ビブラート・ユニットとは、一部のエレクトリックギターに搭載されている音程を連続して上下させる機構のこと。 エレクトリック・ギターのブリッジやテイルピースの位置を連続的に変える(揺らす)ことで音程を連続的に上下させること(ビブラート)を可能とした装置である。フェンダー・ストラトキャスターなどのように標準状態で搭載されている場合もあれば、後付けで搭載される場合もある。 ビブラート・ユニットには金属製の棒や細長い板(アーム)が装着されており、これを手で操作する(アームダウン、アームアップ)ことで、ギターのブリッジやテールピース(あるいはその両方)の位置が連続して変わり、その結果として弦の張力が変化し、音程も変化する。 ビブラート・ユニットにはチューニングが安定しないなどの欠点があるものの、他の奏法では実現できない効果が生まれるため、欠点を補って余りある魅力がある。 この装置の名称は学術的に定められているわけではなく、多様な呼び方が存在する。 操作部(アーム)の名称から、単に「アーム」といった呼び方をされる場合もある。また「ワミーバー(Whammy Bar)」などといった呼称も存在する。 後段で説明する「シンクロナイズド・トレモロ・ユニット」のように、ビブラート・ユニットを「トレモロ・ユニット」あるいは「トレモロ・アーム」などと呼称することも多い。これはフェンダー社が自社のビブラート・ユニットに、トレモロという言葉を誤用して付けたためと言われている[1]。「トレモロ」とは本来「音量を連続して細かく大小させる演奏法」のことであり、音程を連続して変化させることではない。音程を連続して変化させることは「ビブラート」と呼ぶ。 主に、フェンダー・ストラトキャスターに取り付けられているビブラート・ユニット。 従来から存在していた「ビグスビー」(後段で説明) などに比べると、音程の変化の幅が非常に大きく、チューニングの狂いも少ない。これはユニット全体の可動幅が大きく、しかも弦を固定するテールピースと弦長を決めるブリッジが一体になっているためである(ビグスビーなどはブリッジが固定されテールピースのみが動く)。 後段で説明するロック式トレモロも、大半はシンクロナイズド・トレモロの発展改良版と言えるもので、主にユニットがかかえる細かい欠点を改善したものが多い。 本来はフローティング状態(ユニットがボディから浮いた状態)が基本だが、ユニット裏面のスプリングを締めることで、ユニットをボディに密着させることも可能。ボディに密着させてアームを取り外せば、ビブラートユニットがないのと同じ状態になり、チューニングの狂いなどビブラートユニットの欠点をほぼ解消できる。フローティング状態にしかセッティングできないビブラートユニットも多い中、これもシンクロナイズド・トレモロの大きな利点と言える。 1960年代後半に登場したジミ・ヘンドリックスが大胆な使用法を発案し、シンクロナイズド・トレモロの人気は一気に高まった[2]。ヘンドリックスのような大胆な用い方をすると、どうしてもチューニング(調弦)が安定しなくなってしまうが、後年開発されたロック式ペグやローラー式ナットにより、こうした問題もある程度改善された。 アームがねじ込み式になっており、アームのねじ山が常に直接ブロックに当たっているためブロックのアーム穴が消耗するという欠点がある。長年使いこまれたブロックはねじ山がすり減り、アームが外れてしまう場合も多い。近年ではアーム穴の淵にクッション加工したものが流通している。 「シンクロナイズド・トレモロ・ユニット」はフェンダー社(フェンダーUSA、フェンダー・ジャパンなど)の商標で、主にストラトキャスターに取り付けられている(それ以外にもフェンダー社製の一部のギターにシンクロナイズド・トレモロが採用されているモデルがある)。フェンダー社製ギター以外に取り付けられたものをシンクロナイズド・トレモロ・ユニットと呼ぶことはないが、後藤ガット社のGE101/102シリーズなど、外見も仕様も全く同一の他社製品も存在する。またギター部品商社のオールパーツ・ジャパン アメリカン・スタンダードなどのモデルにはシンクロナイズド・トレモロを発展させた「アメリカン・スタンダード・トレモロ」が装着されている。シンクロナイズド・トレモロは、ユニット揺動の支点が6本の木ネジになっており、支点の位置が明確に定まらず、摩擦抵抗も大きい。