーポール。北朝鮮、平壌駅前のターミナルを走るトロリーバス
サンパウロのトロリーバスは、1990年代に解体されて代替車に交換されるまで使用されていた。一部は保存され、その他はSPの首都の南で稼働していた。
トロリーバス (英語: trolleybus, trolley bus, trolley coach)とは、道路上空に張られた架線(架空電車線)から取った電気を動力として走るバスを指す。「トロリー」とは、集電装置の先端に備わる「触輪」のこと。外観も操縦法も普通のバスに近い。略してトロバスとも呼ばれ、日本語では無軌条電車(むきじょうでんしゃ、英語: trackless trolley, trackless tram)と訳される。
日本では、かつて都市部の路上で運行されていた当時は軌道法、その後は鉄道事業法に準拠する交通手段として、鉄道車両に分類されている。電気バスも同じく電気で走るが、架線からの集電装置がなく、法律上は自動車扱いとなることからトロリーバスには含まれない。
概要架線交差部を通過するトロリーバス(チェコ、2006年)
トロリーバスは路面電車とバスの特徴を兼ね備えた交通機関で、排気ガス(排出ガス)が発生しない、軌道を敷設する必要がない、などの長所を持つ。しかし、進路上に障害物があってもトロリーポール(集電装置)の可動範囲を超えた操向ができず、通常の運転でも稀にトロリーポールが架線から外れるトラブルが起こることもある。架線が分岐・交差する個所ではトラブルが起こりやすく、その手前では減速する必要があり、後続車列で充分な車間距離が保たれていないと交通渋滞を招く[注釈 1]。現在は自動車交通量の増加に加え、性能が高いディーゼルエンジンやハイブリッド方式の大型路線バスの出現とともに廃止が進んでおり、日本では市街地を走るトロリーバス路線は全て廃止されている。世界的にはソ連の影響下で都市計画を行った社会主義国・旧社会主義国の都市には今も多く残されている。さらにカナダなどの水力発電による豊富で安価な電力が安定して供給される地域、日本の黒部ダムのような観光地でも利用されている。
給電用の架線が張れない場所で走行するための小排気量の補助エンジンを持つものもある。このエンジンは発電用ではなく、車両を直接推進するために用いられ、日本でもかつて都営トロリーバスで、電化された鉄道の踏切を渡るために使用するものがあった。最近では、ディーゼル発電機を搭載したハイブリッド方式や蓄電池を搭載した車両が開発され、架線がない道路でより長距離を走行できるようなものもある。中国 北京市では、王府井の繁華街の景観対策や長安街の横断対策(建国記念日である国慶節や節目の年には大規模な軍事パレードがあるため、架線を張ることができない)に利用されている。
構造トロリーバスの後部。リトリーバーが設けられている(セルビア、GSPベオグラードの車両)。外れたトロリーポールを掛け直す運転手(北京市、2011年)
道路上の架線(トロリーワイヤ = trolley wire)から棹状の集電装置(トロリーポール = trolley pole)を用いて集電して電動機を回し、動力とする。このトロリーから集電して走ることから「トロリーバス」と呼ばれる。トロリーポール先端部の架線と接触する部分は、ごく初期においては路面電車と同様な滑車(トロリーホイール = Trolley wheel)が用いられたが、トロリーバスは道路状況によっては架線の直下を大きく外れて走る必要があるため、滑車では架線との角度が大きくなった場合の追従性が不十分であり、U字断面で自由に回転できるスライダー(摺り板)式が開発され、普及した。
タイヤは普通の自動車と同じゴムタイヤである。外観も屋根上のトロリーポール以外は普通のバスとほぼ同じ[注釈 2]だが、動力源や主制御器は電車に等しい。ただ、普通の電車と違って線路にアース(帰電)させることができないため、架線は+と-の2本で、2本のトロリーポールをそれぞれ並行する架線に当てている。
トロリーポールと架線のそれぞれの剛性やトロリーポールの遠心力の問題から、カーブを曲がる時などに速度を出しすぎたり、急カーブを切ろうとすると、しばしばトロリーポールが架線から外れてしまうことがあり、その場合は一旦車両を停止させ、乗務員(運転士や車掌)が車両の後ろに回り、トロリーポールのケーブルを引っぱって、架線にトロリーポールを掛け直す必要がある。架線を外れたポールが跳ね上がって吊線(スパン ワイヤー)を切断することを防止するため、離線時のポールの上昇を防止するキャッチャーや、ぜんまいばねの働きで引きひもを巻き取り、ポールを下降させるリトリーバー(レトリーバー)[1]が車体後部に設けられている。また離線をしなかった場合でも、車線を間違えた場合や、わずかなトロリーポールの揺れ等で、行くべき方向と異なる側の架線に繋がってしまった場合も、手動でトロリーポールを下ろして正規の架線に繋ぎ戻す必要がある。
なお、前述の理由で離線した時に安全で交通の妨げにならない場所まで車両を移動するとき、部分的に架線を取り付けることのできない区間(鉄道の電化区間にある踏切など)を走行するとき、道路工事、事故、火災、災害などで本来の路線の道路が通行止めになった際、一時的に路線外の道路を使用して迂回するときなどのため、補助エンジンやバッテリーを搭載している車両が主流になっている。また、かつては車体の絶縁技術が不十分であったことから、しばしば漏電を起こして乗客や運転士が感電することもあった。 鉄道における気動車に対する電車の優位性と共通する点が多い。
類似交通機関との比較
鉄輪式の路面電車との比較
長所
軌道が不要。
その建設やメンテナンスが不要。
歩行者や他の乗り物にとって邪魔な段差が無い。
ある程度障害物を避けられる。
前輪の方向を変えて曲がる(ステアリング)ため、急カーブでも走行できる。
ゴム製タイヤで走行する利点。
沿線への振動や騒音が少ない。特に急曲線通過時や制動時に発生する「きしり音」がない。
急勾配でも登り降りができる。
路面との摩擦係数が大きく加減速性能が高い。
短所
空気入りゴムタイヤは転がり抵抗が大きいため、消費電力が多い。
トロリーポール集電のため電車線分岐・収束部の構造が路面電車より複雑で、故障やポール逸脱も起きやすい。
ゴム製のタイヤのため、鉄輪に比べ磨耗が速く、交換周期が短い。
鉄輪式と異なり、アース(帰電)対策が別途必要となる。
混合交通となる道路を利用するため、右左折時の交差点支障時間などの理由で、長編成化に限度がある。
バス(内燃車)との比較
長所
エンジンと変速機が必要ないため車両が安い。
電動機で走行するため、内燃車のような排出ガスがない。
走行用の重いバッテリーを積まなくてよい電気自動車(BEV)のようなもので、(発送電も含めて)総合的な二酸化炭素排出量が少ない。
電動機で走行するため、燃料や冷却水の搭載や補給が不要で、電気バスのような充電も不要で運転費が安く済む。