トレハロース
IUPAC名
(2R,3S,4S,5R,6R)-2-(Hydroxymethyl)-6-[(2R,3R,4S,5S,6R)-3,4,5-trihydroxy-6-(hydroxymethyl)oxan-2-yl]oxyoxane-3,4,5-triol
別称α,α‐Trehalose; α-D-glucopyranosyl-(1→1)-α-D-glucopyranoside
識別情報
CAS登録番号99-20-7
203℃(無水物)
97℃(二水和物)
水への溶解度68.9g/100g H2O(20℃)[1]
溶解度エタノールに可溶、ジエチルエーテルおよびベンゼンに不溶[2]
比旋光度 [α]D+199(c = 5、水、20℃)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。
トレハロース(trehalose)とはグルコースが1,1-グリコシド結合してできた二糖の一種である。1832年にウィガーズがライ麦の麦角から発見し[3]、1859年、マルセラン・ベルテロが象鼻虫(ゾウムシ)が作るトレハラマンナ(マナ)から分離して、トレハロースと名づけた[4]。
ブドウ糖が二分子結合した糖であり、餅や団子などが時間とともに硬くなるのを抑制する効果(老化防止)が強く、多くのデンプン系食品に使われている。
また、熱や酸に対する高い安定性や保湿作用、タンパク質の変性抑制作用も有していることから、種々の加工食品に応用されている。
1995年以前は貴重な糖であり、キノコからの抽出が難しく、価格も1kgあたり3?4万円と高価だったが、岡山県のバイオ企業株式会社林原が[5]、デンプンからトレハロースを生成する微生物を発見し、価格を.mw-parser-output .frac{white-space:nowrap}.mw-parser-output .frac .num,.mw-parser-output .frac .den{font-size:80%;line-height:0;vertical-align:super}.mw-parser-output .frac .den{vertical-align:sub}.mw-parser-output .sr-only{border:0;clip:rect(0,0,0,0);height:1px;margin:-1px;overflow:hidden;padding:0;position:absolute;width:1px}1⁄100 に下げることに成功した。
食品以外に化粧品、飼料、工業用途に広がっている。また、耐糖能改善効果、神経変性疾患抑制効果など、多様な生理機能が報告されている。目次 トレハロースは2つのα-グルコースが1,1-グリコシド結合してできた二糖類である。還元基同士が結合しているため還元性を持たない。
1 構造
2 物理的性質
3 化学的性質
4 生物学的性質
4.1 所在
4.2 クリプトビオシス
5 生産・製法
6 用途
7 関連研究
8 脚注
9 関連項目
10 外部リンク
構造
物理的性質
常温常圧で白色の粉末状の結晶。
20℃において、100 gの水に68.9 g溶解する。
スクロース(蔗糖)の約45%の甘味を持つ。
カラメル化が起きにくい。
化学的性質
還元性 - 非還元性である。
分解性 - トレハラーゼ (trehalase
生物学的性質
所在・トレハラーゼによってブドウ糖(グルコース)に変えて利用している。また、スズメバチとその幼虫の栄養交換液の中にもある。
昆虫の血糖としてのトレハロース濃度は、400-3,000 mg/dL(10-80 mM)の範囲にある[6]。この値はヒトのグルコースとしての通常の血糖値100-200mg/dLに比べてはるかに高い。この理由の一つとして、トレハロースがタンパク質に対して糖化反応を起こさずグルコースに比べて生体に有害性をもたらさないためである[7][8]。
植物ではひまわりの種子、イワヒバ、海藻類などに含まれている。また菌類では椎茸、シメジ、マイタケ、ナメコ、キクラゲなどキノコ中に乾燥重量当たり1-17%もあって別名マッシュルーム糖ともいわれる。その他に、パン酵母や酒酵母などの微生物にも含まれている。
ヒトはトレハロースを生合成しないが、小腸と腎臓はトレハロース分解活性を有し、トレハロースをグルコースに分解し消化吸収することができる[9]。
クリプトビオシス(かんみん)する。この一見死んだように見える状態をクリプトビオシス(cryptobiosis)と呼ぶ。そして水分を得ると復活して活動を開始する。このほかにもネムリユスリカの幼虫・アルテミア(シーモンキー)の卵などが、乾燥状態に耐えられるのも細胞内にトレハロースを蓄えるからと考えられている。
植物においても砂漠や山岳地帯に生えているイワヒバはトレハロースを有することで乾燥してカラカラになっていても雨が降ると青々と復活するため、「復活草」とも呼ばれている。また、干椎茸がよく水で戻るのもトレハロースを含有するためと言われている。
こうしたクリプトビオシスの時の生体内でのトレハロースの作用機序は、分子の運動を制限する状態を維持するガラス転移説と水の代わりに入り込む水置換説やそれらの作用が複合的に関与しているとも考えられている。だが、クリプトビオシスを行う生物すべてがトレハロースを蓄積するわけではないため、トレハロース以外にもクリプトビオシスの成立にとって重要な物質が存在することを示している。 酵母を培養し抽出する製法が行なわれていたが、1kgあたり5万円と高価であるため、一部の化粧品・試薬にしか使用されていなかった。 そのため、各種の製造法の開発競争が行なわれていたが、1994年に岡山のデンプン糖化メーカーである林原の丸田和彦らが、従来不可能といわれていたでん粉からの安価な大量生産法を確立し、その翌年より、従来の約100分の1の価格である1kg数百円で発売を開始した[10]。
生産・製法