トリプルボトムライン
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トリプルボトムラインの図解

トリプルボトムライン(英語: triple bottom line、TBL、3BL)とは、社会的側面・環境的側面(環境保護的)・経済的側面の3つの軸で評価する、会計フレームワークである。一部の組織は、より大きなビジネス価値を生み出すために、TBLフレームワークを採用してより広い視点でパフォーマンスを評価している[1]。ビジネスライターのジョン・エルキントン(英語版)が1994年に作り出した造語だとされる[2][3]
背景

従来の企業会計と一般的な用法では、「ボトムライン」とは「利益」か「損失」のどちらかを指し、通常は損益計算書の最下部に記録されるものである。過去50年間以上にわたり、環境保護主義者社会正義の擁護者たちは、フルコスト・アカウンティング(英語版)を導入することにより、ボトムラインのより広い定義を公共の意識に持ち込むために奮闘してきた。例えば、金銭的に利益を上げている企業が保有する、石綿症で何千人もの死者を出すアスベスト鉱山と河川を汚染する銅山があったとして、政府がこれらのために医療や河川の浄化に税金を使ってしまうとしたら、どのようにして社会的費用便益を完全に分析するのだろうか?トリプルボトムライン(TBL)では、さらに社会的、環境的(生態学的)事項という2つの「ボトムライン」が追加される[4]。2007年初頭の都市およびコミュニティ会計のための国連およびイクレイのTBL標準の批准により[5]、これは公共部門のフルコストアカウンティングへの主要なアプローチとなった。同様の国連基準は、エコロジカル・フットプリントを報告するためのエコバジェット標準のように、自然資本人的資本の測定に適用され、TBLが必要とする測定を支援する。1990?2008年の主要紙の世界的な横断調査によると、TBLの使用は、南アフリカのメディアでかなり普及している[6]

TBLを試みる組織の例としては、「失業者」というレッテルを貼られた障害者にリサイクルによって生計を立てる機会を提供することで収入を得ている、非営利団体として運営されている社会的企業が挙げられる。組織は利益を上げ、それを地域社会に還元する。この場合の社会的利益は、障害を持つ市民の有意義な雇用と、社会の福祉または障碍者支援費の削減である。そして環境保全上の利点は、リサイクルが達成されることで得られるものである。民間において、企業の社会的責任(CSR)へのコミットメントは、事業の環境負荷と人々に対する実質的なについての公的報告義務のニュアンスを持つ。TBLは、この重要な影響を報告するための1つのフレームワークである。これは、環境問題への対処のみを求められる、限定的な変更とは異なるものである。TBLに、第4の柱、すなわち未来志向のアプローチ(次世代、世代間格差の是正など)を盛り込んで発展させたものを、クォドルプルボトムライン(QBL)と呼ぶ。これは、持続的な発展持続可能性を、以前の社会・環境・経済的考慮から離れて長期的な展望で設定するものである[7]

TBLを実際に導入する挑戦は、社会的、生態学的な分野の測定に関連している。それにもかかわらず、TBLフレームワークにより、組織がより長期的な視点を取り、意思決定の将来の結果を評価することが可能となっている [1]
定義

持続可能な開発は1987年に国連のブルントランド委員会(英語版)によって定義された[8]。TBL会計は、従来の報告フレームワークを拡張して、財務実績に加えて社会的、環境的実績を考慮に入れる。

1981年、社会的企業を最初に提唱したイギリスのFreer Spreckleyは、『Social Audit-A Management Tool for Co-operativeWorking』の中で最初にTBLを明示した[9]。この研究で、彼は、企業は財務実績・社会的な富の創造・環境責任について、測定・報告する必要があると主張した。「トリプルボトムライン」というフレーズは、ジョン・エルキントン(英語版)が書いた1997年の著書 『 Cannibals with Forks: The Triple Bottom Line of 21st Century Business 』 [10]でより完全に表現されている。なお、この著書では序文の冒頭にポーランドの詩人スタニスワフ・イェジ・レック(英語版)の問いかけ「喰人者フォークを使えば、それは進歩か」が引用されている。エルキントンは、競合する企業体が利益の最大化のみならず人や地球問題に取り組むことで相対的な地位を維持しようとする場合には、特に「持続可能な資本主義」はそれは可能であると示唆している。