それに対してアメリカン・スタンダード・トレモロは、ユニット揺動の支点が左右2つのアンカーになっており、ユニットとアンカーの接触部が鋭角に成型されているため、支点の位置が明確で摩擦が少なくなっていて、チューニングの安定度も向上している。 1940年代、ポール・ビグスビーによって開発された。ビブラート・ユニットの元祖的位置付けにある。ビグスビー社によって製造されており、主にグレッチ、ギブソンの一部のギターに採用されている。また、フェンダー社のテレキャスターにもビグスビーが搭載されているモデルがある。現在、ビグスビーはフェンダーの子会社となっている。 ギター本体に切削などの大きな改造を施すことなく後付けできる点が長所。また見た目がクラシカルでファッショナブルなため、その点でのファンも多い。 後に登場したシンクロナイズド・トレモロなどに比べると、ビブラート効果はソフトである。シンクロナイズド・トレモロなどに比べ音程の変化幅が狭く、チューニングの狂いも起きやすい。これは可動部がテイルピース(弦の後端を固定する部分)だけで、ブリッジ(弦長を決める部分)は固定されており、ブリッジと弦との摩擦が大きいのが原因である。チューニングの狂いは、ブリッジの脚にたわみを設けたり、ローラー・ブリッジに交換したりすることで、ある程度までは解消できる。 フラット・トップ用のテンションバーはB5、アーチド・トップ用テンションバーありはB7、テンションバーなしはB3という名称となっている。 フェンダー・テレキャスター用に製作されたB16やフェンダーが発売しているアッセンブリがセットになったビグスビー・トレモロ(ビグスビー製品にもトレモロと名付けている)も存在する。B16はテレキャスターに取り付ける際にネックやザクリ調整を行う必要があると公式ページに記載されている。 ユニットの爪にボールエンドの輪をはめて弦を張るため、フェンダーなどのブレットタイプのボールエンドの弦では使用できない。弦を張るとアームがボディ側へ下がる(フローティング状態になる)。アームが下がった分はアーム・アップできる。 1958年に発表されたフェンダー・ジャズマスター用に開発されたもので、1961年発表のベースVI、1962年発表のジャガーにも採用されている。アームの操作でテイルピースが動くのだが、それに合わせてブリッジも動き、チューニングの安定度を高める仕組みである。ブリッジの脚の先の尖ったネジが、ボディに打ち込まれたすり鉢状のアンカーの底に点で接しており、アーミングに伴って揺動するという仕組みである。ブリッジが固定されていない(フローティング状態)ことが名称の由来である。 アームの装着方法はシンクロナイズド・トレモロのねじ込み式に対し差し込み式となり、着脱がより容易になった。アームを使わない際にテイルピースを固定するトレム・ロックという機構を備えているが、ライト・ゲージには対応しておらず、現在ではその機構が使用されることはほとんどない。その操作ボタンは、バズ・ストップ・バー(弦落ちを防いでサステインを稼ぐ他社製パーツ)の取り付け台座にされることが多い。 シンクロナイズド・トレモロなどに比べアーミング操作が非常に軽いのが大きな特徴であり、繊細なビブラート効果を得やすい。またアームの動きが柔らかいため、クリケット奏法(アームを叩くなどして微振動を起こし独特のサウンドを得る)にも向いている。ブリッジとテールピースの距離が長いため、その部分の弦を弾く奏法(ブリッジ外奏法)も行いやすい。 フェンダーが1964年に発売したムスタングのダイナミック・ビブラート
目次
1 概説
1.1 名称について
2 シンクロナイズド・トレモロ・ユニット
3 ビグスビー・トゥルー・ビブラート
4 シンクロナイズド・フローティング・トレモロ
5 ダイナミック・ビブラート
6 マエストロ・ビブラート・ヴァイブローラ
7 コロナド・トレモロ
8 モズライト・ビブラミュート
9 フロイド・ローズ
10 トランストレム
11 ケーラー
12 シャーラー
13 ステッツバー
14 脚注
15 参考文献
16 関連項目
概説
名称について
シンクロナイズド・トレモロ・ユニット Fender Squier Stratocasterに取り付けられている、トレモロ・ユニット
ビグスビー・トゥルー・ビブラート グレッチ・G6122-1962・チェット・アトキンス・カントリー・ジェントルマンに取り付けられたB3
シンクロナイズド・フローティング・トレモロ