これらの原則を提唱・公表するトリプルボトムライン投資グループが、1998年にロバート・J・ルービンシュタイン(英語版)によって設立された[11]

企業は、その取り組みを報告するために、以下のような方法でCSRへのコミットメントを示すことができる:

トップレベルの関与( CEO取締役会

政策投資

計画

自主基準への参加

原則(国連グローバル・コンパクト

報告(グローバル・レポーティング・イニシアティブ(英語版)、GRI)

TBLの概念は、企業の責任が株主ではなくステークホルダーに対して負うことを求める。この場合、ステークホルダーとは、会社の行動によって直接的、間接的に影響を受ける者を指す。利害関係者の例として、従業員・顧客・サプライヤー・地域住民・政府機関・債権者などが挙げられる。ステークホルダー理論(英語版)によれば、事業体は、株主(所有者)の利益を最大化するのではなく、ステークホルダーの利益を調整するための手段として用いられるべきものである。ますます多くの金融機関が、トリプルボトムラインアプローチを業務に取り入れるようになっている。例として、国際サスティナブル金融機関ネットワークであるGABV(英語版) は銀行事業の中核をなしている。

デトロイトを拠点にベーカリーを営むAvalon International Breadsは、トリプルボトムラインを「地球」・「地域社会」・「従業員」で構成されていると解釈している[12]
3つのボトムライン

トリプルボトムラインは、社会的公平性、経済的要素、環境的要素で構成される。トリプルボトムラインと持続可能性の目標を表す「人・地球・利潤(英語: "people, planet, and profit"、3P)」というフレーズは、1994年にイギリスのコンサルタントSustainAbilityにおいてエルキントンによって造られたもので[3][10] 、後に英蘭の石油会社シェル最初の1997年サスティナビリティ報告書で用いられた。その結果、オランダは3Pのコンセプトが根付いた国の一つとなった。
人々、社会的公正の収益

人々、社会的平等、ヒューマン・キャピタルのボトムラインとは、企業が事業を行う地域社会や労働者に対して公正で有益な事業を行うことを意味する。TBL企業は、企業・労働者・その他ステークホルダーの利益が相互依存する社会構造を構想するものである。

トリプルボトムラインに打ち込む企業は、多くの関係者に利益を提供もたらすことに注力し、搾取したり危険にさらしたりしないことを目指す。完成品の販売から得られる利潤の一部を、原材料の生産者、例えばフェアトレード農業を実践している農家に還元する「アップストリーミング」は、主要なものである。具体的には、TBL事業は児童労働を利用せず、すべての契約企業の児童労働の搾取を監視し、労働者に公正な給与を支払い、安全な労働環境と許容できる労働時間を維持し、地域社会や労働者を搾取しない。TBL事業は通常、医療教育などで地域社会の活性化と成長に貢献することで「恩返し」を目指す。このボトムラインを定量化することは、比較的新しく、問題をはらみ、しばしば主観的なものになる。GRIは、企業とNGOが同様に事業の社会的影響について比較報告できるようにするためのガイドラインを作成した。
地球、環境ボトムライン

地球、環境ボトムライン或いは自然資本ボトムラインは、持続可能な環境慣行を指す。 TBL企業は、自然の秩序に可能な限り利益をもたらすか、少なくとも害を及ぼさず、環境への影響を最小限に抑えるよう努める。 TBLの取り組みは、とりわけ、エネルギーと再生不可能な資源の消費を注意深く管理し、製造廃棄物を削減し、安全で合法的な方法で処分するだけでなく廃棄物の毒性を低減することにより、エコロジカル・フットプリントを削減する。 「ゆりかごから墓場まで」は、TBL製造業の最重要事項であり、通常、製品のライフサイクルアセスメントを実施して、原材料の算出と採集から製造・流通・最終処分に至るまで、真の環境コストを決定づけるものである。

現在、非分解性や毒性がある製品の処分費用は、政府が財政的に負担し、処分場の近くや他の場所の住民が環境的に負担している。TBLの考え方では、廃棄物問題を引き起こす製品を製造・販売する企業は、社会からフリーライドを与えられるべきでない。


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